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第67話

 八月のライブに向けて、メイキング動画用の素材を撮るため、高橋先輩の指示のまま、タレントたちにカメラを向けた。


「今回、ダンスを中心のライブでやっていきたいとのことだったので、曲ごとにフォーメーションを考えさせていただきました。残り三ヶ月、みっちり練習すれば絶対いいものが出来上がるので、頑張っていきましょう!」


 振付師は、厳しくも実力のある人で、カメラから見ていてもその滑らかな体の使い方は惚れ惚れするほどだった。水城スイが抜けたばかりだった頃は、その穴はかなり大きかったが、四人はRe:connectとしてのプライドを守るため、日々レッスンに励みながら配信も行っていた。


 時が経って、ドームライブツアーまで一ヶ月。

 Re:connectメンバーは今まで以上に歌とダンスレッスンに明け暮れた。朝から晩までレッスンし、その上ショート動画撮影にも臨み、企業案件やイベントにも参加する。正直、テレビで歌っているアーティストよりも忙しいのではと思うほどであった。


「今回のメイキングも手分けして編集してもらうから。そのつもりで」

「了解です」

「で、密着撮影は」

「誰派遣します?」

「俺とお前しかいねぇだろ」

「またですか?」

「前回もいけたんだから今回こそいけるでしょっていう、社長命令」

「三ヶ月前からやっていたので、そんな予感はしてました。了解です」

「交通費とホテル代は経費で出る」

「また二人部屋ですか?」

「それがお前、驚くなよ?」

「なんですか……!? まさか……!」

「その通り!」


 ——撮影スタジオにて、発表された。


「今回、女性陣スタッフを含めて、二人部屋で部屋を取らせていただいてます!」

「ちなみにエメさんはお子さんとお世話係の妹さんがいらっしゃるので、四人部屋で取ってます」

「というわけで、ぼっちになりたくない皆さんが、部屋分けくじを手に入れるためのゲームをしてもらうという企画として、撮影させていただきます」

「あの……」


 ミツカさんが手を上げた。


「質問なんですけど」

「はい」

「これって……佐藤さんや藤原さんも、メンバーと同じ部屋になってもいいってことですか?」

「あ、撮影の時はそういう感じになりますが、実際現場では佐藤さんと藤原が一緒の部屋になります」

「いいえ!!!!!」


 ミツカさんが全力で否定した。


「それは良くないと思います! やっぱり、スタッフさんもメンバーも、同じ仲間として同じ部屋に泊まるべきだと思います!」

「いや、そこはメンバー同士で固まった方が……」

「そっちの方が面白い!!!」


 ミツカさんが白龍さんに振り返った。


「だよね! 月子! そっちの方が、バラエティ感あって、面白いよね!?!?」

「私は構わないけど」

「私もー」

「佐藤さんと藤原さんも問題ないですよね?」

「私たちは……」

「特に……」

「それなら本当に混ぜこぜにしましょう!」


 ミツカさんが——くじ引きを前に本気で燃えている!


(カメラが映らない場所でもバラエティを忘れない。ミツカさん……プロ意識がすごい……!)

「月子さんと相部屋……月子さんと相部屋……」

「ミツカー、何呟いてるのー?」

「まぁまぁ、二人とも! 穏やかにね!!」

「で、最終日、サクラ梅さんが合流します。そこ頭に入れておいてください!」

(オーディション通って欲しいな。サクラさん……)


 汗水流して歌とダンスの練習しているサクラさんのコンテンツ、結構数字取れてたんだよなぁ。


(アリーナではライブツアー最終日としてふさわしいオーディションコンテンツが追加されて、チケット抽選の数もかなり多かった。オーディションが受かれば、サクラさんも握手会に参加。落ちれば返金。話は白紙。社長了承済み。ああ、本当にお願い。受かってください……)

「では撮影始めますー! ふじっち!」

「はい」

「ではいきます! よーい!」



(*'ω'*)



 3Dのモデリング体が映し出される。


『はい〜みなさま〜こんばんはぁ〜』

『久しぶりのリコネチャンネルからの配信です』

『ではご挨拶。接続準備〜?』

『『完了!』』

『白龍月子!』

『黒糖ミツカ!』

『紫ゆかり!』

『木陰エメ!』

『みんなと繋がる』

『『Re:connect!』』


 >接続完了

 >こんばんは!

