第53話
〜準備中〜
『はーい! おまたせしましたぁー! シュガーは絶対黒糖派! 黒糖の伝道師系歌い手、黒糖ミツカでぇーす!』
>復帰おめでとう!
>ミッちゃん、待ってたよ!
>君が元気でいてくれてよかった!
>大好きだよ! ミッちゃん!
『いやいや、本当にご心配かけました。もうね、この時期体調が悪くなってしまうんですよ。二週間、お休みいただきましてね、ゆっくり休めました!』
>元カレから暴露来てましたね
>元カレ!
>ストーカー大丈夫?
『あ、なんかあったみたいですね! 大丈夫だよ! あれ二年前に終わったことだから! もうね、当時を知ってる人は知ってると思うけどさ、あの時期かなり病んでたじゃん! あれです! もう終わったことだから、みんなも気にしないで欲しい! 今はもうね、恋とかしないことにした。歌に集中します。割とガチで』
>月ちゃんが見事だった
>リコネの絆を感じた
>もうこの話題は触れない! それでミッちゃんが笑顔なら、もう何でもいい!
『あのね、月子にも言われたんですよ。やっぱりさ、私がね、みんなが思ってる以上に見る目がないんですよ。関わる人をね、ちゃんと定めないといけないと思って。今度彼氏ができたら、まずみんなにお知らせして、彼氏にしていいか聞こうと思います』
>そうしてくれ
>できれば知りたくない
>いいよ。ミッちゃんが幸せならそれで
『トラブル起こして本当にごめんなさい。心配もかけて、ごめんなさい。……正直ね、今回のことで幻滅した人はいると思うんだ。でもそれはそうだと思う。だからね、幻滅した人は、大丈夫です。私は何も言えない。でも、それでも、こんな不器用な私でも、まだ愛してくれる方は、これからも私と仲良くして欲しい。私はみんなのために歌い続けるから』
>もちろんだ!
>ミツKはずっとミッちゃんについてくよ!
>それこそミッちゃんだ!
>あなたの歌声が好きです。ずっと応援してます
『ありがとう。私も……みんなのこと大好きだよ!』
あ、それでね
『最近ポケモンGO始めたんだけどさ! 誰か詳しい人いない!? フレンドなろう!』
(*'ω'*)
「今回の件は、スポンサーの方々も同情してくださり、契約解除にはなりませんでしたが、これからより一層案件が増えてくると、不祥事があれば問題となります。メンバーにも厳しく伝えておいてください」
「わかりました」
「申し訳ございませんでした」
「では、撮影もありますし……解散で」
会議室を抜け、あたしと高橋先輩はスタジオに向かう。
「お前マジで今後はやめろよ。ああいうの……」
「いや、はい、自覚してます。ほんとに、バカな真似をしました……」
「次やったら本気で胴体と頭が切断だからな」
「わかってます……はい……わかってます……」
「高橋さん、藤原さん、タレントさん方、到着してます」
「はぁーー……やるぞ。ふじっち……」
「人手増やして欲しい……」
扉を開けると、高橋先輩がいつもの営業スマイルを浮かべた。
「おはようございますー!」
「「おはようございまーす!」」
「本日もよろしくお願いします! じゃ、キャプチャスーツ着れた方から、こちらに移動お願いしまーす!」
更衣室からキャプチャスーツを着たメンバーが出てきて、あたしは出てきた順からマイクをつけていった。
「藤原さんいつもありがとうございます」
「いえいえ」
「ふじっち、ありがとう!」
「いえいえ」
「あれ、藤原さん、前髪切りましたか? 似合ってます」
「ああ、ありがとうございます。白龍さん」
「手が震えてますね。可愛いです」
「はは! もう少し身を屈めてもらえますか? 背伸びしているせいで、震えてしまって!」
「身を屈めたら、キスができそうですね」
「はい! マイクつけ終わりました! 次ミツカさんお願いします!」
「はい!」
キャプチャスーツを着たミツカさんがあたしの側に寄ってきた。
「マイクつけますね」
「あの……藤原さん」
「はい?」
