第36話
疲れ切ったゆかりさんはあたしの部屋に泊まり、疲れ切ったあたしは西川先輩の部屋に移動する。しかし、まだ寝られない。
(今夜は長い夜だな……)
何の配慮なのか、後ろから抱きつく形で西川先輩があたしを抱きしめ、この状態で話を始める。
「それでね、月子」
「はい」
「さっき、ゆかりんちで言ってた話したいことの内容なんだけどさ」
「明日にしませんか?」
「いや、もう日跨いでるから。明日だから」
「いや、ですから、明日の夜にしませんか?」
「いや、今話そうよ。大事なことだから」
(……うるさいな……もう……)
「いや、あのさ」
「はい」
「高校の頃のさ、告白さ」
「真剣だったんですよね」
「うん」
「はい。今ならわかります」
「……ツゥさ、なんでOKしたの?」
「……んー……先輩が離れるのが怖かったからですかね」
「……そうなの?」
「……そうですね。確かにこの辺の話はしてませんでしたね」
「うん」
「……そうですね。依存……」
あの当時思っていたことは、確かにそうだった。
「依存ですね。あれは、はい。あまりよろしくない関係だったと思いますよ」
「……ツゥ、私に依存してた?」
「してましたよ。すごく。西川先輩の金魚の糞みたいな、ずっとついて歩いてたじゃないですか」
「……え、そうだった?」
「はい。生徒会も誘われた時ついていきましたし、料理部もすぐ行ったし、カラオケもすぐ行ったし、お金に余裕あれば、ライブとかもついていきましたし」
「え、あれ依存だったの?」
「依存というか、なんか先輩が側にいないと不安だったのは、ありました」
「……今は?」
「今は……もう大人なので」
西川先輩があたしのお腹を揉んだ。
「あと、少し先輩から離れて、冷静になったのはありますね」
「……」
「だって、ずっと西川先輩に頼ってるわけにはいきませんからね。動画編集者として、社会人として、一人で生きていけるようにならないといけないですし」
「私はさ」
「はい」
「もっと早くそれが知りたかった」
「……どれですか?」
「依存の話」
「なんでですか。うっとおしいでしょ」
「だってさ、依存してたらさ、普通に連絡返してたわけでしょ? 水没してても」
「……そうですね。真っ先に返したでしょうね」
「そしたらさ、もっと早くツゥをこっちに呼べたわけじゃん」
「でも、友達の話もありましたからね。同性愛が気持ち悪いって話」
「その後さ、もし私と連絡しててさ、『そんなの学校から出ちゃえば関係ないからこっちおいで』って言ってたら、ツゥ来てた?」
「卒業する前に来てたでしょうね。その頃には生徒会長も交代してましたし」
「ほら、知ってたかった」
「お言葉ですけど、たらればの話はやめませんか? そうなってたら、あたし、運営部にも入ってませんし、動画編集もやってませんよ。それに、もしかしたら、お互い嫌気がさして、別れてたかもしれませんよ?」
「でも」
「なんですか」
「私は……辛かった」
少しだけ、強く抱きしめられた。
「もうツゥに会えないと思って……六年間、寂しかった。ストレスで煙草も始めた。ツゥがいなかったから、だから、……」
「……でも西川先輩、セフレいますよね?」
「……は? それ誰言ってたの?」
「いや、聞いてませんけど、勘です」
「ツゥ、自分の勘を信じるのはやめよう。お前向いてないよ」
「なんでそんな否定的なんですか。昔はもっと肯定してくれてました」
「お前がそんなだから否定するんだよ。なんだよ。セフレって。ふざけんな」
「だって、西川先輩が、あたしだけで満足するわけないじゃないですか」
「え、待って? 私なんだと思われてるの?」
「え? 女好きの配信者?」
西川先輩があたしを巻き込んでベッドに倒れた。
「ちょっと」
「お前さ」
西川先輩があたしに覆い被さった。
「どれだけ私がお前を愛してるか、そろそろ自覚したら?」
「とか言って、愛と体の関係は違うじゃないですか」
「いや、待って、さっきから何言ってんの?」
「いや、ですから、もう依存とかはないので、もう、お好きにしてくださって大丈夫です。セフレがいても、浮気相手がいても、あたしはもう、気にしないので」
「月子」
「ゆかりさんもいますし、今夜はもう寝ましょう?」
「やだ」
西川先輩があたしのパジャマのボタンを外した。
「月子を犯すまで寝ない」
「なんでそんなに怒ってるんですか」
「私の気持ちが全然届かないから」
「届いてますよ! なので……」
「届いてたらセフレとか出てこない。気にしないとか出てこない。連絡しないとか出てこない。もういいや、なんて……そんな言葉……出てこないんだよ!」
ボタンが全部外れた。キャミソールが丸見えになる。
「月子はわかってない。どれだけ私が月子を想ってるか、ファッション程度にしか思ってない」
「別にファッションとは……」
西川先輩の手がキャミソールの中に入った。
「ちょ……」
「駄目。まだ寝かせない」
「リンちゃん」
「許さない。月子。勝手に連絡切って、勝手に私を忘れようとして」
「わかった、わかったから……」
「何もわかってないじゃん」
冷たい目が、あたしを見下ろす。
「今夜は寝かせないから」
(……なんか、嫌な予感する…)
西川先輩の手が大胆に肌をなぞっていった。
(*'ω'*)
〜準備中〜
『おはよーーーー』
蜂!
