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第22話


 快晴。休日。こんな日は、ベッドでゆっくりするのが一番なのです。


(はぁ……。お休みの日って最高……)


 あたしは硬く瞼を閉じる。


(今日は……一日……ゆっくりするんだ……)


 すやすや眠っていると、ゆっくりとドアが開かれた——気がした。


(ん)


 いや、開いてるな。これ。誰か入ってきたな。うん。気配感じるな。ベッドの側にいるな。


(あ)


 シーツがめくられ、中に入ってくる。


(……)


 一人用のベッドにぎゅうぎゅうに詰め込んで、あたしを抱きしめる。


「……」

「ふうー」


 寝たふりだ。これは寝たふり。寝たふりをするんだ。今日は一日ベッドで過ごすんだ。あたしは寝るんだ。あたしは寝る。あたしは寝る……。


 ——もぞ。


「こらぁ!」

「あ、おはよう。ツゥ」

「おはようございます! 今後ドアに鍵します!」

「え! なんで!」

「休日を邪魔されたくないからです!」

「えー! 待って待って! 鍵は駄目だって!」

「今日はベッドで快適に過ごすんです! 邪魔しないでください! その方が先輩も配信できていいじゃないですか!」

「今日は配信夜からだから、話題作りに出かけようと思って」

「ああ、そうですか。行ってらっしゃい」


 またベッドに倒れると、西川先輩があたしに乗り込んできた。


「ツゥ〜〜〜! デートしよーーーー!」

「ふざけんじゃねえですよ! こもるっつってんだろ!」

「や〜〜〜だ〜〜〜! ツゥと出かけたい〜〜〜〜!!」

「てめっ、だだこねてんじゃねぇですよ!! ガキじゃあるめぇし!!」

「映像制作者として流行を見つけにいくのは大事なことじゃないですかー?」

「流行なんざSNSあさってテレビ見てればわかるんですよ! あたし程度の動画編集者にはそれくらいが丁度いいんですよ!」

「あ、こんなところに映画館無料招待券が!」


 あたしはメイクをし、着替え、髪型をセットした。


「何やってるんですか。行きますよ」

「待って。早すぎる。ミツカの比じゃないくらい迅速だった」

「動画編集者は速さが命ですから」

「ちょっと待って。ツゥ。メイクするならそれはテキトーすぎるって」

「十分ですよ」

「おいで」


 メイクケースからブラシを取り、西川先輩があたしの顔に当てていく。目元をなぞり、チークを入れてもらい、唇の色を塗ってもらう。


「……」


 西川先輩がキスをしてきた。あたしの拳が西川先輩の頭上に下りた。


「痛い」

「いきなりしてくるからです」

「したくなっちゃったんだもん」


 鏡を見せてもらう。そこには雰囲気の違うあたしがいた。


「ほら、可愛い」

(……たまにはいいか……)

「んふふ。可愛いー。お洒落してるツゥだ〜♪」


 あたしよりも比じゃないくらい西川先輩の方が美人だし、メイクをしたところで何かが変わるわけでもないが、それでも今までよりも今の顔の方が好きだ。


(……時間ある時に、先輩からメイク教わろうかな)


 直接見ることが苦手なので、鏡にいる西川先輩を見ていると、隣のあたしを見ていた西川先輩の目が鏡に動き——ふと、目が合った。


(あ、やべ)


 あたしの視線が横に流れると、西川先輩がにやけた声をあたしにかけてきた。


「んふふ! ツゥ〜♪」

「……」

「可愛いねぇ。ツゥは」


 頭にキスされる。


「映画いこっか」

「……はい」

「あー、楽しみぃー」

(ところで……何見るんだろう?)


 ——映画館受付。


「無料招待券なんですけど使えます?」

「はい、お預ります〜」

(何見るんだろう……)

「5番ですね〜」

(5番って何……)


 タイトルとポスターを見るが、わからない。


(ホラー映画……? いや、歴史……実話って書かれてる……)

「ツゥ、ポップコーンいる?」

「映画館で買うポップコーンよりドンキで買うポップコーンの方がずっと安いですよ」

「いや……そこはさ……味と夢もついての値段だから……」

「ジュースで」

「……私もそうしよ」


 ——映画上映中。


「「……」」


 ——上演終了。


「……」

「……やー……」


 西川先輩が胸に手を当て、あたしは脱力した。


「「怖かった」」

「だよね?」

「いや、なんとも言えない恐怖がありました」

「うわ、これ配信でなんて言おう」

「生きてる人間の怖さがある作品でした」

「壁の向こう見せてこないのがさ」

「あれ面白い表現ですね。まさに音で怖がらせてくるやつ」

「考えさせられる」

「「……」」

「なんか食べてから帰る?」

「回転寿司でも行きます?」

「わかる! 今肉見たくない!」


 ランチからは少し遅れた時間に回転寿司店に行き、映画の感想を言い合う。


「え、あのさ、普通に最初寝そうにならなかった?」

「なんだこれとは思ってましたけど、役者の方々のお芝居とか小道具見てたので。これで何もない作品であれば先輩に文句言うところでした」

「話題になってた作品でさ」

「普通にホラー映画より怖かったです」

「だよね?」

「や、でも、なんか、はい。面白かったです。シンドラーのリスト見たくなりました」

「あ、わかる。戦場のピアニストとかね」

「配信何時からですか?」

「19時」

「終わったら見ます?」

「うん。見る」



(*'ω'*)



 〜準備中〜


『はーーーい。こんばんは。みんなのハートを射止める女王蜂歌い手、白龍月子でーーーーす』


 >蜂!

 >蜂!

 >蜂!


『今日さ、ゲーム配信やる前にちょっと雑談したいんだけどさ、ごめん、映画の話していい? 話題になってる映画をね、見に行ったんですよ。昨日も話したと思うけど』


 >あれどうだった?

 >怖いって聞いた。

 >音で怖がらせてくるやつだっけ?


『いや、俺ね、歴史好きなんだよ。高校の時も歴史の授業とか大好きでさ、映画とかピリィちゃん連れて見に行ってたのね。流石に歴史ものの難しいやつとかってさ、友達連れて行けねぇじゃん。だけど、ピリィちゃんもそういうの好きだからさ、何かと好きなものが似てるんですよね。うちのピリィちゃん。で、いけるかなって思って今日も連れて行ったの』


 >デートであの映画か……

 >ピリィちゃんなんて言ってた?


『いや、なんかやっぱり好きなんだろうなって思った。感想がね、俺が思ってることを言語化して言ってくれてたから、あ、そうそう。そういうことなんですよっていう感じ。いや、あれはね、うん。歴史とか好きな人は見るべきだし、一回見て欲しいかな。あれだな。二度と見たくないタイプの映画だと思った。俺は』



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