第43話
高橋先輩家族が回転寿司店にやってきた。
「ふじっち、久しぶり!」
「陽子先輩! ご無沙汰してます!」
映像スクールで一番お世話になった陽子先輩が、あたしの隣に座り、高橋先輩の隣に娘さんが座る。
「アイミちゃん元気かなー?」
「……」
「お姉さん覚えてる?」
「……」
「こんな裏と表で性格変えるお姉さんなんか、覚えてないもんなー。アイミ」
「陽子先輩、聞いてくださいよ。高橋先輩、タレントさんの前でもこういうこと言うんですよ」
「パパ」
「はいはい、お茶出すお茶出す」
高橋先輩が陽子先輩のお茶を用意し、あたしと陽子先輩はタブレットを手に取る。
「ふじっち何食べる?」
「えー、陽子先輩どうします?」
「やっぱね、サーモンかな!」
「え、先輩、サーモン事件覚えてます?」
「もー、ちょっとやめてよー!」
「陽子先輩が胃腸炎になったやつ!」
「あははは! 笑い事じゃないよー!」
「あ、高橋先輩マグロですよね」
「あ、うん」
「陽子先輩どうしますー?」
「甘エビでしょー?」
「あ、あたしも食べたいですー!」
「はまちとー?」
「「〆さばー!」」
「アイミ、納豆巻き食べるか?」
「ん!」
久しぶりに会った陽子先輩と話が尽きない。
「てか、先輩、よくおっパブ許しましたね」
「許してないよ。もー詰めに詰めたんだから」
「言っておきますけど、あたしは止めたんですよ? でも高橋先輩が」
「高めのバッグ買ってもらったもん」
「いや、妥当ですよ」
「本当だよね」
「あのさ、二人とも、アイミがいるからその話は……」
「この間も、聞きました? グラビアアイドルのカメラマンアシスタント」
「もう私、その辺は許してるんだよね」
「えー! 陽子先輩、心広ーい! あたしならもう絶対耐えられない!」
「家族になるとさー、妥協が必要になってくるからさぁ」
「……アイミ、ほら、あーん」
「あーん」
陽子先輩が来たからには、あたしの戦闘力は53万だ。それに比べ、高橋先輩の戦闘力はたったの5となる。
「ふじっち、今何歳?」
「24です」
「あー、まだ若いねぇー」
「いや、もう24ですよ!」
「彼氏は?」
「……あー」
「お前もそろそろ本気で作った方がいいぞ」
高橋先輩がアイミちゃんの食べる姿を眺めながら、あたしに言った。
「早めに家庭は入っとけー」
「そうだね。出産のこともあるからさ?」
「……今は仕事の方が好きなので」
「あれは? 担当した婚活パーティー案件のとこ」
「いや、流石にクライアント様のところは使わないですよ」
「サービスしてもらえよ。別に恥ずかしいことじゃないだろ」
「嫌です」
「ふじっちの彼氏になる人ってどんな感じなんだろうね」
陽子先輩が笑う。
「案外、専業主夫系が合ってそうなイメージがある。ほら、ふじっちが外出たがるタイプだからさ?」
「あー……」
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
高橋先輩がトイレに行った。
「……陽子先輩、ここだけの話なんですけど」
「ん?」
「……今、そういう関係の人と……同棲してるんです」
「え!?」
「高橋先輩には言わないでください。あの、ルームシェアって言ってるんで」
「……うんうん。わかった。どんな人なの?」
「……高校時代に知り合った先輩でして」
「えー! いいじゃん!」
「ママ」
「あ、アイミ、たまご食べる?」
陽子先輩がアイミちゃんにたまごを食べさせた。
「あのー……ま、わからないんですけど……長続きするコツとかって、あります?」
「んー。まぁ、子供作っちゃうのが一番だけどねぇ」
「……」
「結局さ、お互いの協力だよねぇ。妥協し合って、妥協し合って、なんとか家庭を継続させるっていうかさ」
「……喧嘩とかします?」
「え、もうめちゃくちゃするよ?」
「離婚したいとか思ったことあります?」
「あー、でもね、んー、あの人ね、最終的にはなんとかしてくれるんだろうなっていうのはわかるから、離婚じゃなくて、どうしたら上手く協力し合えるかっていう話し合いはするかな」
「……すごいです」
「そうかな?」
「だって、今すごい離婚される方多いじゃないですか」
「まー、結局お互い、一緒にいて楽なんだろうね」
アイミちゃんが美味しそうにたまごを食べている。
「ふじっちはどう? その人と一緒にいて楽?」
「……まぁ、高校時代から知ってるので、恋人っていうよりかは、もうなんか、ちょっと家族になりかけてる感じはしますね」
「え、だったら結婚すればいいのに」
あたしはきょとんとした。
「え、だって、24でしょ?」
「……はい」
「相手は?」
「……25です」
「お金に余裕あるなら、もうしちゃえば? 結婚式あげなくてもさ、今はウエディングフォトとかあるからさ」
(結婚……)
そうか。同性婚はできなくとも、パートナーシップ制度っていうのがあるんだっけ?
(形は違えど、同棲婚みたいなもんだっけ? ……帰ったら詳細調べてみようかな)
「そっかー。ふじっちも相手いるのか」
陽子先輩が笑った。
「安心した」
「……高橋先輩、モラハラしてませんか?」
「大丈夫。私の方が強いから」
「ふふっ! さすが陽子先輩です!」
「ただいまー」
高橋先輩がアイミちゃんの隣に戻ってきた。




