248: 三人と私の休日⑤ ~これはサブマスという名の置物~
私は今度こそ納得していた。
「シャーロットさーんっ、ボク悪目立ちしてないっすか!?」
「最小限の動きで回避できてていいよ、コトちゃん! そもそもコトちゃんは囮なんだから、悪目立ち上等って気持ちで行かないと!」
コトちゃんには、私の持つ装備の中でも速さと耐久が多く上がるような物を多く貸した。カブカブからの攻撃を主に避けてもらって、難しいときでもケガになりにくい。
着ぶくれ気味でも動きはもっさりしてないから、なかなかよい。
「コト、そ、その羽根のカチューシャ似合うとる……ぷぷ」
「コト、小鳥みたいでかわいいわよ。……ふ、ふふふ」
速さを上げる装備としてコトちゃんには、ボゥファルコンの羽根付きカチューシャを付けてもらっていた。
弓のように速い動きをするボゥファルコンの羽根を使った装備は、速さが上がる。
前回の召喚石戦では収納魔法から探せなかった装備品だ。いやー、今回見つけられてよかった。
耐久上げには、私がいつも使っているブラックタートルの七分丈のパンツをはいてもらっている。ズボンがずり落ちないように薄いピンクのベルト(こちらは召喚石破壊時使った)も着用してもらった。七分丈なので私より身長が低いコトちゃんでも裾が余らない。
頭からぴょんと飛び出ている羽根が特徴のカチューシャを付けているコトちゃんも「二人だって腕輪のつけすぎで太く見えるからねっ」と怒っていたけど、その動きに連動してぴょんこぴょんこと羽が動いてかわいかった。
そして、そんな動きがより三連人面カブカブの注意を引ける。
「まねシナイデヨぉぉぉ!!」
三連人面カブカブがまた頭の上の葉を薙ぎ払うように攻撃した。
コトちゃんの頭のボゥファルコンの羽根も、回避する際同じような動きをした。
三連人面カブカブはただのオウム返しで人の言葉を真似ると言うけど、本当は意味が分かって使っているのだろうか。
コトちゃんが三連人面カブカブの頭(葉)を真似したので怒っているようにも見える。でもそれは魔物に聞かないとわからないし、意思疎通はできないから無理だろう。とにかく今やることは――。
「三人とも。そんなに装備を外したいならさっさと倒すこと! コトちゃんの動きと合わせて! 特にワーシィちゃんとシグナちゃんは、カブカブの葉っぱの根元を集中的に攻撃して! せっかく魔力が上がっているんだから、もっと大胆に!」
「「「は、はい!!!」」」
私は障壁椅子に座りながら、収納に入っていたノートを筒状に丸めて、それを拡声器として使い指示を出す。
それでも先ほどよりずっと強い攻撃ができているから、ノートを元に戻しつつ私はうんうんと頷き満足していた。
ちなみに今では障壁テーブルも用意して、飲み物やおやつを置いている。
カブカブの根の攻撃がこちらに届かないか気がかりではあったけど、私にはまーったく興味がないようだから置きっぱなしでも平気だ。
「おっ、三連人面カブカブの葉を切り取ったぞ、子供なのにやるー!」
先ほどまで苦戦していた葉をシグナちゃんが切り落としていた。しかも三枚同時に!
