第44話
日本における「パートナーシップ制度」と「同性婚」の主な違いは、法的な効力と保障される権利の範囲です。
同性婚が認められている国では、結婚したカップルは法律上の配偶者として扱われ、相続権・税制上の優遇・社会保障など、さまざまな権利が保障されます。
一方、日本のパートナーシップ制度は、自治体ごとに導入されている制度であり、法的な効力はありません。そのため、婚姻による法的権利(例:相続や税制上の優遇措置など)を受けることができません。
現在、日本では同性婚は法律上認められていません。
(……)
帰宅途中、歩きながらネット記事を見る。
(……結婚とは……また違うんだ)
——現在、日本では同性婚は法律上認められていません。
(認められてない、か……。ま、そりゃそっか)
高校生の頃は、何も知らなかった。同性婚が認められてなくとも、自分たちさえ良ければいいじゃないかと、そう思ってた。
でも、いざ現実を目の当たりにすると、少し心にくるものがある。
一般的な結婚とは違う。
あくまで、そういう関係であることを承認してもらうだけ。
法的権利は存在しない。
(なんか……)
なんていうか、
(ちょっと、不公平って思うのは……別に悪いことではないよね)
パスワードを押して、家のドアを開ける。
(……ただいま)
同棲相手が配信をしているかもしれないので、無言で靴を脱ぐ。
(はー、お腹いっぱい。お風呂入ってもう寝よ)
荷物を置いて、お風呂に向かう。
「今でも君の返事を待ってる、たったの一言でいい、おやすみ、元気? 会いたいの、返事が来れば、迎えに行くのに♪」
白龍月子の歌を歌いながら脱衣所のドアを開けた。
西川先輩が裸で立っていた。
あたしは即座にドアを閉めた。
(先客がいたか……)
「ツゥ、おかえりー」
全く気にせず、西川先輩がドアを開けた。あたしは急いで背を向けた。
「はい、ただいま帰りました」
「お風呂いいよ」
「ありがとうございます」
「何食べてきたの?」
「回転寿司」
「えー、いいなー。今度銀座のお寿司屋一緒に行こうよ。回ってないところ」
「……あの!」
あたしは必死に、視界に入ろうとしてくる西川先輩から視線を逸らす。
「とりあえず、着替えてください!」
「体にタオル巻いてるからいいじゃん」
「うるせえです! 黙って着替えろって言ってんですよ!」
「何度も見てるくせに」
「着替えてください!」
「水着姿とそんな変わらないって」
「いいから着替えろって言ってんですよ!」
くるくる回ってくるから、あたしもくるくる回って西川先輩を視界に入れないように抵抗する。だが追いかけてくる。なんでそんなに追いかけてくる!?
「ツゥ」
「目回りそうです!」
「あはは! おもしろ!」
「何も面白くないです!」
「一緒に入る?」
「入りません!」
「私はいいよ」
「早く着替えてって……わっ」
目が回り、体重のバランスが崩れ、その場に座り込んだ。タオルに巻かれた西川先輩がしゃがみこむ。
「大丈夫?」
(この……!)
「わっ」
西川先輩を地面に押し倒した。
「いてて」
(ふん! ざまあみろ!)
「ふぅー」
(……)
——やっぱり西川先輩って、肌がすごく綺麗だよな。いや、高校生の頃から思ってたけど、全然変わらずに、むしろ今の方が断然綺麗になっているように見える。いや、あたしが20代前半の西川先輩を知らないから、何を言うこともできないのだけど、やっぱり、なんていうか、濡れた髪の毛とか、少し筋肉が増えた華奢な体とか、足の長さとか、——大人の色気が、倍増されてるような、気が、圧倒的に、するのは、間違いではないと——。
(……ん?)
ハッと我に返る頃には、もうすでに西川先輩の顔が近付いていて、唇が目の前にあって——避ける間もなく、唇が重なった。
「……」
目を合わせ、唇が離れる。西川先輩が、卑猥な笑みを浮かべている。
「ツゥに襲われちゃった……」
「……風邪ひきますよ」
「じゃあさ、ツゥが着替えさせて?」
「子供じゃないんですから、自分で着替えてください」
「心は子供だから着替えられなーい」
「ちょ……」
西川先輩が私に抱きついた。
「ぐはははー!」
「西川先輩!」
「抱きつき攻撃ー!」
「も……重い!」
「そうだぞー! 私が月子に抱いてる想いは、重いんだぞー!」
「本当に風邪ひきますよ!」
「着替えさせて!」
「もう!」
——西川先輩をソファーに座らせ、新品のパジャマに着替えさせる。
(全く! 世話が焼けるんだから!)
