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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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245: 三人と私の休日② ~向かってくるアレは~


「いやー、ボクたちいい仕事したと思わない? むぐむぐ、今日のおすすめサンドおいしいね!」

「せやせや、精一杯頑張った感があるなぁ。もぐっ、ソースが好みや」

「これで壁の岩どころか、主役級に変身ね。こくりっ、スープとサラダも付いてお得だわ」


 私たちは広場が見えるテラス席で昼食を食べていた。

 三人とも「やり切った!」と大層満足気な様子だ。対する私は……。


「つ、疲れた……」


 三人にあれもこれもと止まることなく試着させられ、ぐったりしている。


「それでっ、冒険者ギルドに来た宝石泥棒事件って何っすか!?」

「え……あぁ、そうだったね」

 

 先ほどの試着中、派手でセクシーよりなドレスを選ばれたときに私が「いつぞやの宝石泥棒が着ていたのに似ているから……」と断ったら、三人が大変興味を示した。

 だからあとでその事件について話すことにしていた。


「収納魔法が使える泥棒っすか」

「魔法をそんなことに使ったらあかんわ」

「現行犯で捕まえられてよかったですね」


 これから魔物を一緒に倒しに行くから私たちはもりもりと食べつつ、雑談で盛り上がった。


「ボクたちも収納魔法を使えればなぁって」

「三人のどっちかでええんです」

「手持ちの荷物が減るだけで、ぐっと旅がしやすいですし」


 そういえば三人の荷物は結構多かった。

 私は小さい頃から収納魔法を使えたから荷物についてあまり考えることがなかったけど、やはりジェイミからアーリズまでの旅はそのくらい荷物が必要なのだ。


「収納魔法がないと、大容量収納鞄(マジックバッグ)を手に入れるしかないからね」


 しかしマジックバッグは結構高い。

 お金持ちならいざ知らず、冒険者は稼げるようにならないと買えるものではない。


「三人とも魔力は高いから、確かに誰か一人でも収納魔法が発現できれば容量も多くなるだろうし荷物運びは楽になりそうだけどね……」


 私は三人を見て、それから今まで会った収納魔法所持者のことを考えてみた。


「収納魔法って、保持欲求が強い人が多いかも。あとは盗まれたくないって気持ちが強い人が多いね」


 盗まれたことがある人もだ。そのことがあって「盗まれたくない」という気持ちが強くなることもあるだろう。


「タチアナさんは前のギルドマスターにお酒を盗られてから使えるようになったって言うし、私の場合は小さい頃に母親から盗ま……」


「――お、お話があります!!」


 そのとき、テラス席の横の道から大きな声が響き、私たちどころかテラス席全員の会話がさえぎられた。

 私たちは思わずその声の発生元に注目する。

 男性の騎士と、似たような年頃の女性が見つめ合っていた。


「昨夜、君のためにがんばってみました! このグラスアミメサーペントの皮、欲しがっていただろう?」


 テラス席にはお客さんが埋まっているのに、二人は気にせず自分たちの世界を作っている。男性の方はやけに緊張しているようだ。

 そして女性にグラスアミメサーペントの皮を差し出しつつ、ひざまずいた。


「このグラスアミメサーペントの皮を受け取ってほしい。結婚してくれないか!?」

「私が、グラスアミメサーペントの皮が欲しいって言ったの、覚えてくれていたのね……っ」


 こんな真っ昼間に何をしているのか……。というか、昨夜確かグラスアミメサーペントの皮の所有権を主張していた騎士さんがいたっけ。この人だったのかな。

 衆目の中心で愛を叫ぶアルゴーさんみたいな騎士って、案外いるんだね。


「わぁ……」

「プロポーズや……」

「すごいところに出くわしたわね……」


 三人ともポカーンと見ている。もちろん私も同じ顔をしているに違いない。

 このまま眺めていると女性は彼の手をグラスアミメサーペントの皮ごと取り、とびきりの笑顔で彼に頷いた。

 私たちの周りでちらほらと拍手が沸き、そのままそれは大きく広がった。私たちも同じく拍手する。


「……さてと、ご飯食べ終わったし、行こっか」

 彼らがやっと周りを意識し、たくさんの拍手に二人で礼をして応え、その拍手がやみ始めたところで私たちは店を出た。




 町の城壁から出ると、目の前の通路は馬車や旅人たちが列をなしていた。


「今日は町に入りたい人が多いようだね」

 出るときはすんなりだったのに入るのは時間がかかっているようだ。


「この道をずっと西に行って、それから森に入ってみよっか? 新種の魔物群の生き残りがいたら私たち四人で倒せるんじゃないかな?」


