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第52話


 高橋先輩から着信があり、あたしは応答ボタンを押した。


「はい、藤原です」

『おっせぇよ! バカ! 何やってんだ!!』

「あのですね、あたしだってプライベートな時間があって……」

『ミツカさんがリークされてるんだ!!』

「……は?」


 あたしはすぐにパソコンを開いた。


「何てチャンネルですか!?」

「ユカタチャンネル!」

「ユカタチャンネル? なんか聞いたことある気が……」


 ユカタチャンネルを検索すると、丁度生ライブ中であった。クリックすると、8000人もの人々がライブを見ていた。


『つまり、時系列で言うと、黒糖ミツカさんと恋人関係であったが、浮気されたあげく、一方的に別れを切り出されたと』

『はい』

『で、謝罪はされたけれども、非常に軽いものだったと』

『そうですね。こちらからすれば、沢山貢いだし、お金もかけたし、結構本当に色々してあげてたんですよ。なのに、浮気されて、別れ切り出されて、ごめんなさいで終わらせられるのは納得がいかなくて』

「あ……え、えっと、高橋先輩、ちょっと、あの、ちょっと、ミュートにします!」

『おい! ふじっち……』


 あたしはすぐにミュートにし、――電話を奪おうとしていた西川先輩に振り返る。


「やめてください!」

「ちょっと話させて」

「あたしが対応します!」

「じゃあ許可ちょうだい。この枠入らせて」

「だ……駄目に決まってるじゃないですか!」

「大丈夫だから」

「いや、大丈夫じゃないでしょう!」


 ミツカさんの積み重なったものが、今来ている。確実に炎上もので、スポンサーも案件も消え、復帰しようとしているミツカさんの道が閉ざされようとしている。


「考えろ、対応策、考えろ、考えろ……!」

「だから、直接話すから許可ちょうだい」

「絶対炎上しますから!」

「絶対大丈夫だから」

「……絶対大丈夫なんですか?」

「絶対大丈夫」

「……」

「ツゥ、早くしないと、ミツカを守れなくなる」


 西川先輩があたしを見つめる。


「枠に上がる許可ちょうだい」

「……ま、待ってください……」


 高橋先輩との通話に戻る。


「高橋先輩……」

『明日の朝緊急会議。絶対出社な』

「あの……そのことで……あの……白龍さんから……連絡が来ていて……」

『何』

「絶対大丈夫だから……枠に上がらせてほしいって……」

『絶対大丈夫って何だよ。許可するわけねぇだろ』

「えっと……えっと……!」


 運営側としての意見。絶対に上がるな。何が何でも弁護士に任せろ。でないと、スポンサーが離れるぞ。

 個人的な意見。絶対大丈夫なんですか? だったら通話してみてもいいかと。

 ミツカさんのことを思っての意見。絶対に守りたい。絶対に彼女はRe:connectには必要なメンバーである。命に変えても守らなければいけない。


 何を優先する。どの意見を優先する。


『とにかく、メンバーには絶対枠に上がらないよう伝えてある! お前は配信見て、暴露内容確認しておけ!』

「……高橋先輩」

『あ?』

「白龍さんが……絶対に……大丈夫だと……言ってるんです……」

『許可できない』

「炎上したら……あたしを……クビにしてください……」


 白龍月子と、目を合わせる。


「あたしが……運営の人間として……許可します……」

『……お前何言ってんだ?』


 白龍月子が配信部屋へ移動した。


『ふじっち、お前誰かに連絡してないだろうな?』

「高橋先輩、すみません、本当に……勝手な真似を……」

『ちょっと待て、お前、誰に許可した?』

『……あ、少々お待ちください。一旦ミュートにします』


 ユカタさんが凸者をミュートにし、少し黙り、声を漏らした。


『はぁ?』


 そして、ミュートを解除した。


『ああ、すみませんね、少しリコネリスナーが沸いてましたのでね、お話してました』

『はぁ』

『……ちょっと聞きたいんですけど、あのー、これ、本当の話なんですよね?』

『はい』

『僕に言ってないこととかありませんか?』

『これが全部です』

『本当にありませんか? 追加の話とか、言い忘れてることがあれば聞くんですけど』

『いや、とにかく、謝罪さえあれば、許しますって感じですね』

『ほうほうほう。そうですか。……えー、今ですね、グループのリーダーの白龍月子さんから貴方に言いたいことがあるそうでして、上がれるとのことなので、上がってもらいますね』


