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転生した受付嬢のギルド日誌  作者: Seica


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020: メロディーさんとデート〈前〉



 祭が終わってから数日後のある日、早めにギルドが閉まった。


 スタンピードのときの魔物素材大量獲得によって、商人と取引があるというのが表向きの理由。……本題はあの謎の魔物のことかもしれない。

 ギルマスとサブマスが、ギルドの本部などにどう報告するか考えているのだろう。

『羊の闘志』リーダーも、決してあの姿を変に加工せずありのまま絵にしろ、と口を酸っぱくして言っていたっけ。

 おかげで私の絵心にけちをつけられたのだけども。……いや、根には持ってないよ。


 ――変な魔物だよね。


 様相もさることながら、出現の仕方が不思議。

『探索』スキルで見つけたけど、その直前にも調べていたのに、そのときはいなかった。

 私の『探索』範囲は広くないけど、それでももっと前から引っかかってもよかったような……。

『羊の闘志』の同じスキル持ちの方も、「魔物や敵意あるものは、遠くから段々こちらに近づいてくるのが普通。しかし、あの魔物は突然出現したかのようだった」と言っていた。


 歩いたところも見てないし。

 まぁ、それは魔王様があそこに先に来ていた時点で、もしかしたら動かないような魔法をかけていたのかもしれない。


 そうそう。

 まさかルシェフさんが出した? ――と、皆さんは考えていたようだけど、私はもちろん違うと確信している。


 あのようなスタンピードの最中、冒険者や騎士がごちゃごちゃしている中、魔物を出すだろうか。

「見せたかった」ということなら、わざわざ祭の日のしかも夜に、町外れで出す意味がない。

 魔物が光っているのを見せたかったのならば、いっそのこと夜、街中で出せばいい。ほら、障壁を張れば安全に見せられるし。


 見せたくなかったのなら、冒険者や騎士に見つかってしまう危険がある場所で出す必要がない。もっと閑散として広い場所は、この国の中にもたくさんある。

 それに見せたくないなら、ゲイルさんの治癒を待つ必要はない。障壁を張って守る必要もない。

 目撃者を全員消すことなんて、彼にはとても簡単なことだから。


 でも、ちゃんとゲイルさんの治癒中守ってくれた。だから、ルシェフさんは(しゅ)(ぼう)者ではないと思う。


「ルシェフさんは魔王様なので首謀者ではないです。国際問題になっちゃいますよ」


 さすがにそんなことは言えない。

 絵を見せたときの会議で、ギルマスやサブマスたちにやや苦労しながら関与を否定した。――まぁ、それでも疑いは晴れてないようだけど、私の力ではこれ以上は何ともしがたい。

 魔力10しか使わず、あの魔物を倒すようなお方。そんなお方が、今回のようにちまちましたことをやるはずがない。火山を止めるような魔王様が、私んのドアくらいの大きさの魔物を出して皆に迷惑かけようとするとは思えない……。


 現在現場を確認中らしいので、そこからわかることもあるだろう。

 何か見つかるといいな――。



 午後の空いた時間は、メロディーさんとお買い物に行くことにした。

 旦那さんのお誕生日プレゼントを買うらしい。

 彼女はまだこの町に来て日が浅い。お店の場所に(うと)いので、一緒に行くことになったのだ。

 私、男物は買わないからわからないんだけど、いいのかな。


「――メロディーさんのワンピースかわいいです」


 今日のメロディーさんの私服は、彼女の髪と同じライトパープルのワンピースに白の靴、白のバッグだった。

 相変わらず美しいです、メロディーさん。


「あら、シャーロットさんもかわいいですわ。若いっていいですわね」


「若さは関係ないですよー」

(これはデザインもおしゃれながら、両方耐久:+30なんですよ)


 当然「耐久:+30」なんて話したら、なぜわかるのかと思われるので、いつもどおり心の中で言うだけ。


 私は、刺繍が入った白のブラウスと、タイトスカートを着用。

 セットで売っていて、両方着るとワンピースに見えてお得な品だ。メロディーさんが大人っぽいから、自分も大人っぽく見えるような服にしてみた。

 デザインが繊細なのに、両方着ると耐久値(防御力)が60も上がる優れ物。服を買うときはつい、『鑑定』スキルでどのくらい能力値が上がるのか、確認してから買う癖がついていた。