 昨日おとといで残党狩りをやっていたとは聞いたけど、取りこぼしがあるかもしれない。

 スモークグリーンフォックスやダークフォレストラットあたりが残っていれば、この四人で倒せるだろう。

 私たちは長い列の進行方向とは逆方向に歩く。

 すると、列の最後尾近くに見覚えのあるパーティーを見つけた。


「それじゃあ、この町を出るときは声かけるよ。『羊の闘志』の護衛なら安全な旅ができるからね」


 馬車の御者さんに冒険者たちが話かけているかと思えば、『羊の闘志』の皆さんだった。


「こんにちは皆さん。お仕事ゲットってところですか?」

「おぅシャーロット。と、お前ぇらも一緒か」


 バルカンさんたちは私の他に『キラキラ・ストロゥベル・リボン』もいることに気づいた。

 三人も『羊の闘志』に元気よく挨拶をした。


「へぇ、アーリズにもやっと学園生が修業に来るようになったのかね」


 私の隣の三人を見て、『羊の闘志』と交渉していた商人さんが楽しそうに話す。それには私が返答した。


「はい、今年から修業先にアーリズを考えてくれたようです。八パーティーも修業に来てくれています」


 三人で八パーティーの計二十四人が、今夏アーリズに来ていた。

 ちょうど列が進んだ商人さんから「よかったねー」と別れる。


「では『羊の闘志』の皆さん、私たちはもっと西に行く予定ですので」

「おう、気ぃつけろよ。……ってどうした、キー=イ?」


 私たちもここで別れようとしたところ、『羊の闘志』斥候担当のキー=イさんがその西方向を凝視していたのだ。

 丘の中腹から土煙が立っていた。

 私はすぐさま『探索』スキルを使った。該当の場所に人の反応があれば事故や災害の可能性があり、魔物の反応ならば対処する必要があるからだ。


「魔物が一匹、こちらに来る! すごい速さだ」


 キー=イさんも『探索』持ちだから私と同じく魔物の反応を感じたようだ。

 その土煙はだんだんとこちらに近づいてきた。この町を狙っているのだろう。


「お前ぇら迎え撃つぞ!」


『羊の闘志』のリーダーが号令を出すと、マルタさんとゲイルさんがすぐに前方へと駆けだす。後衛としてブルターさんとイサベラさんが走り、そのあいだにバルカンさんとキー=イさんが入って魔物へと向かった。


「私たちも一応向かおう!」

 私は『キラキラ・ストロゥベル・リボン』と彼らの後ろを走る。

 強い魔物なら私も助けになれるだろうし、彼らのパーティーだけで倒せるなら戦い方を彼女たち三人に見せてあげて勉強させるのもいいだろう。


「はいっす。でも、すごいっす!」

「走りながら陣形を整えたで!」

「魔物発見して、こんなに素早く迎え撃つなんて!」


 Aランク冒険者パーティーの動きを間近で見て、学びになるところがあったようだ。

 このまま見せて学習させてあげたいけど、さてどんな魔物が来たのかな?

 近づくにつれ、全貌がわかってきた。

 縦に長い魔物だ。背丈も高い。

 頭から緑色の草のような物が伸び、白い球体が三つ縦に並んでいる。

 しかも立って歩いているというより、左右に揺れつつ足のほうだけバタバタとせわしなく動いているように見える。その足も二本ではなくかなり多い本数――根が動いているとわかった。

 これは、植物系の魔物だ。それもかなり稀に見る魔物だ。最近話題に上がったあの――。



「「「「三連人面カブカブ!!!!」」」」


 あら、私と『キラキラ・ストロゥベル・リボン』一緒に声がハモッちゃった。

 私たちはお互い顔を見合わせて苦笑いしちゃったけど、やってくる魔物は待ってくれない。

 先頭を走るゲイルさんとマルタさんは「三連人面カブカブだー!」と珍しい魔物に喜びを交えつつこのまま戦闘に入るだろう。

 しかしだ。私はあることに気づいてしまった。


「お、お待ちくださーーい!」

 私は大声を出して『羊の闘志』たちの足を止めることにした。


「――おう、何だ? さすがに横取りしたいってぇ話じゃねぇよな?」

「ありがとうございます。いえ、今回はこちらに譲っていただきます!」


 戦闘態勢を崩さず止まってくれた『羊の闘志』たちに礼を言いつつ、私は主張する。


「もちろん普通は先に魔物と対峙した方やパーティーが優先です。しかしまだ『羊の闘志』さんたちは戦闘に入ってません。何より三連人面カブカブの場合はいつものルールとは異なります! あちらの魔物の顔をよーくご覧ください!」


「ん? あ……、ありゃあ……」


 土をまき散らしながらこちらに向かってくる魔物を凝視してから、『羊の闘志』の全員がこちらを、私の後ろの三人を凝視した。


「……え、何っすか、ボクたち、何かやっちゃったっすか……?」


 そのとおり、『キラキラ・ストロゥベル・リボン』のやってしまった結果がやってきたのだ。


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