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第65話

 配信終了からものの1時間後にネットニュースに上がった。

『Re:connectリーダー、白龍月子、同棲中の彼女との結婚報告で大炎上』


「何してくれてるんですか!!」


 帰宅して早々、リンちゃんに怒鳴った。


「よくもあんな時間にハラハラさせてくれましたね! おかげで! 編集全然進みませんでしたよ!!」

「女優も俳優も声優も歌手も普通に結婚報告くらいするじゃん」

「あなたは! 2.5次元バーチャル歌い手、白龍月子ですよ!?」

「だからいいじゃん。結婚くらい。実際、結婚じゃないしさ」

「8月にライブも控えてるのに!」

「あ、これ明日辺りさ、100万人行くね。グループのアカウント」

「話聞いてます!?!?!?」

「はいはい。ごめんなさいって」

「今後は! 一言! 言っていいか相談してください! こっちで決めますから!!」

「絶対それNG出してたじゃん!」

「当たり前でしょうが! バカがよぉ!」

「いや、お前さぁ!」

「うるせぇでしょうが!! お前さぁじゃないんですよ! こちらは運営です!! 誰がてめぇらの数字伸ばしてやってると思ってやがるんですか! ホウレンソウしっかりしやがれって言ってるのはどこの白髪ですか! てめぇのせいでグループ全員の頭が吹っ飛ぶところだったんですよ! あなたが報告したことは、それくらい大きなものなんですよ!」

「だっ」

「てめぇは筋通したつもりでも、知りたくなかったファンだっているんですよ! だったら最初から言わないのが吉なんですよ! てめぇが満足したってファンが満足しないとパフォーマンサーとしては三流ですからね!! 自分の枠でオナニーしてんじゃねぇよ!! 自覚なしでやってやがるなら本当に怒りますよ!!!! あなたのファン一号として!!!!」

「……」

「……運営がバックにいること、スポンサーがいること、グループメンバーがいること、忘れないでください。それ以外は……ご自由になさってもらって構わないので」

「……」

「……はぁ、もう……久しぶりに大きい声出しちゃった……」


 冷蔵庫から牛乳を取り出して飲む。


「……リンちゃん飲む?」

「……」

「あ、ミルクティーにしますね。氷入れときます」


 ミルクティーを作り、むくれるリンちゃんに差し出す。


「はい、どうぞ」

「……」

「……自分が大物であること、そろそろ自覚してください」

「……」

「佐藤さんには、もう大丈夫ですと伝えてますので、明日のスタジオ配信で謝っておいてください」

「……そんなに駄目だった……?」


 ——目を潤ませたリンちゃんがあたしを見ている。


「パートナーシップ報告しただけじゃん……」

「あのね」

「結婚したくてもできないじゃん……」

「……荒れるの予想してなかったんですか?」

「いや、多少は……荒れるとは、思ってたけど……」

「同接3万ですよ。もう、えぐすぎて……」

「ぐすっ……」

「……リンちゃん」


 優しく抱きしめると、リンちゃんもあたしを抱きしめ返してきた。


「これからは一言ちょうだいね」

「……ん」

「基本は大丈夫なようにするから。ただ、結婚とか、恋人ができたとか、そういうのは、ちょっと……ね、女性歌い手グループとしては……ちょっとね」

「……ごめんなさい……」

「うん。もう大丈夫だから。しばらくはガヤがうるさいだろうけど、しつこいようなら弁護士さんに内容証明送ってもらうから。ね、大丈夫だから」

「……」

「……高橋先輩からの提案なんだけどね」

「……うん」

「リンちゃんの持ってるミキサーって、ボイスチェンジャーとかついてる?」

「……できることはできるけど」

「ツイキャスってさ、YouTubeよりは人来ないじゃん」

「うん」

「だから……」



(*'ω'*)



 〜準備中〜


『あ、どうもー。白龍月子ですー』


 >蜂!

 >蜂!

 >通知来てびっくりした!

 >YouTubeお疲れ様でした

 >何があっても僕たちは味方です!


『あー、いや、あの……ちょっと、頭が冷めまして……というのも……えっと、……ピリィちゃん声出せる?』

『あー』

『あ、いけてる。うん。ボイチェンで声変わってるわ』


 >え

 >ピリィちゃん!?

 >もしやお前、我が友、ピリィ氏ではないか?


『えーっと、……ご紹介します。ピリィちゃんです』

『すみません。突然。話題になっておりましたピリィです』


 >ピリィちゃんだ!

 >声可愛い!

 >幼女じゃないか!

 >みんな、騙されるな! これボイチェンだぞ!


『すいません。特定されると厄介なので、ボイチェンをさせていただいております』

『はい』

『先ほどはうちのバカが大変失礼いたしました。これは二人で謝罪した方がいいという判断をいたしまして、あたしの方からも、この報告を知りたくなかった方に向けて、謝罪申し上げます。大変申し訳ございませんでした』

『……すみませんでした』


 >バカって……wwww

 >気にしないで!ww

 >本当の働き蜂はそんなことで離れないから!

 >まさかピリィちゃん出てくるとは思わなかった


『白龍さん、あの後運営から連絡があったんですよね?』

『……はい、ありました』

『叱られたんですよね?』

『……はい』

『突然のご報告で、皆様パニックになられたかと思います。今後はきちんと準備をした上で、皆様がパニックにならないよう、配慮をした配信をとっていただくようにいたします。この度は大変申し訳ございませんでした』

『……すみませんでした』


 >ピリィちゃんめっちゃしっかりしてる……!

