213: 実は関連のあった三人③ ~私もついていく~
私は『キラキラ・ストロゥベル・リボン』の三人を守るように立つ。
「アンタには関係ねーから首を突っ込むな」
不機嫌そうなカイト王子はほっといて、私は彼女たちに安心してもらうため笑顔を向ける。
「この人たちは見た目も行動も不気味で怪しく感じるかもしれないけどね、一応ちゃんと国民の安全を考えている人たちだからね! こんなに執拗に迫ってくるということは、漬物屋さんの情報は誰かが救われる重要な手掛かりにつながるんだと思うんだ。だから三人とも、協力をお願いできないかな? もちろん私がこの人たちの動向をしっかり見張るからね!」
子供が怖がることくらいわかるだろうに、いい大人が取り囲んでいるのだから間違いなく重要な話に違いない。
その重要な話を、ぜひ私もお聞きしたい。
彼女たちも守れるし、一石二鳥だ。
まさかカイト王子たちだって子供相手に強硬手段を取ることはないと思うけど、私がしっかり見張っておけばより安全だ!
「えっと……、何か期待しているようっすけど、ただのお漬物屋さんのお話っすよ……?」
コトちゃんたち三人は不思議そうだけど、カイト王子は「それはこっちが判断することだ」とぴしゃりと言い、続ける。
「――ただ、そこの受付嬢は同席すると言うが、その『たかが漬物屋』との話を聞くだけだっつーのに、付き添ってもらうほどのことか? 三人は卒業する学年だろう? 受付に何から何までお世話になるとか、立派な冒険者として恥ずかしくねーのかなー?」
「んなっ!」
カイト王子の挑発にコトちゃんがむっとする。
この流れはいけない。
「確かにシャーロットさんに迷惑はかけられないっす。ボクたち自分たちで……」
「コ、コトちゃん! 私、全然迷惑じゃないから大丈夫だよ!」
私はすかさず割りこむ。
王子の舌打ちが聞こえた。
危ない危ない、王子に丸め込まれるところだ。
「シャーロットさん……でも忙しいんじゃないっすか? ボクたちのために……」
「ぜーんぜん! 気にしないで。朝の用事は終わったし、ギルドが開く時間もまだあるよ。同じ家に住んでいる仲じゃない、遠慮しないで頼ってほしいよ!」
「「「しゃ、シャーロットさん……!」」」
三人が感動したかのように目をうるうるさせた。
若干の罪悪感があったけど、私はカイト王子に勝利の笑みを向けた。
「ドヤ顔してんな」
私たちのやりとりに、カイト王子は嫌そうに片眉を上げている。
それでもカイト王子なら、まだ私と『キラキラ・ストロゥベル・リボン』を離そうとするに違いない。
さぁ、次は何を言ってくるのか、それとも実力行使でしょうか? ふふふ、この障壁越しに何かできるでしょうか?
何があっても私はしぶとく三人に張りつき……じゃなくって、守りますからね!
「シャーロットさん、たくましい笑顔っす!」
「町を守る人としての力強さがあふれとる~!」
「私たちにここまでしてくれるなんて、ありがとうございます!」
カイト王子には憎たらしく見えても、彼女たち三人にとっては頼りがいのある印象を与えられたようだ。
そのかいあってか、三人からさらに後押しされることになった。
「ってことで! シャーロットさんと一緒じゃないと行かないっすよ、おじさん!」
「せや、おっさんに一言もしゃべらんから!」
「おじいさんがシャーロットさんと私たちを離そうと無駄です!」
コトちゃんは私に抱き着き、ワーシィちゃんとシグナちゃんは私の左右の腕にそれぞれしがみつく。
嬉しいけど、王子を怒らせすぎてはいけない。
「シグナちゃん……ううん、皆! 彼はおにぃ……」
「お・に・い・さ・ん――だ」
よっぽど腹に据えかねたのか、私よりも先に王子自ら訂正した。
表情はまだ余裕を持って笑っているようなのに、こめかみは破裂するんじゃないかと心配になるほど血管が浮き上がっている。
「いいか、姦しい嬢ちゃんたちよ。いくらねばろうと、そこの受付は連れてい……」
一緒に行くことに渋り、まだ私を追い出そうとした王子だけど、それは途中で止まった。
私たちを囲んでいた彼の部下たちの後ろで、人の気配がしたからだ。
「なんだぁ? 狭い道でたむろってるな!」と聞こえる。
いくら人気がない路地でも、この日中の時間は周辺住民の通り道になっているようだ。
「ちっ、女が集まるとこれだ。……仕方ない、四人ともついてこい」
いくら王子たちが『隠匿』系スキルを使用して目立たないようにしても、コトちゃんたちが騒いでいるのだから、いつまでももたついてはいられないと考えたようだ。
諦めて私も案内してくれるらしい。やったね!
舌打ちをしたカイト王子は、当初コトちゃんが逃げ込もうとしていた道へと進む。
そこには王子たちと同じ服装の人たちが待機していた。
「うわっ、ここにもいたっす!」
「シャーロットさん、こうなるって予想ついとったんですか?」
「私たち……危うく誘い込まれるところだったのね」
どうやら私の勘が当たっていたようだ。……こっちに逃げ込まなくてよかったね。
というか、この大きいままの障壁だと進みづらいので、一旦障壁を外して一人ずつの障壁にしようかな。
私は張っていた障壁をパッと消し、それからすぐ一人ずつ障壁で囲んだ。
ここで障壁を解く、ということはもちろんしない。
特に私の場合は、後ろから王子の部下の人に攻撃でもされたらたまったものじゃな……。
ガンッ――!
張り終えた途端、私のすぐ真後ろですごく痛そうな音がした。
後ろを見ると、王子の部下が片手を押さえていた。
本当に仕掛けてくるとは……。
小指より下を押さえて痛がっているから、手刀を繰り出したのだろう。ふぅ、危なかったぁ。
私がその人の手をちょちょいと治してあげたけど、王子は特段嫌そうな顔はせず、しかしその人に「余計なことするな」と言い含めて道の先頭を歩く。
でもきっと心中は不愉快に違いない。
それにしても突然攻撃するなんて、三人が怖がって情報を教えてくれなかったらどうするのだろうか。
しかしそれは心配なさそうだ。
「すごーい! こんなにしっかりとした障壁をパッと作っちゃった! シャーロットさん、いっぱい触っていいっすか!?」
「こんなに早く一気に張り替えるなんて、相当な技術や!」
「私たちの歩幅に合わせて動かすのもすごいわ!」
ただ障壁を張り変えただけなのに、三人はこちらのことに気づくことなくキャーキャーと興奮している。
「黙ってついてこい!」
そんな彼女たちにカイト王子は、どうにも調子を狂わされていて面白かった。