蜂!
蜂!
『どうもー。みんなのハートを射止める女王蜂歌い手、白龍月子ですーーー。それと』
『紫だからって毒じゃねぇからな! 元社畜系のバイオレンス・レディ、紫ゆかりでーす!』
>ゆかりん!
>無事だったか!
>Xにゆかりんの名前あってびっくりした
『そう。昨日ね、また恒例のね、あったんですよね。襲撃が』
『もう……本当に……本気で……やめてください……』
『一旦運営さんにも話回ってて、今頃会議してるんじゃないかな。あと、被害届も出してるし、裏で色々やらせてもらってます』
>ゆかりん……無事でよかった……
>昨日枠いたけど、衝撃的な映像だった
『そうなんですよ。ネットニュースにも挙がってたみたいで』
『あのー、9割、いや、9.8割は、本当に応援してくれてる人たちだと思うんだ。0.2部、本当にやめようね。プライベートを知ろうとしたり、こういう襲撃ごっこみたいなの。なんも楽しくないし、ガチで犯罪だからね』
>まじでやめてほしい
>一部のせいで治安悪いとか言われるの本当にやだ
>痛いファンだけにはならないよう頑張ります
『いや、本当に……白龍が来てくれて良かったよ。その後白龍の家にも泊まらせてもらってね』
『ピリィちゃん紹介してね』
『あ、会いましたー』
>ピリィちゃんどうだった!
>皆のピリィちゃん!
>アイドルピリィちゃん!
>ゆかりん知ってる人だった?
『あ、知り合いです。バリバリの知り合いでした。本当にいつもお世話になってるスタッフさんで、へぇーこの人が……ってなりましたけど、話してたら、やっぱり白龍の彼女だなぁって感じの人でした』
『でしょ?』
『え、どこまで話していいの?』
『特定されない程度に』
『いや、怖いって! うーん、でも、あの、ピリィ! っていうのは、あ、こんな一面あるんだぁ……って感じ』
『あいつ俺だけにピリィ! ってすんだよ』
『いや、ちょ……あははは! なんかさ! 白龍、ピリィちゃんとね、昔話をしてくれたわけですよ! なれそめとか、配信で話してた内容とかさ、改めてピリィちゃんから聞いたら、所々美化しすぎててさ!』
『いや、美化してねぇから』
『いや、流石って感じでしたよ。ピリィちゃんはもう、なんか、彼女というよりは、白龍の奥さん! って感じがした』
『まぁ……まぁまぁまぁ……付き合い長いからね……』
『すごい良くしてくれたので、すごい眠れた。超快適だった』
『あ、それは良かった。夜に激しめのセックスしてたからさ』
『はぁーーーー!?』
>ぶぉあ!?
>コーヒー吹いたw
>爆弾投下ーーーーー!
>リア恋勢、避難しろーー!
『してたの!? マジで!? あんたら私がいる間に何してくれてんの!?』
『ちょっと喧嘩してたから、イラついて』
『イラついてするか!? 普通!』
『思う存分、泣かせてやったよ。んふふー!』
『……いや、白龍さ』
『何』
『ちょっとねー、働き蜂方には申し訳ないんだけどね、あんたさ、ちょっと亭主関白すぎるよ』
『亭主関白じゃないし。ちゃんと考えてるし』
『写真貼ったり、料理したり、全然いいけど、たまには優しくしてあげなって』
『優しくしてるよ。してるけどさ、あいつ昨日なんて言ったと思う? 白龍にはセフレいるよね? 私なんかで満足するわけないもん。でも私全然気にしないから好きにしていいからね。だよ? だから好きにさせてもらったんだけど。え、何が悪いの? 傷付いたのこっちなんだけど』
『え、逆にセフレいないの?』
『ねぇ! 俺なんだと思われてんの!? いねぇから!! 一途だから!!!!』
『いや、だから、なんかそういうオーラ醸し出してるんだって。みんなの前でも彼女支配したいとか言うじゃん。もう、なんかそんな感じしたもん。支配というか、洗脳してやるーって感じしたもん』
『洗脳じゃないし。愛だし』
『あれ、ちょっと、まあ、わかんないよ? わかんないけど、ちょっと、ピリィちゃんが可哀想』
『……』
>ガチ説教
>白龍普段どんな感じなの
>モラハラ?
『いや、モラハラというかさ、なんか、あるじゃん。働いてる働き蜂の方々、イメージしてみて。普段、あれやれこれやれ命令してくる上司が、たまに超ド級の優しさを見せます。ランチ奢ってくれたり、相談事聞いて慰めてくれたり、でも怒るときは超ド級で理不尽に怒る! そしてまた優しくする』
>モラハラやん
>ただのパラハラ
>白龍……
>月ちゃん、ピリィちゃんに優しくしてあげて
『……や、理不尽には怒んないし……』
『昨日の会話の中でどこにいらつく要素あったの。全部事実じゃん』
『……』
『もう一回ピリィちゃんと話すことを勧めます。大丈夫だよ。今夜は私もいるから』
夜の詳細はアルファポリス(R18)で書いてます(*'ω'*)
ご興味あればどうぞ




