214: 実は関連のあった三人④ ~ぽりぽり、ごくごく~
6月3日にコミック④巻が発売予定です!
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高価そうなテーブルに、カイト王子と『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の三人が向き合っている。
私は絨毯のやわらかさを靴裏に感じながら、その彼女たちの横顔を眺められる位置に座っていた。
「こんなところに案内されるなんて……意外っす。シャンデリアがキラキラっす……」
「豪華な部屋や……」
「一泊いくらかしら……」
あの人気の少ない路地から案内された私たちは、カイト王子がすんなり入った建物を見上げるや、まず驚いた。
明らかに私たちが場違いだとわかる、高級感ただよう外装だったからだ。
思わず足を止めるも王子たちに促されて入ってみれば、貴族ご用達の宿泊施設と思われるきらびやかな内装が広がっていた。
正直、私たちの服装はこの部屋に似つかわしくない。
だからロビーでは呼び止められないかとドキドキしながら通りすぎ、階段をきょろきょろしながら上がった。入ったこちらの部屋では、今コトちゃんが凝視しているシャンデリアにお出迎えされ、このまま入室していいものか悩んだ。
「……この町にこんな豪華な宿泊場所があったんですね。二年くらい住んでますけど、知りませんでした……。あれ、でも騎士団のところに泊ってましたよね?」
私が今朝忍び込んだとき、カイト王子は騎士団の敷地内にいたはずだ。
「この程度の場所、使用許可を取るのは何も難しくねーな」
「あ、そうですか……」
そういえばカイト王子って王子様――「王族」だもんね。
でも王族であることは隠しているんじゃなかったっけ……? まぁ、国の命令で動いている組織ということで、身分を明かさなくても何か方法があるのだろう。
「どうぞ」
王子の部下の人が、私たちに紅茶を淹れてくれた。
私と『キラキラ・ストロゥベル・リボン』たちが口を開けて室内をきょろきょろしているあいだに、高級クッキーもテーブルに並べられていたようだ。
「……ボ、ボクたち、お菓子に釣られてペラペラしゃべることはないっすよ。そもそも食べないっす」
「せ、せや。それにこのあと、うちら騎士団に呼ばれとるんで」
「手短に聞いてくださいね」
三人は突き放した口調ではあるものの、正面に置かれたクッキーから目を離さなかった。
カイト王子は「時間をかけたくないのはこちらも同じだ」と伝えるも、彼女たちの様子ににやりと笑う。
「――オレはカイトだ。そこにあるのは王都でのみ買える、王室ご用達の紅茶と菓子だ。好きに食べろよ」
カイト王子の自己紹介を受けて、彼女たちも(珍しく上の空で)名乗った。
それはともかく私としては、彼がこんなにはっきり名乗ったらさすがに王子だとバレるのではないか? と様子を窺った。しかし……、
「えっ、王室ごようたちっ!? ……じゃっ、食べるもん! ……う、でもダイエッ……っと、う~ん」
「コトが噛んだのやら名前やら紅茶やら……どっからツッコんでええのかわからへん。……それよりも……い、一枚くらい……」
「お皿もカップもお高そうだわ。紅茶もクッキーも高級感ある香りね。……一口、なら!」
最後にごにょごにょ言っている三人は、目の前のクッキーと紅茶に手を伸ばしたり引いたりを繰り返す。
(……って聞いた? 王子様と名前が一緒だね)
(王都から来た名前が同じ人……でも顔はまったく似てへん)
(同姓同名の別人ね。隣のクラスのカイト君のほうがまだ似ているわ)
ついで彼女たちは、別人のほうが本人よりも似ているとひそひそと話していた。
カイト王子ももちろん聞こえているようでニヤニヤ笑う。
コトちゃんは両隣の二人と頷き合うと、「はいはーい!」と手を上げる。
「あのっ、お金持ちのようっすけど、貴族っすか?」
「貴族ではない。そうだな――Aランクの冒険者ではある」
三人は「えーー!!」と驚くけど、私も同じだ。
なぜならカイト王子が、冒険者ギルドの登録者カードまで取り出し、見せていたからだ。
実は、この登録者カードは偽名での登録はできない。
だからそのAランクを表す金色のカードにもしっかりと『カイト・フォレスター』と書かれている。
しかし王子はその部分を指で隠すことなく堂々と見せ、彼女たちはしっかりと確認しているのに、いっこうに気づかないのだ。
(Aランクなのも王子様と同じだね……)
(……それでも別人や)
(会ったことはないけど、姿絵とかけ離れているわ)
ひそひそ声は間違いなくカイト王子本人に筒抜けだろうけど、彼は楽しそうに自身の登録者カードをしまった。
「キラキラのAランクのカード! お金あるのも頷けるっす! (むしゃむしゃ……」
「コトが食べるならうちも。(むぐむぐ)うまぁぁい」
「(ごくごくっ)紅茶もおいしいわ!」
彼女たちはカイト王子の身分証明に気が緩んだのか、クッキーや紅茶に手を付けはじめた。
食べ終えても王子の部下からクッキーを追加され、紅茶も再度注がれる。三人ともなぜか難しい顔をして、それでもまた口に運んでいた。
カイト王子はこういった場面も想定して、いつも王都から持参するのだろうか……。
大容量収納鞄を所持しているからかさばらないとしても、こういうところは王族っぽいかもと、私はただただ黙って見ていた。
彼女たちに用意された食べ物には、特段「変な物」が交じってないと確認できたので、止めることなく見守ることにしたのだ。
「さぁ、オレが答えたんだからそっちも教えるのが筋だからな?」
「(むぐもぐ……)し、しょうがないっすね」
コトちゃんはほっぺにクッキーの欠片がついたまま話し始めた。
「――えーっと、その漬物屋さんたちとは、学園の実習中に会ったんす……」
『転生した受付嬢のギルド日誌』4巻
6月3日(金) 発売予定!
↓に書影がございますので、よろしければご覧ください。
かわいい表紙です^^