 >待ってた!

 >接続完了

 >酒を飲みながら失礼します

 >【¥10000】月ちゃんの新婚祝いです


『はい〜! 本日は! なんですか!』

『8月ドームツアーの宿泊先の部屋を決めるくじを引くための、ゲーム企画〜!』

『はい、というわけでですね、皆様ももうご存知だとは思いますが、先日YouTube登録者数が100万人を突破しましてね』

『長かった……』

『五年だからね』

『はい、で、それだけじゃなくて、8月にもありがたいことに、ドームライブをね、やらせていただくんですよ!』

『各地回ります!』

『めちゃくちゃ楽しみ』

『俺もね、すごい楽しみにしてるんですけれども……まぁ、宿泊のね、大人の事情で、部屋がペアになれる人が決められているわけですよ』

『初日は旅館なんだよね!』

『みんなで枕投げして遊ぼうね!』

『問題は二日目と三日目です! ホテルなんですけれどね、なんと、女子六人、部屋を二人ペアで分けないといけません。誰かというと、まぁ、エメちはぽぽちゃんとぷぷちゃんがいるので、もう部屋が、決まってます』

『ありがとうございます!』

『だから、まぁ、俺と、ミツカと、ゆかりん、で、残り三人じゃあ誰かというと』

『マネちゃんとスタッフさんです』

『そう! つまり、五人なんですよ!』

『あれ? 待って! おかしいおかしい! 二人ずつで分けるんだよね!?』

『そうなんです。このくじ、本気でやらないと……ぼっちになります!』

『『え〜〜〜〜!!』』

『やーだ! 寂しい!』

『そうだよ! 寝てる相手に悪戯できないじゃん!』

『悪戯はしちゃダメなのよ』

『待って!? スタッフさんはスタッフさんで寝れば良くない!?』

『タレントと混ぜたほうが面白いって、運営が!』

『なんだそれ!?』

『というわけでね、進行をエメちに変わらせてもらいますね』

『は〜い、変わりま〜す。みんなせいぜい頑張ってね』

『これ気になるんだけどさ、一回リスナーさんの予想を聞きたい』

『なるほど! 競馬的なね!?』

『そうか……。私たちとうとう馬になるのか……』

『はい、それでは予想をですね、コメントにて募集します。どんどん書き込んでってください! 当たった方にはね、ゆかりんがご褒美をくれます』

『仕方ないなぁ。今日のパンツの色は……』

『やめて!』

『言わせねーぞ!?』


 あたしと高橋先輩がコメントを眺める。ほうほう。全日、白龍さんがぼっちになる予想が多いな。


『ちょっと待てよ! ふざけんな! なんで俺がぼっちなんだよ!!』

『月子はどうせ女連れ込むんでしょ?』

『連れ込ま……ピリィちゃんがいるから! パートナーシップやってるから!』

『あの炎上したやつ?』

『言うなって!』

『あははは!』

『え、今回ライブにピリィちゃんは?』

『……いや、言えるわけねぇだろ!』

『『えー』』

『つまんなーい』

『言えません! ピリィちゃんが来るも来ないもご想像にお任せします!』

『もしスタッフとしていたら握手会修羅場じゃない?』

『唯一月子がファンを口説く絶好の機会だからね』

『いや、だからさ……あの……まじで……一途なんで! 浮気しないんで! でも皆さんのことは心から待ってます! あの……凶器を持ってくるのはやめてくださいね!』


 笑い声に包まれる中、白龍さんが叫んだ。


『またネットニュースになるから!』

『じゃあ早速始めちゃう?』

『それでは、ホテルの部屋を決めるくじを掛けて、ゲームスタート!』



(*'ω'*)



