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第30話


 このホテルには撮影で来たことがあった。

 セクシー路線で動画を作る方針のクライアントがいて、その撮影のためにカメラマンについていった。その時に、こんなことを言われた。


「ふじっちはこのホテルいつ使います?」

「そうですね。女子会をする時に友達集められた時に使いますかね。三浦さんはいつ使うんですか?」

「とりあえずこの撮影が終わった後日かなぁ。キャバで育ててる子がいるんすよ!」

「使ったら感想聞かせてくださいよ。お風呂とか超綺麗でしたよ」


 セクハラはただのジョーク。そもそも、あたしがこのホテルを使う時がくるなんて、想像できない。別に必要ない。恋人といちゃつくなら部屋でいいじゃん。その方がお金かからないじゃん。


 でも今日わかった。お金を使ってでも、場所を変えて、気分転換をする必要がある時も存在するのだと。


 ワインを一本注文したら、問答無用で西川先輩は飲み出した。それはそれは、もう止まらず、ほぼ一本飲み尽くしたと言っても過言ではない。


「ツゥ〜」


 抱きしめられる。


「好き〜!」

「はいはい」

「大好き〜!」

「ふふっ、はいはい」

「んちゅー!」

「はいはい」


 西川先輩に尻を揉まれて、胸を揉まれて、沢山のセクハラを受ける。だが、あたしはそれでも西川先輩を抱きしめる。


「お風呂入ります?」

「お風呂いいね! お風呂でも飲む?」

「お風呂ではお水にしません? 冷たいの美味しいと思いますよ」

「サワーにする?」

「冷水にしましょうか」

「一緒に入ろ!」

「はい。入りましょう」


 浴室に入ったら、セクハラはさらに加速した。お互い何も身につけてない状態だからか、酔った西川先輩が沢山体に触れてきた。まだダメだと言って、二人で体を洗った。それでも触ってくるから、まだダメだと伝える。それでもしつこく西川先輩が触ってきたので、優しく伝えた。


「泡入ったら痛いんです」

「……ん……」

「もうベッド行きます?」


 口付けされて、抱きしめられながら、シャワーで泡を落として、またキスをされて、引っ張られる。でも体を濡らしたままでは風邪をひくから、タオルを掴むと、西川先輩があたしに深いキスをした。


「月子」

「体拭かないと」

「もういい?」

「体拭いてから……」


 口付けされた。あたしは西川先輩の体を拭く。


「ベッド濡れますよ」

「そうだね」


 口付けされた。あたしは自分の体を拭いた。


「髪乾かしませんか?」


 西川先輩にベッドに引っ張られた。「待て」をしすぎたらしい。裸のまま倒されて、首筋を鼻でなぞられる。


「月子」

「リンちゃん、眠くないの?」

「全然」

「お酒強いね」


 体に唇が当たる。


「リンちゃん」

「月子、名前呼んでて」

「わかったよ。リンちゃん」


 沢山触られる。


「……あ……リンちゃん……」


 リンちゃんの呼吸が荒い。


「リンちゃん」


 指が滑る。


「あ」


 少し、触り方が荒い。


「あ……あ……」


 リンちゃんの好きなようにさせた。あたしが動いた方がいいのであれば動いたし、キスして欲しいのであればキスしたし、されるがままでいいのであれば、リンちゃんのされるがままになった。


「……っ」


 いつもより荒くて、激しくて、乱暴な行為に、声が出る。我慢ができない。痛い。真っ白になる。快楽がやってくる。わけがわからなくなる。体が動く。リンちゃんと交わる。影が一つになる。


 ——突然、リンちゃんに引き寄せられた。


「月子は離れないもんね」


 強くあたしを抱きしめる。


「月子は、裏切らないもんね」


 未来はわからない。少なくとも、6年間連絡を無視してしまったあたしは、今後リンちゃんを裏切る気はない。むしろ、どうしたらリンちゃんの助けになれるのか、現在進行系で考えているところだ。でも結局、何も思いつかなくて、リンちゃんを抱きしめて、頭をなでることしかできない。だからリンちゃんも、あたしに甘え出した。


「月子……」


 いいよ。今日は何しても許してあげる。沢山甘えて。


「……ん」


 唇が重なる。深くなる。抱きしめ合う。何をされても手は離れない。リンちゃんを抱きしめる。手を握りしめ合う。また唇が重なる。シーツに皺ができていく。どんどん深くなる。いつの間にか、耳元にはリンちゃんの荒い呼吸しか聞こえなくなった。言葉を交わすことはない。必死に、無我夢中で、無言のまま、乱暴にあたしの体を抱く。


