ツンデレ少女のデレ暴走
心を読める。ってのはとどのつまり相手の本音を理解できるって事だ。
しかし勘違いしてはいけないのはあくまで全部を知れはしないという点。
本音=全てではない。大部分を占めているのは間違いないがな。
自分でさえ、むしろ自分だからこそ内なる本音の意味を理解できない時がある。
常に己を俯瞰して感情を抑圧し、最適な行動が取れる程人間は合理的な生物じゃないんだ。
今日の梅森がいい例だろう。
非合理性は状況次第じゃ良し悪しどちらにでも傾く。まさしくケースバイケース。
現状は……少なくともいい方へ向かってるとは言えないと思う。
「思考が破綻してるのはあいつが一番理解してるんだろうが……猶更俺じゃ何もできないんだよな」
暑めの湯船につかりながら誰に返事を求める訳でもなく一人ごちる。
既に20分以上入ってるが、お風呂でひたすら考え事をしていると時間の経過すら忘れてしまう。
買い物を終えて尚俺の頭を悩ませるのは梅森の思考回路。
如月が来て以降、あいつは俺に話を振る事は一度しか無かった。
会話に参加するにしても「ええ」とか「そうね」と最低限の相槌を打つのみ。
元々あれこれ話すタイプでも無いので如月は大して不信には思っていないようだったが……
(ああ……改めて考えると井口君からしたら今日の私完全にヤバい奴だね)
内心ではちゃんと梅森は自分の異様さに気付いていた。
ずっと反省と後悔を重ねていて口数が減っていたのだ。
まぁ後は…単純に俺と話すのが気まずかったのもあるだろうな。
ここまでなら素直に喜んでいいと思う。客観視が出来るのは偉い。
現に駅のホームを歩いている中でこの心境を知った俺は満足げに頷いていた。
だが問題はその先。
耳に入った瞬間に首の動きがピタッと止まる。
(でももう戻れないよね……ここまで来たらあれ以上の事だってやんなきゃ……!)
どうしてこうなった。
いや、言いたいことは分からんでもない。
確かにもう戻れない、と思ってしまってもおかしくないくらいの事をしようとしてたからな。
未然で終わったからまだ良かったが……
何だ?あれ以上の事って?
今日やろうとしていたものより上?そんなものないだろ。
ないだろ……と俺は思うがどうやら梅森にとってはあるらしい。
どんなものかなんて考えたくもないがな。
ちなみに一度だけした会話とは
「風紀委員や生徒会には問題なしと伝えておくわ。校内での噂の流布も最小限に抑えてみせるから」
「……ああ、助かる」
という感じだ。ここだけなら梅森ありがとう!で終わるのに……
(あんまり如月さんとの誤解が広まっちゃったら、今後私と二股掛けてるなんて事になっちゃうかもしれないしね)
この言葉の意味が分かるか?
『私は今後井口君と恋人関係だと周囲から見られてもおかしくないと思われるような動きをする』
大胆すぎる意思表示。しかも学校でやる気と来たもんだ。
俺に聞こえていると梅森自身は微塵も思っていないんだろうが。
それを知っても俺はどうする事も出来ない。
百歩譲って接触に対しての抵抗は可能だが、梅森の暴走を止めない以上は根本的な解決にはならないんだ。
俺は会社にトラウマを持つ社会人の様な言葉を発してしまう。
「あぁ……月曜が来るのが怖い」
と嘆いてみても全人類にとって平等に地球は周り、時間は進む。
いっそ手に入れたのが時間停止能力とかだったらまだ何とかなったかもしれない。
最終的に対抗策の一つも見つからないまま、俺は今日を終えるのだった。
次回から梅森はデレが多めになります