 かばんの類は、収納魔法があるので私は持たないことにしている。何でもかんでも入る収納魔法のほうが便利だし、手ぶらのほうが突然何者かに襲われても対処しやすいからね。

 街中で人に襲われることなんてそうそうないし、スタンピードもしばらく来ないだろう。だから今日は戦うことなんてないと思うけど、もう習慣化している。


 いつもの時間と比べると、かなり静かなギルドの一階を出る。上の空は晴れていて買い物日和だ。

 テーブル山ダンジョンあたりは曇っていて、もしかしたら少し雨が降っているかもしれない。


「あ、見てください、メロディーさん。空軍演習ですよ」


 空を見ると、美しい龍族の空軍飛行部隊が空を渡っていた。

 ディステーレ魔国の龍族だけで構成された空軍部隊。

 普段は人型で生活している龍族だけど、龍に変化して隊列を組み、青い空を一糸乱れず飛んでいる。青い龍族だけの編隊のようだ。

 定期的にこの国と合同演習をしているので、たまにこのきれいな光景を目にすることができる。


「きれいですね」


 遠くの空を飛んでいるので、一人ひとりはコメ粒くらいにしか見えないけど、それでも龍なのがわかる。


「そうですわね。攻撃するときはドラゴンブレスを吐くのですって」


 かなり遠いので、『鑑定』スキルで能力値を見ることはできなかった。ドラゴンブレスを吐く種族って、どういう値なんだろう。

 ブレスに関係ありそうなのはやっぱり魔力かな。それを消費して吐くとか?

 いつか見てみたいけど、そういうことになる状況って、考えてみるとちょっと怖いね。


「――さて、どういう物を考えているんですか」


 旦那さんへのプレゼント候補を聞いてみた。


「いつも身に着けてもらえる物は、どうかしらと思いまして……」


「となるとアクセサリーとかですか。こっちの通りをまず行ってみましょうか」


 言わずと知れたこの町のアクセサリー通り。


「といっても、私の知っているアクセサリー店は冒険者御用達(ごようたし)なので……おしゃれとは言いづらいですけど」


 メロディーさんは、ますますよいとのこと。まあ、戦う人向けということだもんね。

 確かにごついデザインが多いから、男性向きといえば男性向き。



「あ!」


 突然私は声を出してしまった。


「あら、何かありました?」


「あ……、いえ、ごめんなさい。かわいい帽子があって。季節外れではあるけど……ふふ」


 多少動揺してしまった。

 何とびっくり。

 帽子やスカーフなどの小物を売っているお店の、雑多に置かれた商品の中に、「知力:+150」ものふわふわの帽子が置いてあったのだ。知力は、魔法を使うときの威力が関係する値だ。


 帽子という小さな物なのに、+150は結構すごい。

 スタンピードのときに着たブラックタートルのコートは、耐久値が+100であることを考えたらわかりやすいかな。

 これがこの世界の怖いところ。能力値を測る道具がないので、「知力:+150」がこの帽子に宿っているとわからないのだ。


 しかも今は麦藁帽子が合う季節。季節外れだから安い! 銀貨五枚だ。

 店主のおじさんは、価値がわからず見た目だけでお安くしている。私は店に入ると、商品を手に取っておじさんに切り出した。


「秋冬の帽子探してたけど、寒くなってから探そうと思ってたんですよねー」


 いかにも「たまたま見つけたけど季節に合わないしなー」という雰囲気を漂わせる。


「じゃあ、銀貨三枚はどう?」


「え! 銀貨三枚?」


 さらに安くしていいの?

