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第48話


 白龍さんがミツカさんと話す。


「しばらく休んでていいから」

「ごめんなさい……」

「ううん。ミツカは悪くないし、動けるようになってからでいいよ」


 白龍がミツカさんの頭を撫でる。


「全然急いでないし、無理する必要ないし、ちゃんと回復してから一緒にやってこ」

「なんかね、多分、彼氏とセフレどっちも消えたことが……寂しくて……」

「うん。だから、ゆっくりやっていけばいいから。5年もやってるしさ、ファンはそう簡単に離れないから」

「ごめんね……月子……」

「大丈夫」

「サクラ梅ちゃんがさ、私のことすごい褒めてくれるの。でもさ……違うじゃん……私全然そんなんじゃないじゃん……」


 ミツカさんがすすり泣く。


「全然違うじゃん、私、駄目じゃん。もう、いつも、こんなんで」

「……私は全然そう思ってないから」

「ぐすっ……!」

「ミツカは、頑張らないことを頑張ろうね。えっとー、何もしないことを頑張ろうね」

「うぅー……」

「大丈夫。焦らないでいいから。全然。大丈夫だから」


 一方、なんてことでしょう。完全に部屋が美しい部屋へと元通り。


「一晩でさぁ、ここまでできるのすごくない?」

「ゆかりさん手際よかったです……!」

「仕事辞めた時にさぁ、調べたよね。ゴミ屋敷から脱出する方法」

(あ)


 部屋から白龍さんが出てきた。あたしの手を掴み、玄関へ向かって歩いていく。


「じゃ、ゆかりん。あと頼むね」

「ちょちょちょちょ」

「いやいや、頼むね、じゃないんですよ」


 白龍さんの手を振り払う。


「白龍さん、残るって言ってますよね」

「お前は帰る」

「帰りません。残ります」

「いや、お前さ」

「白龍さん、口が悪いですよ」


 思い切り睨まれる。だからあたしを睨み返す。ゆかりさんがその間に入った。


「白龍、ここだとミッちゃんに聞こえるよ!」

「……リビング」

「そのほうが良いよ。ね、ふじっちも」


 三人で綺麗になったばかりのリビングに移動し、少し汚れたソファーに座る。


「いや、ツゥじゃなくてさ、専用のヘルパー頼めばいいじゃん。そのための人たちなんだから」

「サクラ梅さんのこともありますし、目を離した隙に問題を起こされたら困るんです。LINEの文章読みましたか?」

「移動中に5回ほど読みましたけど?」

「(この言い方よ。)とりあえず二週間滞在して様子を見たいと思います。ご存じかと思いますけど、うつ病は治せ! と言って治るものじゃありませんので」

「だから、ツゥ以外に頼めばいいじゃん。佐藤さんとか」

「これ以上佐藤さんの仕事を増やさないであげてください。企画考えたり、動画編集すればいいだけなんですから、まだ結婚も家庭にも入ってないあたしが側にいます」

「会社の人間誰か寄こして」

「あたしがいます」

「だから!」

「何でもかんでも我儘が通用すると思わないでください! 仕事ですよ!!」

「仕事と私どっちが大事なんだよ!!」

「グループを人気にすることがあたしの役目です!!! 誰のためだと思ってんだよ!!」

「白龍」


 ゆかりさんが諭す。


「ごめん、私もこうなるとは思ってなかったけど、今ミッちゃん一人にするのは怖いし、ヘルパーさんが口軽い人だったら絶対暴露系に流されるし、正直ふじっちがいてくれた方が、私も安心なんだけど……私がいてもいいけど、撮影中とか、スタジオ行くとなったらさ、ね、わかんなくなるし」

「……」

「でさ、エメちはぽぽちゃんとぷぷちゃんいるからアレだけど、私とか白龍がさ、ここで配信できるならして、ミッちゃんの様子見に来ることもできるからさ! ここは協力連携プレイで行こう!」

「……やー」


 白龍さんがソファーにもたれた。


「ダル」

「ミツカさんの前でも同じこと言えますか?」

「違う。ミツカは悪くない。この展開がダルいっつってんの」

「勝手にダルがってください」

「いや、……お前のその言い方さ」

「お前って誰ですか。あたしは藤原月子です」

「だから……ツゥじゃなくてもいいじゃん!」

「ミツカさんも見知った顔の人の方が安心するじゃないですか」

「企画部の人とかさ」

「みんな家族いますし、あまりお会いしたことないじゃないですか。みんな男だし、あたし女だし、いいじゃないですか」

「お前それ本気で言ってる?」

「お前って誰ですか?」

「私は家族じゃないんだ」

「同棲相手ではありますね」

「誰が生活費払ってると思ってんだよ」

「じゃあ出ていけばいいですか?」

「だからさ」

「なんですか」

「ストップ」


 ゆかりさんが会話を止めた。


「二人とも論点ズレてるよ。今は、ミッちゃん優先で動いてこ」

「……」

「白龍。リーダーとして冷静に考えてもらってさ、この形が一番安心じゃない?」

「……え、これさ」

「なーに?」

「月子が結婚して家庭に入ってたらまた変わってたってこと?」

「……んー、そういうわけでもないんじゃない?」

「それでもこうなったらいると思いますよ。子供がいない限りは」

「え、じゃあ月子の言い分破綻してるんだけど?」


 ブチィッッッ!!!