「下のお名前、月子っていうんですね」
「……ああ、はい。そうなんです」
「月子と同じ名前なんですね」
「ええ。そうなんです」
「あの……月子さんって、呼んでもいいですか?」
……あたしは笑顔を浮かべた。
「構いませんよ」
「あ、ふふ、あの、えっと……白龍の方も、月子じゃないですか」
「はい、そうなんですよね」
「だから……あの……私、運命だと思って」
「え?」
「親友と……好きな人が、同じ名前だから……」
その瞳は、とても輝いている。
「月子っていう名前に、私はきっと、恵まれているんだと思って……」
「……え、えっと……ミツカさん、しばらく好きな人は作らないんですよね?」
「月子さん」
ミツカさんが、小声で言った。
「私、諦めてません」
「……」
「だって、ああ言わないと……月子さんが編集担当から外されるかもしれないから……お喋り、出来なくなると思って……」
「……ああ……あはは……あのー……」
慎重に、聞いた。
「あたし、女ですよ?」
「はい! わかってます!」
光り輝く瞳が頷いた。
「覚悟してます!」
「何の覚悟ですか?」
「私、初めてなんです。こんなに私を大切にしてくれたの……月子さんだけなんです……」
手をきゅ、と握られる。
「これから、私を好きにさせます。そしたら、会社に秘密で、付き合ってください」
「えっ……と……ですね……」
「あ、煮物作ってきました! 受付の方に、預かってもらってるので、食べてください!」
「えっ」
「あと、お菓子も買ってきたので、編集班の皆さんとでぜひ……」
「え、えっと……」
「あと……あの……今度の日曜日、空いてたら……一緒に……デート……」
――白龍さんが、間に入った。
「ミツカ、マイクつけ終わった?」
「あ、月子、あの、今、月子さんと……」
「あ?」
「藤原さんと、大事な話してて……」
「そっか。でもさ、撮影のほうが大事だから」
白龍さんがミツカさんを引っ張った。
「はい、こっちー」
「あ……あぁ……! 藤原さぁん……!」
(……あー、怒ってるわぁ……)
白龍さんから、殺意を感じるわぁ……。
(これで撮影するの? まじ?)
「ふじっち、始めるぞ!」
(まじかぁー……)
「では、いきまーす! よーい!」
高橋先輩がカメラを構えた。そこには、3DのRe:connectメンバーが映っていた。
『えーー、重大発表と言いますか……あのー、公式から許可を頂いてるので……お伝えします。えーとですね、……わたくし、サクラ梅……Re:connectの、研修生となりました!』
>え!?
>研修生!?
>どういうこと!?
『えっとね、実は運営からスカウトのメッセージが来まして、三つのミッションをクリアすれば、Re:connectのメンバーとしてデビュー出来ます。ただ、かなり厳しいミッションです。そのために、みんなには……かなり、応援をしてもらうことになります!』
>なんだ、ギフトか?
>いいよ。投げるよ
>何が欲しいの
『あ、違うの! ギフトじゃなくて! フォロワー数! それと、これから投稿する動画の再生数! だから、これね、正直TikTokのシステム全無視のミッションなんですよ。でね、投稿動画で……あの……梅の実写をね、出さなきゃいけないんですけど……これを言うのはすごく怖いんだけどね、あのね、私ね……!』
サクラ梅が告白した。
『すごい……太ってるの!! もう、ごめん! 豚なの! 私! だから、まじで、幻滅すると思う! 離れてくれる人はもう、いい! 私は引き留めない! でもね! どうしても私は、Re:connectに入りたい! デビューしたい! だから! すごい恥ずかしいけど! このデブな体を出して、動画を投稿します! お願いがある! みんな! もしまだ、梅を信じてくれる人は……!』
それは、切実な願い。
『お願い……! 最期まで……応援して……!』
サクラ梅の震える声に、人々の心が動かされる。




