第33話
水城スイのこともあり、一度、メンバー全員と面談をすることになった。お互いの方向性のすりあわせや、不安なこと、困っていることなど、改めて確認する為だ。
(あー、今日なの忘れてた。えーと、最初が……)
「お疲れ様ですー! 面談に来ました! 黒糖ミツカです!」
「藤原さん、タレントさんいらっしゃってますー」
「ああ、はいはい!」
受付に走って行って、ミツカさんを迎えに行く。
「お疲れ様です。ミツカさん」
「お疲れ様です!」
「今日はあたしが面談担当となります。よろしくお願いいたします」
「わ! 藤原さんなんですね! わー! よかったー! 高橋さん、ちょっと髭が苦手なので!」
(ほら、高橋先輩、だから髭はよくないって言ったんですよ)
「よろしくお願いします!」
まるで太陽のように眩しいミツカさん。しかし、だとしても、言うべきところは言わせていただきますよ。
「困ってることとか、悩んでることなどあれば教えていただきたいのですが、最近はどうですか?」
「やっぱり、いつも困るのは企画ですね。動画も配信もやらなきゃいけないので、正直ネタが尽きちゃうなって」
「そうですね。あたしもミツカさんの配信を確認してますが……最近少し下ネタが多いかと」
「あ、やっぱりそうですか?」
「あの……ここだけの話なんですけど……ミツカさんがファンの方とオフパコされるのは自由です」
「っ」
「はい。あの……こちらは数字が維持できれば問題ないので……トラブルだけ避けていただければ……」
「……あれ、広まってます?」
「知ってる人のみ」
「あー……」
「ただ、いつリークされるかわかりません。なので、なるべく外でのそういった行為は控えていただきたいです」
「……いや……その、スイのこともあったので……そろそろやめないとなーとは……思ってました。すみません……」
「いえ、気をつけていただければ。何かあってからだと……遅いので……」
「……セフレって……切った方がいいですか……?」
「いえ、そこはもう自由にしていただいていいです。ただ」
「はい。気をつけます」
「トラブルだけは」
「はい、わかってます……」
(情報提供ありがとうございます。……西川先輩)
次。
「藤原さんお疲れ様です!」
「お疲れ様です。エメさん」
「「こんにちは!」」
「こんにちは〜。ジュース飲む〜?」
子供二人を連れてきたエメさんと面談する。
「困ってることとか、悩んでることなどあれば教えていただきたいのですが、最近はどうですか?」
「うーん。やっぱり子供たちですかね……。スタジオでの撮影の時って、家政婦さんにお願いしてるんですけど、やっぱり……心配は心配なので……」
「……スタジオ連れてきますか?」
「え!? いいんですか!?」
「撮影時間の間でしたら可能かと思います。一度上にも相談してみますが、前にもクライアント様でそういう方が連れてきていたので、多分大丈夫かと……」
「あ、それだと……すごい助かります……!」
(子供連れ込みの件、要相談っと)
次。
「お疲れ様です。藤原さん」
「お疲れ様です。白龍さん」
二人きりの会議室が、今までこんなに体の危機を感じることがあっただろうか。なんというか、物理的に。
(大丈夫! 今は運営側の藤原だから! キリッ!)
「困ってることとか、悩んでることなどあれば教えていただきたいのですが、最近はどうですか?」
「そうですね。最近は連絡が途絶えていた彼女とも再会できて、尚且つ、辛い時には側にいてくれるので、プライベートは充実してます」
「そうですか。それはよかったです。企画や配信や動画投稿について何かありませんか?」
「切り抜き動画についてなんですけど」
「はい?」
「先日、動画を見たピリィちゃんから浮気したのか問い詰められまして」
「……はぁ」
「今朝見たら、その動画は120万再生行ってました」
「……白龍さんの動画はやっぱり数字がいいですね。さて、今後の方針なんですけど」
「今晩、外食したい気分なんですけど、藤原さん、どう思います?」
「ご自由にどうぞ」
「洋食と和食どっちがいい?」
「今後の方針なんですけどー!」
仕事中なんですけどー!!
