第63話
出社した日、高橋先輩を呼び出した。
「おう。お疲れー」
「お疲れ様です」
「実家どうだった?」
「寝てばかりでした」
「まぁ、実家なんかそんなもんだよな」
高橋先輩が隣の椅子に座った。
「で? 話って?」
「Re:connectの運営についてなのですが」
「うん」
「あたし、続けたくて」
「ああ、それはもう、ふじっちいないと、手が回らないから」
「というのを踏まえて、高橋先輩にだけお伝えします」
「何」
「あたし、結婚みたいなものをするんです」
——高橋先輩が手で口を押さえた。
「ほう?」
「来週、パートナーシップの宣誓手続きっていうものを、してきます」
「……パートナーシップ?」
「お相手なのですが」
ちゃんと伝える。
「白龍月子さんです」
「……」
高橋先輩が足を組んだ。
「……」
周りを見た。ガラス窓の向こうでは、みんなが仕事をしている。高橋先輩がゆっくりと伸びをして、あたしに少し近づき——声をひそませた。
「ピリィちゃん?」
「あたしのことです」
「……ルームシェアの相手」
「白龍さんです」
「……」
「……高校時代の先輩なんです。……連絡したいことがあるって……連絡だけあることを、周りから聞いてて……6年間、返事してなくて……こちらで受け持った時に……再会した……という流れになります」
「……」
「運営、続けたいです。一緒に……お仕事したいんです」
「……まぁ……」
高橋先輩が頭を掻いた。
「私情持ち込まないなら、いいんじゃね? 別に」
「……」
「まあ、言うも言わないも自由だし、黙ってれば良いじゃん。隠してるわけじゃなくて、言わないだけな?」
「……はい」
「結婚するんだ?」
「……結婚ではないのですが」
「結婚するんだ?」
「……はい」
「そっか。……おめでとう」
高橋先輩が笑みを浮かべた。
「じゃあ、いっぱい稼がないとな! 忙しくなるぞー! はっはっはっ!」
視界が揺れた。あたしの顔を見て、高橋先輩が笑いながらティッシュ箱を掴んだ。
「おい、なんで泣くんだよ!」
「安心して……」
「んだよ。同性愛とか今の時代普通だろ!」
「普通じゃないです……」
ティッシュで顔を隠す。
「普通だったら、レズビアンとか、バイセクシュアルとか、そんな名称できないです。普通じゃないんです……! 同性好きになった時点で、もう普通とはかけ離れるんです……!」
「……」
「あたし怖いです……同性とそういう関係になって……後ろ指さされないか……怖いです……」
「……それはさ、もうしょうがねーじゃん。好きになっちまったんだろ? 放っとけって話だけど、言いたい奴は言ってくるからさ」
「怖いんです。あたし……それだけが、もう……昔から怖いんです……」
「言わなきゃ誰も何も言わねぇし、言われたところで関係ねぇだろ。お前と白龍さんの人生なんだから」
「……」
「何? だから六年間も連絡しなかったの?」
「……はい」
「ご家族は?」
「……あたしの両親が……できる白龍さんの側にだらしないあたしをいさせることが不安だって……」
「あ、それは俺も思う」
「ぐす……ぐす……!」
「いや、うん、でもさ? 関係ねぇから。ご両親がOKしてるならいいじゃん。良かったな。偏見がない両親で」
「……はい」
「……撮影、明日になったから。YouTubeアカウントが100万人多分いけそうって話で、明日生配信で行ったらいいって話で……21時から。行けそう?」
「行きます」
「うん。いつも通り頼むな」
「はい」
「……結婚かぁー。いいじゃん。なんか、嫁と結婚した時のこと思い出す」
「……先輩が酔っ払って居酒屋のカーテン破いたやつですか?」
「お前さぁ!」
「ふふっ」
「……陽子がまたご飯行こうってさ」
「あ、行きたいです」
「……時間あれば白龍さんも連れて来れば?」
「……いいんですか?」
「俺はいいよ」
「じゃあ、……時間が合った時に」
オフィスでは、各々が仕事をするため、手を動かしていた。
(*'ω'*)
〜準備中〜
『はーい、こんばんはぁー。みんなのハートを射止める女王蜂歌い手、白龍月子ですー。どーもですーーーー』
>蜂!
>蜂!
>女王様! こんばんは!
『いやいや、一週間お休みをいただいてましてね、ありがとうございました。高校時代の部活の同窓会があってね。懐かしかったぁー』
>いい女いた?
>浮気したの?
>もう、月ちゃん、手が早いんだから。
『待って。なんで俺が浮気した前提になってるの? 待って! 待って! それおかしいから! してないから! 一途だから!』
>同窓会どうだった?
>俺同窓会行った時に仲良かった友達はげててびっくりした
『いや、なんかね、みんな大人になってましたよ。もうね、垢抜けて、お綺麗になってましたよ。いや、女だけじゃなくて、男性陣もね、パパになってる先輩とかもいたりして』
>一児のパパです
>同級生が結婚して家庭築いてると焦る
『あのさー、みんなに聞きたいんだけどさ、もし私がピリィちゃんと結婚したらさ、それって報告したほうがいいの? しないほうがいいの? はい、じゃあ、してほしい人挙手』
かなりの数が挙手の絵文字を使った。
『してほしくない人挙手』
かなりの数が挙手の絵文字を使った。
『んーーーー、でも色恋営業で配信してるわけじゃないから、結婚したら結婚したって伝えるべきか』
>月ちゃん結婚したら祝いの品送る
>プロポーズされた?
>同性同士って結婚できないんじゃないの?
『あ、パートナーシップね、戸籍とかは変わらないんだけど、うーん、なんか、行政サービス? が受けられるようになるのと、まぁ、支え合うパートナー同士ですよ〜っていう了承を得る、みたいな感じだから、まぁまぁ、結婚とは違うし、同性愛じゃない人も受けれる制度だから、全く違うんだけど、同性同士の違う形の結婚、みたいなもんかなって印象。相続とかするなら養子縁組とかの方がいいらしいんだけど、まぁ、パートナーシップでいいよねーってピリィちゃんと話しててさ』
>話してる?
>え、結婚すんの?
>どういうこと?
『あ、じゃあ言うか。あのですね、まぁ、今までと対して活動は変わりません。歌も歌い続けるし、8月はライブも控えてますんでね、まぁ、その中なのですが』
LIVE2Dの白龍月子が笑みを浮かべた。
『ピリィちゃんと正式にパートナーシップ宣誓の手続きをする運びとなりました。あの、いわゆる……結婚ではないんですけど、まぁ、はい。予約しまして、うん、心で、結婚します。ピリィちゃんと』
「……ねぇ、ふじっち」
「ん?」
「白龍さん、炎上してない?」
「……え?」