 動揺する私を、まだ迷っているのだと思い込んだおじさんがもう一声。


「では銀貨二枚は?」


「銀貨二枚……」


 この帽子、金貨四枚の案件ですよ。

 もっと安くしちゃうんだ……と驚いている私に、おじさんがとどめとばかりに言い放つ。


「おっとまだ値切る? じゃあ銀貨一枚! さすがにもう勘弁して」


「あ、じゃあ。はいこれで」


 お願いします。と値切りのプロもびっくりの値段になった。

 本来、金貨四枚の価格の帽子を銀貨一枚で買ってしまった――。

 小躍りしそうだった。


「よかったですわね。かわいい帽子でしたわ」


「はは。秋が楽しみですね~」


「知力:+150」なので正直似合ってなくても、ダサくても、真夏だっていいんですよ。いや、さすがに暑いか。

 とにかくこれぞ掘り出し物。かわいくてふわふわした戦闘用の帽子。いい物を買った。


 対するメロディーさんのほうはまだだ。少しいいなぁと思うものの、これぞという物がまだ見つからないらしい。悩ましい顔をしている。

 だいぶ歩くと買い物通りの外れまで来てしまった。

 先ほどまでの通りとうって変わって静かなところ。近くにあるお店といえば宝石店しかない。


「外れちゃいましたね」


「ええ。あら、この宝石……」


 次の通りを歩く提案をしようとしていたところ、メロディーさんは宝石店のほうを見ていた。

 それはラピスラズリの指輪で、店先に他の宝石と一緒に(ちん)(れつ)してある。


「今回のスタンピードで出てきましたよね」


 ラピスラズリウルフ。普段はテーブル山ダンジョンの、低級の魔物がいる階層にいる。

 大体の人がこの魔物を口にするとき噛むので、よくラピスウルフと略されていた。


「やあやあ、こんにちはお嬢さん方。どうです? 少し覗いていかれては」


 こちらの宝石店のご主人だった。

 実は、以前ギルドに来た宝石泥棒三人組が、その前に寄った店。予約を入れていないと言われて門前払いされた店だ。


「あ、でも予約とかしてないですよ」


 そのことを覚えていたので、一応確認した。


「ははは。必要ないですよ。ちょうど誰もいないですし」


 あの日は、単に忙しかったのかな。今日はたまたまお客さんがいないのかもしれない。

 中に入ってみると、当たり前だけどいろんな種類の宝石が並んでいた。

 それにしても不思議なのが値段。


「ラピスラズリとかエメラルドとか、他のより安め……ですか?」


「さすが、ギルドの受付さんですね。その宝石はダンジョン産なのでたくさん採れますからね。お買い求めやすい値段なのですよ」


 顔が知れている……。ギルドに依頼に来るとき、いつも彼の下で働いている人たちが訪れるから直接会ったことないはずなのに。さすがだなぁ。


「あら、こちら……」


 メロディーさんが、大きめだけどすっきりとした形のペンダントを見つけた。表面にラピスラズリをあしらっている。

 女性用とも男性用とも見える。


「こちらはですね、実はこのように……」


 店主がペンダントトップの端のほうに指をやって、かちっと鳴らすと、その部分が扉のように開いた。


「開くと、中に小さな肖像画を入れることができるようになっているのですよ」


 この世界には写真がないので絵を入れるんだろうけど、こんなに小さい絵を描ける人っているんだね。


「男性女性ともご伴侶(はんりょ)様の絵を入れる方が多いですね」


「素敵ですわ」


 うんうん。きれいなラピスラズリのペンダント。ペンダントトップを開けたら、中からも青くて美しいメロディーさん。気持ちのよいペンダントですね。

 旦那さんが、かぱかぱ開けて見るだろうなぁ。


「こちらにしますわ」


 金貨二枚。いくら元々安い宝石といえど、かなり安いほうだ。中が開くペンダントという凝った作りなのに。

『鑑定』結果でも金貨四枚だ。


「実はですね。こちらは今年入った新人の作品なんですよ。なので普段よりも安くお出ししています。しかし腕は確かですよ」


 将来有望じゃないですか。


「とても素晴らしい腕だと思います」


 私も(しょう)(さん)する。このまま行けば筆頭職人さん間違いなしだ。

 メロディーさんは満足そうな顔で金貨を出し、店主も満足そうに受け取った。



「――いい買い物しましたね」


 高級な物ばかり置いていると思ったけど、一般庶民でも少し背伸びをすれば買えるのはいい。

 お店をホクホク顔で出る私たち。

 店のご主人は出口まで見送ってくれた。

 私たち二人は、まだ時間があるからどこかでお茶でもしよう、という話になる。


 ――しかしですね。宝石店を出てから尾けてくる人がいるんですよ。

 メロディーさんを尾けているのなら、どうなるかわかっているね?



こちらの話は、

コミック版『転生した受付嬢のギルド日誌』Chapter13 でも

ほぼ同様のシーンがあります。

ご興味ありましたら、ぜひスマホにてご覧ください。


スマホサイト マンガよもんが 転生した受付嬢のギルド日誌

https://www.yomonga.com/title/883


お手数ですが、スマホで上記のアドレスをコピペしてご覧ください。


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