 ――ユカタチャンネルを見ていた野次馬達が盛り上がる。XがRe:connectのことで盛り上がる。高橋先輩があたしを怒鳴った。あたしは心臓を震わせながら、天に祈った。


『お疲れ様ですー。白龍月子ですー』

『どうも夜分遅くにすみません。私、ユカタと申しますー』

『はい、存じております』

『何か、この男性に伝えたいことがあるそうで』

『あのー、……貴方、ミツカに復縁迫りすぎて接近禁止命令出されてますよね?』


 ――途端に、空気の流れが変わった。


『しかもこれ二年前の話ですよね? まだやってるんですか?』

『え……』

『あの、僕言いましたよね? 他に話してないことありませんか? って。嘘はつくなよって、言いましたよね? 貴方、全部話したと言ってましたけど、これどういうことですか?』

『いや、二年前……確かに、二年前のことですけど』

『はい。二年前に終わってる話なんですよ。今さら何ですか?』


 白龍月子の告白で、ミツカさんを叩こうとしていたリスナー達が、手のひらを変えた気がした。


『え、白龍さん、これ全部お話してもらっていいですか?』

『まず、この方とミツカが別れた理由なんですけど、一番大きな要因は、この方からの暴力が原因となります』

『え、ちが……』

『えっ、暴力ですか!?』

『浮気というのは、この方と別れた後に関係を持った方のことですね』

『え、それ浮気じゃなくないですか……?』

『えー、で、実際その時の病院の領収書と、怪我の画像、彼がミツカに暴行を加えてるデータはこちらで保存してます』

『それ見せてもらっていいですか?』

『大丈夫ですけど、警察と弁護士が入ってるので、配信で流さないでいただけますか?』

『あ、わかりました。僕だけ見ます』


 ユカタさんだけがデータを確認した。


『あ、これ酷いわ。ごめん。見せれない。俺がBANになる。……おい、凸者お前!』

『はい』

『はい、じゃねえよ。ふざけんな! てめぇ!! なんで俺達がてめぇのストーカー行為手伝わなきゃいけねぇんだよ!!』

『いや、ストーカーとかしてないです』

『じゃあなんで接近禁止命令出されてんの!? テメェがしつこく女の尻追いかけ回した結果じゃねぇのか!?』

『いや、ちょっと、やめてください。怒鳴らないでください。うるさいです』

『は? 何、お前、弱い女には吠えるけど、吠えられるのは苦手なんか? あ!? ふっっざけんじゃねえぞテメェ!!』


 完全に流れが変わった。リスナーの標的は、完全にリーク者へと変わった。


『動画見たけどてめぇ散々ミツカさん痛めつけてるみてぇじゃねえか! だったら同じことされても何も言えねえよな!?』

『いや、痛めつけてるとかじゃなくて、恋人だったらあるじゃないですか。そういう喧嘩』

『へーえ! これ、喧嘩で済ませられるんだ!? だったら腕に煙草押し付けたり、泣き叫ぶ女蹴ったりするのも喧嘩か! じゃあ俺がお前の腕に煙草押し付けて、蹴って殴ってもいいわけだ!!』

『いや、それは違うじゃないですか。脅迫ですよ』

『脅迫はどっちだよ! テメェ! ふざけんなよ!! だからフラれるんだよ! ばーか!!』

『ユカタさんは……何も知らないじゃないですか』

『は? そりゃそうでしょう! 好きな女に暴力奮って振られてしつこく復縁迫って、挙句の果てに謝罪が欲しい!? お前女々しいにも程があるだろ! 痛々しいわ!! さっさと諦めて消えろ!! クズ!!』