「……サクラ梅ちゃん、どうだった?」
「……企画部に共有してからメールを送らせていただく予定です。歌もリアクションもいいのですが、またスイさんのようになったら困ります。なので、一つ提案が出てます」
「提案って?」
「Re:connect研修生期間を設けたいと」
「……えー、何それ?」
白龍さんが愉快げに聞いてきた。
「内容を聞いても?」
「仮に、サクラ梅さんがスカウトに乗ってきたらの話です。サクラ梅さんには三つのミッションを達成してもらいます。一つ目、今活動しているTikTokのフォロワーを一万人にする。二つ目、顔だけ隠した実写動画をいくつか投稿し、合計で100万回再生を突破する。三つ目、Re:connectの歌を課題曲として歌ってもらい、Re:connectにふさわしいか四人にオーディションしてもらう。これは白龍さんがOKを出したら採用されるそうです」
「ちなみに、実写動画の企画は?」
「こちらが台本を作って撮影して編集ですよ」
「なるほどねぇ。話題性だ」
「これくらいしないと本気度がわかりません。中途半端じゃ困るんです。一回でも無理ですできませんを言ったら、即白紙です」
「厳しいねぇ」
「運営側ももう二度とトラブルを起こしたくないんです」
「でも?」
「サクラ梅さんは非常に欲しい人材です。……本当によく見つけましたね。あんな宝石」
「いつも歌枠やってたから気になってたんだ。ミツカのこと好きって言ってるし、話も聞いてると、なんかバカっぽいふりしてるけど、結構頭良さそうなんだよね」
「正直……すごく良いと思います」
「ツゥもそう思う?」
「歌声を聞いてて、とてもわくわくしました。高橋先輩も、やってくれるならぜひと言ってます」
「あとは本人次第か」
「はい」
「そんなに話進んでたんだ? びっくりした」
「数字を集めるために動くのが運営の仕事ですよ。サクラ梅さんがもし入られたら、Re:connectは、もっと面白くなると思います」
「……なんかさ、ここって、結構意見通してくれるよね」
「前は違ったんですか?」
「まぁ、スイ推しだったからね」
「……運営していると言っても、このグループを作ったのは別の方々です。その想いを引き継いだのであれば、責任を持って、タレントに寄り添って最善の方向性でやっていくのがうちのやり方です。その方が、お互いにとっていいので」
「……良いところに就職できたね」
「ありがとうございます」
クスッと笑ってキーボードを打ち込んでいると——白龍さんに見つめられていることに気づいた。
「何か?」
「……仕事モードのピリィちゃんもいいなと思って……」
「今後の方針性の話に戻りますけどー!」
さて、次。
「遅くなってすみません!」
「大丈夫ですよ。ゆかりさん。お飲み物どうします?」
「あ、じゃあ……カフェオレ……」
「持ってきますよ! かけてお待ちください!」
「ありがとうございます〜!」
ゆかりさんにカフェオレを渡して、面談開始。
「困ってることとか、悩んでることなどあれば教えていただきたいのですが、最近はどうですか?」
「聞きたいことがありまして」
「はい」
「この会社が倒産する予定はありますか?」
……。
「そういった話は……聞いてませんが……」
「本当ですか?」
「いえ……そうですね。……経費削減は言われてますけど……倒産は……まぁ……ないとは思いますけど……」
「私……怖いんですよね……また社長が逃げるんじゃないかって……」
(……あの社長が逃げる……)
——あ、藤原さん、元気ですか? 最近どうですか? 僕ですか? 韓国に行ってきましたよ! 韓国の企業ってすごいんですよ。いやぁ〜、この間一緒に協力してやっていきませんかって大手企業さんに持ちかけたら、投資家たちが参加する飲み会に読んでもらえて、楽しかったですよ〜!?
「……今のところ、大丈夫じゃないですかね?」
「それなら良かったです……」
「企画とか、配信とか、困ってることありませんか?」
「あ! 今度! 裸エプロン企画しようと思ってて!」
あたしは即レッドカードを取り出し、笛を鳴らした。
「NGです!」
「違います! ちゃんと水着着ます!」
「みず……水着かぁ……」
「はい! 水着です!」
「……いや、でも良くない……」
「水着なので! 水着に、エプロンしてるだけです!」
「ミツカさんもですけど、ゆかりさんも下ネタ多い方ですからね? アカウントいつくか収益化無効なのありますよね?」
「大丈夫ですよ! 今回水着ですから!」
「なぜそこまで水着にこだわるんですか!」
「何のために体鍛えてると思ってるんですか! 見てもらうためですよ!」
ゆかりさんが瞳を輝かせて言った。
「可愛いとか! エロいとか! セクシーとか! そう言ってもらって、自己肯定感を高めるんです! そのために筋トレ頑張ってるんです!」
(ブラック企業に勤めると……ここまで人格が崩壊するのか……! あたしも気をつけないと……!!)
「お願いします! 今回だけ! 数字を見てもらって! 実験で! 検証で!」
「うーん……ぬぐぐ……」
「藤原さん!」
「……少々お待ちください」
——もしもし。どうしたー? 高橋先輩、お仕事中すみません。かくかくしかじかで……。……まー、水着ならグレーじゃね? 大丈夫ですかね? まぁ、凍結したら凍結したで、盛り上がっていいんじゃね? すぐ解除してもらうし。……わかりました。
「許可が出ました」
「やったーーーー!!」
「でも一回だけです! 今回ので様子を見ます!」
「お願いします!」
(全く、もう、くせもの揃いなんだから……)
「心配なので、何かあったらすぐに連絡してください。高橋でもいいですし、あたしでもいいので」
「わかりました! よろしくお願いします!」
水着とエプロンで、こんなにも瞳を輝かせるなんて……!
「こういう企画、前の会社ダメだったんですよ。もう、THE・アイドル! っていう風に売っていきたかったみたいで! でも白龍がすごい方向転換してくれて、今の形が、こう、ちゃんと、できた! みたいな?」
「……ゆかりさんは、元々働いていらっしゃったんですよね? グループに入る前は、働きながら配信を?」
「あ、そうです。もうガチの社畜でした。始発で行って、終電で帰るみたいなのが、週6。たまに7」
「……はー……」
「でも、その頃すごいお世話になった先輩がいて、本当にすごい人だったんです。売り上げもいつも取れてて、ノルマも余裕でこなしてて、私、その方をすごい尊敬してて、この人みたいになりたーい! って思いながら仕事してたんですけど、もう、なんか、……はち切れてしまって。辞表を出してからは、しばらく生活保護で暮らしてました」
「……今はどうですか?」
「楽しいです!」
その目は、希望に輝いている。
「すっごく楽しくて! 歌うのも配信するのも! 一人じゃなくて、みんなで収録するのも、私、すっごい楽しいです! あ、でも、やっぱりお仕事で苦労されてる人の話はよく聞くので、スパチャも、余裕がない人は絶対しないように言ってます。気持ち、わかるので」
「楽しいって言ってもらえて嬉しいです。何か企画とかありましたら、ぜひご提案ください」
「あ、それなら、あの、前に没になった歌の企画あったじゃないですか! あれ、なんかリメイクとかしてできませんかねー?」
「あー……それちょっと聞いてみますね」
「やった! お願いします!」
こうして無事、面談が終わりを迎えた。