 でも、それで少しでも、気が紛らわせられるなら——あたしは——。


「——っ」


 力んでいた体から、時間をかけて力が抜けていく。必死に呼吸を繰り返すと、リンちゃんに腕を掴まれた。


「月子」

「はぁ……ちょっと……だけ……休憩……」

「……」

「ねぇ、リンちゃん……ちょっとだけ……休憩しよ……?」

「……」

「も……いけな……リンちゃ……」


 動きだした体に、もう、あたしは何も言えない。



(*'ω'*)



 情報漏洩による契約違反、および運営スタッフへの脅迫行為を経て、水城スイのRe:connect強制脱退が決定しました。このような形となって大変心苦しくはありますが、グループとスタッフを守るためにも、このような決断とさせていただきました。


 今後このようなことがないよう、メンバー一同気を引き締めて活動してまいりますので、どうぞご声援をよろしくお願いいたします。


 白龍月子




「ああ、もしもし。お疲れ様です。……はい。しばらくは切り抜きで。……いえ、多分、そうなるだろうなって思っていたので。……はい。被害届も……出しまして、はい。……あ、はい。わかりました。じゃあ、今日はとりあえず、リモートで。……いえいえ、大丈夫です。あたし強いんで」


 通話を切ると、ドアがノックされた。あたしはもう一度通話が切れてることを確認してから、部屋のドアを開けると、大量のたいやきを乗せた皿を持つ西川先輩が立っていた。


「作りすぎちゃった。食べる?」

「今ちょうど何かないかなって冷蔵庫探そうと思ってました」

「ちょっと食べながら相談したいんだけど」

「はいはい」


 リビングに行き、チョコ味とクリーム味のたい焼きを、西川先輩と一緒に口に含んでいく。


「なんかさ、しばらく四人でやるのもいいと思ったんだけど、やっぱり穴が空いてる感じがするじゃん」

「そうですね。四人とも個性的なので、ちゃんとした清純派の枠は欲しいですね」

「うん。それでさ、良い子がいるんだけどさ」

「良い子?」

「そう。TikTokで見つけたんだけど、一枚絵で歌ってるんだけど、すごい歌上手い子でさ。声とかも可愛い系で」

「はい」

「一回話してみたいんだけど」


 西川先輩がたい焼きを飲み込んだ。


「そういうのって、事務所に相談した方がいいよね?」

「……その方、名前教えてもらえます?」

「サクラ梅って名前でやってる」

「はぁ。サクラですか。いいですね。ピンク。あ、でも紫のゆかりさんがいるか」

「でもさ、ピンクっていなかったじゃん?」

「まぁ確かに」

「うん。一回相談してもらえない?」

「そうですね」


 白龍月子に聞かれた企画は連絡するように言われているので、


「一回、高橋先輩に相談してみます」

「……たい焼き、おいちい?」

「懐かしいです」

「んふふ! だよね!」


 あたしと西川先輩が、まだまだ残ってるたい焼きを頬張った。








「いや……そうね、うん……正直さ……五年間活動してきたわけですよ。私たちも。でもね……私、これね、結構前に、三年前くらいかな。月子に言ってたんですよ。あの……スイがね、もう、ちょっと手に負えないんじゃないかって。今回のこと、本当に誰が悪いって、もうスイが全部悪いとしか言いようがないのね。庇いようがないの。ファンのみんなには悪いけど……社会人でね、脱退したくないから謝罪します。で、謝罪した後にトラブル起こして許される事例は、あまりないの。てか、ほぼないの。それを月子がさ、今まで目を瞑ってきて、このメンバーでやろうってやってきたわけだから……もう、ね。……私からしたら、もう、前に進むしかないかなって……感じですね。それが私の……紫ゆかりとしての、筋の通し方かなって」


 >ゆかりんはいなくならないでね

 >俺たちは何があってもついていくから

 >ゆかりんがまともで良かった


「まとも……まともってわかんないよね。私も会社で働いてる時、なんか価値観違ったし。働くことが正義って思ってたけど……」


 紫ゆかりが苦笑した。


「自分の人生ですからね、仕事も生活も……やっぱり、楽しくないと」




がっつりR18verはアルファポリス様にて公開してます。興味があればそちらもご覧ください。(本編ピンク描写追加話+番外編付き)

読了ありがとうございました(*'ω'*)

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