第76話
三、二、一、スタート。
『接続準備〜?』
『『完了!』』
『白龍月子!』
『黒糖ミツカ!』
『紫ゆかり!』
『木陰エメ!』
『サクラ梅!』
『みんなと繋がる』
『『Re:connect!』』
新しく、サクラ梅の3Dモデルが映し出される。
『はい! というわけで! サクラ梅ちゃん、公式アカウント初登場です〜!』
『よろしくお願いしまーす!』
『いいねぇ! ピンク枠! 映えるねぇ!』
『下っ端だー!』
『とことんからかってやるぜ!』
『ほらほら虐めない!』
>梅ちゃんが動いてる!
>個人活動からサクラ梅を見守ってきたファンです。お礼を言わせてください。リコネの皆さん、本当にありがとう。
>これからよろしくね〜!
>梅ちゃん可愛い
『そんなことするからエメち、足骨折することになるんだよ!』
『松葉杖ついてさ!』
『ダンス頑張った結果だよ!』
『ライブでねー、やったんだよねー』
『正直意識朦朧としてました……』
『いやー、DVDが楽しみですねぇー!』
>ライブ初参戦だったけど、バカやばかった(良い意味で)
>¥5000 サクラ梅デビュー記念
>今日は新人ちゃんの紹介枠かな?
『さて、本日はですね、せっかくの新人が入ったということなので、梅ちゃんを知っていこうというわけで、こちらの企画、用意しました! ドン! サクラ梅を知ろう! サクラ梅王選手権!』
『ぱふぱふー!』
『つまり、これでサクラ梅さんのお姉様が決まるわけですね!』
『これは負けられない!』
——機材が繋がれたパソコンを高橋先輩が見つめ、あたしはカンペを出した。【段ボールの中にスケッチブックあります!】
『VTRどうぞ!』
『サクラ梅さんの、推しは誰ですか?』
『私の推しは〜』
VTRが止まった。白龍さんの司会に戻る。
『はい! 第一問! サクラ梅さんの推しは誰でしょうか!』
『はいはい! はい! 私!』
『ミツカ!』
『いや、ここはこの紫ゆかり様で行きましょうや!』
『正解は〜!?』
VTRが始まった。
『ミツカ先輩です。もう、Re:connectを知ったきっかけがミツカ先輩だったので……もう……可愛くて……大好きです……♡』
『というわけでミツカでした〜!』
『あれ?』
『自意識過剰者がいるな?』
『私だって可愛いもん!!!!! おっぱい大きいもん!!!!』
『いや、おっぱいの大きさ関係ないから』
LIVE視聴者数8000人。良い数字である。
『それでは、これから一緒に活躍するサクラ梅を、皆様、よろしくお願いします!』
『また次回の配信でお会いしましょ〜!』
Re:connectのエンディングアニメーションが画面に映し出され、15秒後に配信が終わる。
「はい、オッケーでーす!」
高橋先輩が声を上げた。
「本日の撮影以上です! お疲れ様でしたー!」
「「お疲れ様でした〜」」
「着替え次第解散ですー! また来週もよろしくお願いしまーす!」
「ありがとうございました」
「お願いしまーす」
「お疲れ様でしたー」
「ああ、疲れたぁ」
「藤原さん」
サクラさんに声をかけられる。
「あの、片付けとかって」
「あ、こっちでやるので大丈夫ですよ。それよりも帰って個人配信をお願いします」
「え、そうなんですか。わかりました! お言葉に甘えます! ありがとうございます!」
「良いリアクションでした。またお願いします!」
「はい!」
サクラさんが更衣室に入って行った。さーて、片付け片付け。
「月子さん!」
ミツカさんに声をかけられた。
「今夜って、お時間ありますか? 企画のご相談がしたくって!」
「ミツカさん、家に帰って個人配信をお願いします」
「佐藤さん、止めないでください! 今夜こそ私……この身を月子さんに捧げるんです!」
「ふじっち〜」
ゆかりさんに声をかけられた。
「今週どこか時間ある? 遊びに行こうよ〜」
「あの、えっと……LINEします」
「コスプレショップに行きたくて」
ゆかりさんが親指を立てた。
「ふじっち、シスターとか似合うと思うよ」
「……あはは」
「藤原さん」
エメさんに声をかけられた。
「あの、切り抜いてほしい配信があるんですけど、あとでご連絡してもよろしいですか?」
「ああ、もうぜひ! なんでしたらリストなどにまとめてくださると助かります!」
「ありがとうございます! まとめてお送りしますね!」
「月子さん! いつホテルに行けますか! 月子さん!」
「梅ちゃん、いくら憧れていても、ミッちゃんみたいになっちゃいけないよ?」
「いや、でも、ミツカさん、可愛いです」
「推しを思う目は盲目ってね……」
「ほら皆、片付けの邪魔になるから帰るよ〜!」
私服に着替えた白龍さんが出てきて、高橋先輩に挨拶に来る。
「それでは高橋さん、お先に失礼します」
「はい! お疲れ様でした!」
「お疲れ様です。……藤原さん」
白龍さんに声をかけられた。
「お先に失礼します。今日、ピリィちゃんとデートなもんで!」
「……デート、ですか?」
「はい。外食するんです。一時間後に待ち合わせで」
あたしは時計を見て——笑みを浮かべた。
「そうですか。楽しんできてください」
「お疲れ様です」
「お疲れ様でした」
タレント達が佐藤さんに連れられて出ていく。ドアが閉められ——防音の利いたスタジオで、高橋先輩があたしに言った。
「おら、15分で片付けて、15分で素材整理しろ。終わらなかったら持ち帰れ!」
「いや、一時間後ですよ?」
「お前女性を待たせるなよ。嫌われるぞ」
「……あたしも女です」
結局、素材整理の仕事は持ち帰ることとなり、涼しくなった外に出て、スマートフォンを開く。
>LOVEオブジェクト前集合
<今から向かうね
大股で歩き、そのうち走るようになり、新宿アイランドタワーが見えてくると、より足が速くなっていく。白髪の女性を見つける。彼女が顔を上げたタイミングで、あたしも駆け寄り、目の前で足を止めた。
「遅くなりました」
「二分遅刻」
「オフィスから遠いんだもん」
あたしがスマートフォンを点ける。
「何食べにいくの?」
「ワイン飲みたいなって」
「そんなところあったっけ?」
「あるんだよ。それが。連れて行ってあげる」
手を握り合う。大丈夫。知らない人たちの目は、意外とこっちを見ていない。
「ツゥと乾杯したいと思って」
「メイクしてないけど、いいんですか?」
「大丈夫。店長さん良い人だから、料理もすごい美味しいんだよ」
「楽しみ」
リンちゃんとあたしが、手を繋いで歩いていく。