『いや、じゃあ言いますけど、結構メンヘラ行為されてたんですよ。腕切るところ見せられたりとか……』

『あ、切れた。いや、お前さ、ガチでバカなの? 女を好きになった以上、その女をどんな形でも守るのが男だろ!! テメェみたいなのがいるから、俺達男がとんでもない愚か者として女たちから見られるんだよ!! ふざけんなよ! ストーカー野郎!! 自分の行い見つめ直してから来やがれ!! バカが!!』


 ユカタさんが白龍さんに声をかけた。


『あ、白龍さんから伝えたいこととかありますか?』

『接近禁止命令が出されているにも関わらず、接近しようとしたこと、警察と弁護士に報告させていただきます』

『あーあ』

『いや、接近はしようとしてない……』

『は? お前、本物か? 関わろうとした時点で接近しようとしてんだろ』

『え、これって接近になるんですか?』

『はぁ……?』

『え、接近って、会わなければいいんじゃないんですか……?』

『……いや、お前駄目だわ。だから振られるんだって。ミツカさん、正解だよ。お前みたいなの振って。二年前に終わったことを今さら思い出したように引っ張ってきて。ただのチー牛がさ。俺達巻き込んで。ふざけんじゃねえよ。マジで。お前本気で女好きになったことある?』

『ありますよ』

『あったらなんで煙草押し付けてんの。好きな女にそんなことして嫌われないってなんで思えるの? 言って』

『いや……』

『早く言えって言ってんだろがぁ!!』

『いや、だから、怒鳴らないでください』

『……お前人生終わりだよ。捕まるんじゃない? だって接近禁止命令出されてるのに接近しようとしたんだから、もうアウトでしょ。あーあ、ミツカさん可哀想。しかも今何? 体調崩してるの? このタイミング狙ってくるのヤバない? お前』

『……』

『いや、ガチでわからん。好きな女だったんだろ? なんでそんな酷いことできるの? しかもさ、相手歌い手だろ? ファンがいることもわかってんのにさ、なんでお前、そんなことできんの?』

『……いや、接近……じゃないと思って……』

『いや、お前のやってること接近以外の何者でもないから。あわよくば復縁狙ってたんじゃないの?』

『……いや、普通に……』

『何! はっきり喋ろよ!!』

『彼女もそれを望んでるので……』


 ――リスナーが引いてるコメントを打った。


 >は?

 >本気で言ってる?

 >凸者、何言ってるの?


『え、二年前に振られて、まだ復縁できると思ってんの?』

『……振られたんじゃなくて、自分から振りました』

『いやいやいや! いいって! そういう意地! 振られたんだろ!? いや、お疲れ! お前と別れた後すぐに別の男に関係持たれてさ、プライドがへし折られて辛かったねぇ! でも全部お前がやった結果だからな!? 相手に全責任なすりつけようとしてんじゃねぇよ!! 男だろ!!』