「……」
(全くもう! 本当に! この女! あたしがいないと駄目なんだから!)
「ぶふっ」
「あん?」
「ふふっ、ううん。ツゥ、あのね、ぐふふっ、ツゥの新しいパジャマ用意してるんだ」
「え?」
「これ」
セクシーベビードールを見せられて、あたしの眉が険しくなった。
「……ゆかりさんから貰ったんですか?」
「これはミツカだね。買ったけどイメージと違ったんだって。ピリィちゃんにどうかって」
西川先輩がセクシーベビードールをあたしに当て——鼻の下を伸ばした。
「でへっ♡」
「お風呂入ります」
「あ、ツゥ、パジャマはこれ着……」
「そんなの着たら風邪ひきます」
あたしはいつものパジャマを引き出しから取り出し、脱衣所に持っていく。
「ツゥー」
「ついてこないでください」
「ベビードール……」
「だからぁ……」
振り向くと……西川先輩が捨てられた子犬のような顔であたしを見つめていた。
「……はぁ」
あたしは脱衣所のドアを、強く閉めた。そして、それはそれはもう、体全身の疲れと汚れを洗い落とし、湯船でしっかり温まり、お風呂から出た。そして——スマホで連絡した。
>西川先輩、お風呂から上がりました
足音がドアの前に近づいてきた。
「ツゥー」
「……笑いませんか?」
「着れた?」
「……絶対、笑いませんか?」
「大丈夫。ツゥは何着ても可愛いから」
「今メイクしてませんよ」
「ツゥはいつもメイクしてないじゃん」
「……はぁ……」
ドアを開けた。西川先輩の足が見えた。恥ずかしくて、顔を上げることができない。視界には、あたしの足と、西川先輩の足と——着ている、ベビードールが映っていた。
「……」
あー、あー、ほら、だから言ったんだって! あたしにベビードールなんか着せるから! コメントに困るでしょ!? だから言ったのに! もういい! こんなの二度着ないから! 笑え! 笑え!! 似合わなかったと、配信で笑い話にしてしまえ!!
「……月子……」
そっと、両腕を掴まれ、身を屈ませた西川先輩に、耳元で囁かれた。
「可愛い。すごく似合ってる……」
「……嘘です……」
「嘘じゃないよ。すごく綺麗」
「これ……下着同然じゃないですか……!」
ミツカさん、なんてものを買ってるんだ! はしたない! 運営部として厳重注意しておかないと!!
「もういいですか? 満足ですか? 着替えていいですか?」
「もう少しよく見せて」
「いや、風邪ひくので、もう着替え……」
「少しくらい大丈夫」
ソファーに膝立ちで座らされ、その正面下から抱きついてくる西川先輩が、あたしの顔を覗きながら腰に触れてくる。
「胸元きつくない?」
「……ゴムになってるので、大丈夫です」
「へぇ、ゴムなんだ……」
すすす……と手がそれとなく動き、スカートの中に入って来たので、あたしは躊躇なく西川先輩の手首を捕まえた。
「……それは、違くないですか……?」
「いや……着てるんだから、全部見ておかないと」
「スカートの中はやめませんか」
「なんで、見せてよ」
西川先輩の手が動き始めた。
「Tバック」
「っ」
あたしの尻を、むにぃ、と揉んだ。
「ちょっ……!」
「これどうなってるか見たいな。ツゥ、一回ごろんしようね」
「ふぁっ……!?」
「両足開こうね」
「ちょ、や、まって、や……!」
西川先輩があたしの両足を左右に開かせ、目を据わらせた。
「……あー、これはいい眺め……」
あたしは涙目で睨んだ。リンちゃんは――笑顔だった。
「いいね。月子。その反応、すごくそそられる」
「……ばか……!」
「え? 月子、そんなこと言っていいの?」
「ぅえっ……へ……?」
「だって、夜はこれからでしょう?」
リンちゃんがパジャマを脱いだ。
「大丈夫だよ。月子。優しく抱いてあげるから……♡」
「あ……あぅ……!」
――解放されたのは、5時間後であった。
R18verはアルファポリスにて公開してます(*'ω'*)