 >私の言いたいこと代弁してくれて、今すごいびっくりしてる

 >そうなんだよ。さっきはすごいみんなパニックになってた


『そうですよね。本当にすみません。うちのバカが』

『……バカでーす』

『ただ、パートナーシップのことは、二人で長い間話し合って決めたことです。そこで、我儘なお願いではございますが、皆様はあたしよりも長く白龍月子を応援している方が大半かと思います。あたしと一緒になったところで、白龍月子は変わりません。あたしよりも配信や歌を優先し、皆様に最高の歌を届けます。どうか、これからも、白龍月子を見守っていただけますと、幸いでございます』


 >もちろんです!

 >応援してますよ!

 >8月のライブ楽しみにしてます!!


『スタッフ一同、最高のライブにいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします』

『……えっと、みんなピリィちゃんに質問ある?』


 >なんで六年間連絡返さなかったの?

 >ゆかりんが月ちゃんが話を盛って話してると言ってましたが本当ですか?

 >ぶっちゃけ白龍のどこがいいの?


『六年間連絡返さなかったのは、もう、自然消滅を狙っていたとしかあたしは言えないです。女性同士で恋愛していること自体、世間体が良くないイメージがありまして、白龍さんから連絡があったことは周りから聞いてはいたのですが、明日でいいやが積み重なって六年になってました』

『そうだよ。みんなさ、ピリィちゃんしっかりしてるって言ってるけどさ、結構こいつだらしないからね?』

『白龍さんが話を盛ってるのは本当です』

『盛ってないから! 本当だから!』

『白龍さんの何がいい……。……大切にしてくれるところ?』

『……いや、そりゃあ……ね』

『なんか、寂しい時とか、寝れない時とかに、ぎゅってしてくれるところとか、とりあえず……心の隙間を埋めてくれるところ……かな……?』

『……ちょ、次! 次の質問!』


 >月ちゃんが照れてるぞ!

 >ガチ照れじゃん

 >月子に言われて気持ち悪かったことベスト3


『あ、えっと、言われて気持ち悪かったことは、「彼女を支配したい」「裸エプロン見たい」「彼氏がいたらハメ撮り撮って脅して寝取ってた」』

『いや、ちがっ……それはさぁ!』


 >ハメ撮り……?

 >何それ……

 >流れ変わったな……


『あ、でも……「破れたストッキングちょうだい」も結構気持ち悪かっ……』

『ちょちょちょちょ! ちが、つ、ちょ、ピリィちゃん! ねぇ、待って!』


 >破れたストッキングちょうだい?

 >ファーーーーー!?

 >アウトーーーーー!


『あ、あれもあった。「ラブホテルはあっちだよ」』

『待って……お願い待って……待って……待って……!』


 >どういうこと?

 >ラブホテルはあっちだよって?


『えっと、一緒にお買い物してる帰りに、ホテル街? の道を通って、そこが近道になってたので、一緒に歩いてたんですね。で、まぁ、次お買い物どこ行こっか? みたいな話をしてる時に、腕ちょんちょんってされて、「ピリィちゃん、ラブホテルはあっちだよ、ぐふふ」って』


 >次のお買い物先がラブホテル……ってこと?

 >いや、ごめん、普通にきしょい

 >これは白龍が悪い


『ごめん、一回、ピリィちゃん、一回ちょっと落ち着こう?』

『あとあれかなぁ? 生理の周期当てられた時』

『いや、それはさ!』


 >え?

 >生理の周期?

 >え? え?

 >どういうこと?


『いや、だから……わかるじゃん! ルナルナとかさ、見ててさ! あ、この時期なんだな〜。じゃあこの時期にくるなぁ〜って、女だったらわかるんですよ!』

『でも、だからって毎回生理用の下着用意します?』

『いや、めっちゃいいじゃん!』

『ナプキンとかだったら全然いいんですけど、下着は結構きついです。あと笑顔で下着の色当てられるのもきついです』

『いや、だって、それは、だって……』


 >下着の色当てるの……!?

 >月ちゃん、どういうこと?

 >ちょっと、結婚報告よりも納得いかないんだけど!?

 >ちゃんと説明してくれる!?


『いや……だからさ……その……合体する時にさ……大体わかんじゃん……。こういう下着つけてるとかさ……』

『着替えてるところ見てないのに当ててくるのはあれなんですか?』

『いや、だから……昨日はこれつけてたから……今日はこれかなぁ……みたいな……?』

『いや、だから、なんで昨日の下着知ってるんですかって話ですよ』

『いや……洗濯機の中にさ……入ってるの……見えるじゃん……』

『……え? 別々の網使ってますよね?』

『……スゥーーーー』


 >え……?

 >覗いてる……?

 >嘘でしょ……?

 >白……龍……?


『……いや! これは……男性陣に聞きたい! 絶対味方はいる! ……見るよね!? 彼女の下着入ってたら、確認くらいするよね!?』


 >いや、普通に風呂入るわ

 >見ない

 >見るっていう発想がない

 >見なくてもその後見れるんだからいいだろ。脱がすんだから

 >え、見るんだが……


『ほら! いる! いたって! ピリィちゃん!』

『あとでちょっと二人で話しましょうか』

『ぐっ……!!』


 >ピリィちゃんきちぃ〜!!

 >言ったれ! 言ったれ!!

 >待ってw これめちゃくちゃ面白い……ww


『ごめん、本当に……本当にごめん、ピリィちゃん、愛故の行動だから、まじで、許して、本当にごめん……』

『いや、普通に犯罪予備軍ですよ』

『違う、まじで……ピリィちゃん限定……まじで……ごめんって……ほんとに……あの、くぅ……』


 消え入りそうな白龍さんの声に、リスナーたちが盛り上がっていた。



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