『いや、本当に自分から振りました……』

『だったらなんで復縁迫ってんだよ! 気色悪いんだよ!!』


 >もう飽きた

 >黒糖ミツカそんなに知らないけど、可哀想

 >これは男が悪いわ

 >ユカタちゃん、もうこの人落として。つまらん


『お前はもう少し女の扱い慣れてから恋愛しろ!! 二度と近づくんじゃねえぞ!! この、クソ陰キャチー牛野郎!!!!』

『いや、チー牛じゃ……』


 通話が切れた。ユカタさんがキーボードを叩く音が聞こえ、次の瞬間、また白龍月子と通話が開始された。


『お疲れぇー』

『お疲れ! ユカタちゃん!』

『久しぶり』

『いや、ユカタちゃんでよかったよ。リーク先』

『あのー、つかぬことをお伺いしますが……ミツカさんって……男の見る目ない感じ?』

『ないね』

『くっくっくっ……! お前さ! 少しはメンバーのこと守れよ!!』

『あははは! だから守るために上がったじゃん! あれ本当に質悪い男だったから、絶対こういうことあると思ってデータ残してたんだよ』

『いや、本当に動画見たけど、マジで酷かった』

『ユカタちゃん、ああいう男どう思う?』

『ああ、もうただのクズ』

『はっはっはっはっ!!』

『あ、でも、完全に別れる前とかだったら、浮気ってなる可能性はいくらでもあるので』

『あ、それはもう、はい、伝えておきます。ろくな男と付き合うなと』

『お互い不祥事には気をつけましょう』

『またライブ行くんで!』

『あー、お待ちしてます。いつもね、ありがとうございます』

『何言ってんの。俺とユカタちゃんの仲じゃん』

『え、じゃあ……俺とイプ、できる……?』

『女声なら』

『白龍……私……イプしたい……』

『いいよ。五万でどう?』

『するわけねーだろ! くたばれ! レズ女!!!』


 白龍月子が落とされた。


『はぁー。……いや、なんか話聞いてるうちに、変だなーとは思ってたんですよ。なんか、所々で矛盾があったし。蓋開けばただのストーカー陰キャ男。あのねー、歌い手に彼女彼氏セフレがいないと思ったら、大間違いだから!! いるから!! リア恋したって、結ばれるわけねーから!!』


 >その通り

 >年齢も年齢だからいてもおかしくない

 >別に別れるのは犯罪じゃないしなぁ


『あとね、リコネは知らないけど、白龍さんはね、実は昔から付き合いがあるんですよ。音楽のツテでね。何回かご飯も行ってて。白龍がいるならグループ自体も信頼あると個人的には思いますけどね。まー、メンバーが不祥事起こしたらそれはもう本人の責任ではあるけど、でも今回のは流石にミツカさんが可哀想すぎない? 体調崩してるタイミングで来るか? 普通。元カレとして振る舞い方があり得ないだろ。マジで。信じらんねぇ。いや、正味、まじで浮気されてたかもしれないよ? ……でもさ、自分で先に暴力ふるっといて、別れ切り出されたら復縁って、キショすぎだろ。ああ、嫌だ嫌だ。ま、うちのリスナーはね、うちの配信を見てるのでね。ああならないように気をつけてくださいね。女に暴力していいのは、撃たれる覚悟がある奴だけだ! あ! 待って! あ! 彼女を過疎配信者に寝取られた時の記憶が! あっ!!』


 ……展開が方向転換した。高橋先輩が息を吸った。


『藤原』

「……はい」

『次はないからな』

「……そのように、認識します……」

『一回、トラブルが起きないよう、歌い手としての注意事項を白龍さんとまとめろ』

「はい……。まとめておきます……」

『……はぁ……』

「すみません……」

『……俺にも守れない時があるからな……』

「わかってます……本当に……いつも……すみません……」

『明日ミーティング。出社しろ』

「はい。必ず」


 通話を切り、その場で脱力する。……乗り切った……!


(本気で……クビになるところだった……!!)

「……ただいま」


 振り向くと、あたしの部屋を覗く西川先輩が、笑顔で立っていた。あたしはため息を吐き、胸を撫でる。


「……誰ですか。あれ……」

「ユカタちゃん。音楽仲間だよ。配信者としても面白いけど、あの人が作る音楽の方が好きなんだ」

「……はぁ……そうですか……」

「凸者だけの話を鵜呑みにしないで、両者の話を聞いて、ちゃんと証拠を提示したうえでどっちが悪いか判断してくれる、すごい筋が通った人だからさ、説明さえすれば絶対流れ変えれると思ったんだよ」

「はぁ……」

「いやいや、ありがとうございます。藤原さん。許可をくださって」


 白龍月子に抱きしめられる。


「お陰でミツカを守れました」

「……高橋先輩から……一度……制約を決めろと……言われたので……手伝ってください……」

「あ、オッケーオッケー。それ本当に大事だと思って、今回の件が終わったら個人的にメンバーに出そうと思ってた」

「あ、もう……運営から出します……」

「データ渡すね」

「……はぁーー……怖かったぁ……」


 西川先輩にすりすりされる中、あたしは盛大なため息を出した。


 ちなみにこの頃、佐藤さんはパニックになっていたが、当の本人のミツカさんは、気持ちよく眠っていたそうだ。



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