指輪を紐に通すという案がうまくいったようだ。
「あの子たちは学園生だよ。で、座ってるのがギルドの受付兼冒険者」
「受付のほうは何回か見てるわ。ところでお前らどっから来たんだ? 俺らは新種の魔物を拝みに商人の護衛で来てんだ。ついでに俺らも見たくってな」
「自分らも似たようなもんだ。西の辺境領から来た」
私の後ろから野次馬が見物しつつ、交流している。
町の入城が滞っている、いや、町に来る人たちが増えているせいで門の前は長蛇の列になっていた。とうとうこの一時停車場にまで列が伸びていた。
新種の魔物見たさで入城希望者が多いようだ。これは明日以降フェリオさんのお仕事が、いやギルドの仕事が全体的に増えそうだ。
こういった野次馬たちがいると、自分の力をうまく出せない子もいるだろうけど、当然彼女たち三人は違う。
元気に「『キラキラ・ストロゥベル・リボン』でーす!」と自分たちをアピールしていた。悪目立ち云々と言っていたのに……。
「そこの馬車ー、もっと端に寄れー!」
衛兵さんはさらに増え、いつもはしない交通整備までしていた。
入城への長蛇の列のせいで増員されたのだろう。
「ぶーーっ、な、なんだい。首と腕が重そうな二人に、派手な鳥みたいな恰好の……! く、っくく。同じ顔がカブカブにも……っ」
「あ、あれ、来たんですか。サブマス……」
一瞬、とうとう衛兵さんも笑ってしまったかと思ったら、良く知る人がお腹を抱えていた。
「わざわざ城壁から出て、どうしたんですか?」
「うちの職員らしき人物が、学園生と三連人面カブカブを戦わせているって聞いてわざわざ見に来たんだよ。人物の特徴を聞いたら、僕のよく知る子たちと同僚によく似ていたからね。どんな無理な戦わせ方をしているのか気になってね」
「そんな、無理やりやらせているみたいな言い方……。人聞き悪いですよ。」
「それから、変な薬を学園生たちに飲ませてないか確認しにね」
「嫌ですよ、サブマス~。私、変な薬なんて使ったことな、……いえ、もう持ってないですよ!」
いけないいけない。「変な薬を使ったことがない」とうっかり言ってしまいそうだったけど、そういえば昨日の午前にサブマスの後遺症を治してしまったことで、変な薬を飲んだということにしておくと決めていたではないか。
「彼女たちに出したのは、こちらのテーブルに載っているジュースとお菓子だけです。あ、ちょうどいいから飲んでいかれませんか? 彼女たちだけで戦いを進めているということをじっくり見ていってください!」
サブマスが来ているなら実にいい機会だ。
倒したあとのポイント分配で彼女たち三人が多くもらえるように、私があまり加勢していないということや、彼女たちの力で戦いを有利に進めているということを見せつけよう。
私は立ち上がり、収納魔法から新しいコップを取り出し、サブマスが座る用の椅子を作った。
「椅子は硬いですけどどうぞおかけください」
「ありがとう。…………うん、普通のジュースのようだね」
「もちろんですよ! お菓子もどうぞー」
「……おや、あのズボンはシャルちゃんのでは? 帽子もリボンも見たことがあるね」
さすがサブマス、目ざとい。
「あのズボンと帽子とリボンはですねー……、貸し出しているだけなんですよ。でも戦闘は彼女たちだけでがんばっているんです。ですから、退治した際のランクポイントは彼女たちのほうを……」
「三連人面カブカブの周りの障壁はシャルちゃんのだよね」
「そうですが……しかしですね、これはわざと天井部分を外していまして、その分彼女たちにがんばってもらっているんです。ほら、コトちゃ……、リーダーの子が目立つ動きで葉っぱの攻撃を誘い出して――あっご覧ください、他の二人が連携して攻撃しているんです!! ――いいよー、三人とも! 今だよ、二人は集中攻撃して、コトちゃんも障壁の角で攻撃して!」
このお菓子も特に変な物は交ざってないようだね、と納得してくれるサブマスに三人のがんばりを見せる。
「シャーロットさーん、見てくれましたか~! って、――わっ」
「コト、まだあと一押しが必要や。なんでそんなに固まって――あ」
「二人とも、このチャンスを棒に振らないで! って、――え」
三人とも後ろを振り返ってしまったので、私の隣の人物に気づいた。
「三人とも、この人はサブマスそっくりな……そう、置物! 置いてあるだけだから戦闘に集中して!」
「……ふうん、学園生が三連人面カブカブと戦うなんて、どうせお手伝い程度しかやってないだろうと思って来てみたけど、どうやら『キラキラ・ストロゥベル・リボン』は中心的に戦闘を繰り広げているようだね」
「そうなんですよー!」
そのときこっちを見ている三人の後ろで何か動いた。
三連人面カブカブが彼女たちが注視していないのをいいことに、根で払おうとしたのだ。
しかし透明な障壁でそれを横からはたいた。
「――シャルちゃん今、彼女たちの後ろで反撃しなかったかい?」
「え、え~?? 何かありましたか?」
本当によく見ていらっしゃる……。
「さ、ここにいるのはしゃべる置物だから、気にしないで早く倒そうね? ――ほらっ、三連人面カブカブは葉の根元に核があるんだから、頭丸坊主のカブカブにどんどん攻撃を入れて! そろそろ終わりにしよう!」
「「「は、はいっ!!!」」」
彼女たちはくるりとまたカブカブに向き合い、攻撃を再開した。
「コトちゃんいいよ。でも避けつつ素早く障壁出して、隙あらばその障壁で攻撃してみて! ワーシィちゃんは氷をもっと大きく先をもっと尖らせるようにイメージして作ってみて! 相手は痺れて嫌がってる感じだから、シグナちゃんはその雷まとった剣でもっと切りつけてみて!」
私はサブマスが見ていることもあって、口だけ出すことに努めた。
召喚石戦は、50~55話です。