「っっっ……あのですねぇ……!」

「白龍! ふじっちが気を利かせてくれてここに残るって言ってくれてるんだし、それが一番今は最善の形じゃん! 何がそんなに不満なの!」

「いや、だからさ、なんで月子なの!? こいつじゃなくてもいいわけじゃん!」

「でもさ! じゃあさ! 他にいる!?」

「だから佐藤さんとか、ヘルパーとか! 仲良い配信者とか!」

「これ以上人巻き込んでどうすんの! 白龍らしくないって! マジで!」

「やだ! 月子は駄目!」

「白龍!」

「絶対駄目!」

「じゃああなたがミツカさんの面倒見てくれますか? ボイトレ行って、ダンスレッスンして、案件やって、打ち合わせして、動画撮って、歌考えて、配信の企画考えて、配信やって、どこかの隙間でミツカさんの面倒見に来れますか?」

「……」

「会議ですらいつもリモートのくせによく言いますよ」

「……じゃあお前はこれでいいわけ?」

「ミツカさんが活動できるようになるまではって話ですよ」

「うつ病の波ってわからないんだよ。明日収まってるかもしれないし、6年後かもしれないし」

「だったらなおさら運営陣のあたしの方がいいじゃないですか」

「……」

(ああ、もう……)


 あたしはゆかりさんを見た。


「ゆかりさん、ごめんなさい。一回……二人にしてもらっていいですか?」

「ミッちゃんの部屋にいるよ」


 ゆかりさんがミツカさんの部屋に移動した。リビングにはあたしと――西川先輩が残され、あたしは西川先輩の隣に座った。


「リーダーとして、冷静になってください。これが一番最善です」

「……なんでツゥなの?」

「ちゃんと関わってる女性があたししかいないからですよ」

「マジでやだ……」

「でも、あたしが先輩の恋人でなければ、最善ですか? 最善じゃないですか?」

「いや、そりゃ、……そりゃあさ、……それは、さ、言っちゃえば、もう、これが、まぁ、最善だよ」

「ほら」

「だから人増やせって言ってたんだって。こうなるから!」

「申請してますけどまだ増えないんです」

「もう、ほんとにやだ……。本当に……やだ……!」

「子供じゃないんですから」

「だってさ、これさ、私が男だったらだよ? 彼氏の元から離れてここに来るってことでしょ?」

「それだったらよりそっちの方になるんじゃないですか? 女同士なんだから」

「え、じゃあツゥが男だったら違う道があったってこと?」

「そうなったら佐藤さん案件じゃないですか?」

「……や、佐藤さんに頼も?」

「これで行きましょう? あたしいるんですから」

「やだって。ツゥ。本当にやだ」


 西川先輩が抱きついてくる。


「ツゥには家にいて欲しい」

「LINEしますから」

「6年間無視してきた」

「ちゃんとお返事します」

「やだ。寂しい。耐えられない」

「寝落ち通話しますから」

「無理」

「ミツカさんの波が収まるまでですから」

「私はどうするの?」

「リンちゃんは大丈夫でしょ?」

「大丈夫じゃないけど」

「大丈夫でしょ」


 あたしからリンちゃんの頬に唇を押し付ける。


「ちゃんとこまめに連絡しますから」

「……ガチで残るの?」

「ガチで残りますよ」

「……やだ、もう」

「リンちゃん」


 リンちゃんの顎にキスをする。


「グループのためです」

「……ツゥさ、いつからそんな仕事人間になったの?」

「生徒会長を先輩から継承されてからですかね」

「いや、生徒会の時はさ、私が家来てって言ったらサボって来てくれてたじゃん」

「そうでしたね」

「駄目なんだ」

「あなたがリーダーをやってるグループのためです」

「……」

「ほら、リンちゃん、こっち向いて」


 今のうちに唇を押し付ける。


「ミツカさんは白龍さんの次に人気のあるタレントさんです。絶対に守らないといけないんです」

「……わかるよ。わかるけど……」

「うん。リンちゃんならわかってくれますよね?」

「でもさ、私は自分の彼女を差し出すほど器デカくないよ」

「彼女とかは関係なく、あたしは運営側の人間ですから」

「……なんかさー、無能な運営っているじゃん。前の会社みたいな」

「まぁ、無能、んー……色んな会社のやり方がありますから」

「有能すぎても困るって、今本気で思ってる」

「そうなんですか?」

「うん。困る」


 腰を抱かれ、唇が重ねられる。リンちゃんから怒りの感情が消えてる気がした。あたしを抱きしめ、耳元で囁く。


「私も様子見に来るから」

「……はい」

「ツゥ。……寂しい」

「ずっとじゃないから」

「でも寂しい」

「……大人なんですから、拗ねないでください」

「……ごめん。さっき、ちょっと興奮してた」

「はい。……あたしも冷静じゃなかったです。ごめんなさい」

「……ごめんなさい」

「……仲直りだね」

「……月子、好き」

「あたしもリンちゃんが好き」

「……浮気しないでね……」

「しないよ。ミツカさんの家にいるだけだから」

「月子、良い女だから」

「リンちゃんには負けますけど」

「……寂しい……」

「大丈夫」


 キスをして、リンちゃんの背中をなでる。


「大丈夫だから」

「……今日、ここ泊まって、そっからスタジオ行くわ」

「そうだね。夜も遅いし」

「……ごめん。ミツカのこと頼むわ」

「はい。わかりました」

「……」

「ゆかりさん呼びましょうか」

「もう一回だけキスして」

「はい」


 リンちゃんと唇を合わせ、手を握りしめ合った。





「ミッちゃん、ゲームする?」

「……んー……」

「サクラ梅ちゃんの動画見る?」

「……ぐすっ」

「おっけー。ライブの動画見よ」


 スマートフォンにRe:connectのライブ映像が映し出されると、ミツカの目から涙が止まった。


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