 一時間後、ゲームで獲得したくじ権を回数分三人が引いていく。結果が決まった。


『発表します! 一日目、ゆかりんとスタッフさん、ミツカとマネちゃん、そして、白龍月子!』

『おいなんでだよぉぉおおおお!!!』

『ざっこー!』

『ざまぁ!!』

『二日目、ミツカとゆかりん、スタッフさんとマネちゃん、そして……白龍月子!』

『嘘だ!?』


 >笑いの神様わかってらっしゃるwww

 >ぼっちwwwww

 >ここまで当たると清々しいwww


『嘘だって言えよ! 嫌だ! ぼっちは嫌だ!!』

『次は!?』

『三日目、ゆかりんと白龍月子、ミツカとマネちゃん、そして、スタッフさんですね』

『んなぁああああ!』

『待って! ミツカが倒れた!』


 >ミッちゃんが発狂してるwwww

 >今日も飛んでるわーーーーwww


『最終日!』

『頼む頼む頼む!』

『ぼっちは嫌だーーー!』

『ゆかりんとマネちゃん!』

『おおーーー!?』

『そしてぇー!?』

『そして……ミッちゃん』

『っ!!!』

『……だけです!!!』

『え!!??』

『月ちゃんとスタッフさん! 最終日ぼっちはミッちゃんです!』

『んなーーーーーー!!!!』

『しゃーーーーーー!!!!』


 >ミッちゃんが倒れた!

 >大丈夫! ミッちゃんがぼっちでも、ミツKがそばにいるから!

 >ミッちゃーーーーん!!

 >つきえもん超喜んでるじゃんwwww

 >ゆかりん安定の二人部屋wwww


『しゃあ! しゃあっっ!! しゃああーーーーー!!』

『というわけで結果はこうなりましたぁ〜』

『当たった人いる?』


 ——すごい。何人かいた。


『あ! 当たった人いるって! おめでとうございまーーーす!』


 メンバーが拍手をした。


『じゃあね、ご褒美に私の今日のおパンツの色を教えますね。黒です』

『え、形は?』

『月ちゃん!』

『ねぇ、堂々とセクハラしないでくれる?』

『いや、さっき見たんだけどさ、こいつ今日形えげつねぇの穿いてるから』

『ねーえ! 私たちアイドル!』

『え、この3Dモデルの下着じゃなくて?』

『ねーえ! 3Dモデルとか言わないで! 2.5だから! 少なくとも今この世界では2次元だから!』

『というわけで、本日の配信はここまでとなります。お送りしたのは、わたくし木陰エメと!』

『紫ゆかりと!』

『黒糖ミツカと!』

『白龍月子でした!』

『次回の配信もお楽しみに〜!』



(*'ω'*)



 ミツカさんが全力で佐藤さんに交渉した。


「二日目! 二日目部屋代わってください! お願いします! 佐藤さんしか頼めないんです!!」

「はいはい。ミツカ、迷惑かけない」

「藤原さんと……! 一日も……一緒の部屋になれないなんて……!」


ミツカさんがはっとした。


「三日目を……藤原さんと私にしちゃえば……!」

「ミツカさん、藤原さんもお仕事があるので……」

「佐藤さん! これはチャンスなんです! だよね!? ゆかりん!」

「いや駄目でしょ」

「月子!」

「言い出しっぺは守りなさい」

「泣いちゃうから! もう私泣いちゃうから!!」

「ほら、着替えるよ〜」

「泣いちゃうからーーーーー!!」


 ミツカさんが白龍さんに引きずっていかれる。念の為、佐藤さんに確認しておく。


「配信通りのお部屋で大丈夫ですか?」

「私は大丈夫ですけど、藤原さん大丈夫ですか?」

「ああ、はい。大丈夫です」

「あの……白龍さん、寝込み襲ったりしないので、安心してくださいね。ちゃんとそういうところは心得てる方なので……」

(心得てません。あいつはただの寝込みを襲うケダモノです)


 でも、ライブ最終日に一緒の部屋は正直——嬉しかった。


(リンちゃんのかっこいいところ、沢山撮らないと)


 顔には出さないが、心は踊る気分だった。



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