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第21話

 〜準備中〜


『おはようございまーーーーす。みんなのハートを射止める女王蜂歌い手、白龍月子ですー。朝配信ですー。どうも、おはようございまーーーす』


 >蜂!

 >蜂!

 >女王様!

 >怪我大丈夫か!?

 >心配です!

 >ニュース見たぞ!


『そー! その話をしたかったんですよ! お騒がせしてすみません。本当に。でもその前にね、みんな、ライブ来てくれて、ほんっっとうにありがとう! まーーーじで嬉しかった!』


 >迫力がやばかった

 >ライブ楽しかった!

 >また行きたい!!

 >次は絶対チケット当てる!


『そうそう。でね、気になってる怪我の件なんですけど、まぁ、簡単に説明しますと、えー、俺のファンがね、そのー、蜂の子の一人がね、俺に彼女がいるってことがわかって、ちょっと過激な行動に出てしまったっていう感じかな』


 >こういう奴がいるから民度悪いとか言われるんだよ……

 >ファンなのにありえない

 >犯人女だっけ?


『ただ、今回ね、そういう人がちょっと目立っててさ。流石に刃物はこの人一人だけだったけど、殴られかけたり、胸ぐら掴まれたりとかもあって、ちょっと騒ぎになりつつあったんだよね。それがあったから、警備員さんも見てたんだろうね。刃物見た瞬間にすぐ取り押さえてたので、俺はかすり傷で済みました。本当に感謝です』


 >かすり傷ならよかった。

 >すごい出血したって蜂の子仲間から聞きました


『まー、そうね。ちょっと切りどころが悪くて、ドバっと出てたけど、でも全然もう回復してますんでね。大丈夫ですよ。たださぁー、それがあったから、会えずに終わった蜂の子たちもいるんだよ! それがマジで申し訳なさすぎて!』


 >ええんやで

 >安全第一です

 >現場いたけど、みんな怖がってたし、不安がってた。白龍が無事なら何よりだけど


『Xでも公式が知らせてたんだけど、今回俺に会えなかった蜂の子達は、次のライブの握手会に参加できます。もー、まじでごめんね! 俺もみんなに会いたかったよ!』


 >会いたかった……

 >もう今回みたいなことが起こりませんように……

 >彼女なんて言ってたの?


『あ、彼女で思い出した! あのさ、そう! 彼女もスタッフとしてライブ会場で働いてたんだけどさ』


 >うんうん

 >白龍の彼女スタッフだもんな

 >心配してたんじゃない?


『あのー、まぁ、彼女ね、スタッフなんですよ。で、俺極力、リコネ配信の方では控えようかなって思うんだけど、流石に自枠では彼女の話したいのね。だから、それが不快だったら、離れてくれても構わない。残念だけど。うん。……我儘かもしれないけど、俺はみんなに歌を聴いてほしいし、配信を一緒に楽しみたいし、ライブも一緒に盛り上がりたい。だから、恋愛関係になれるとかは思わないでほしいかな。……オフパコのDMやめてくださぁーい!! 運営に目つけられますー!!』


 >あっ

 >あっ……

 >あ……


『まじでファンには手出すなって釘刺されてるんだって! やばいって! ほんとに!』


 >よりどりみどりじゃん

 >やっぱ白龍だったわ

 >ライブのお前はかっこよかったよ……

 >結局彼女別れたの?


『いやいや…別れてないから! 付き合ってますから! ちゃんと!』


 >白龍の声が好きだから、別に彼氏がいようが彼女がいようがどうでもいい

 >また一方的に付き合ってると思ってるだけじゃないの?

 >彼女さんも歌い手デビュー……!?

 >みんな! やめたげて! 白龍のHPは0よ!!


『そう! で! 俺さ、腕切られたじゃん! その夜にさ……ここだけの話なんだけど……』


 >?

 >ざわ……

 >別れたの?

 >とうとう別れたのか……

 >涙拭けよ……


『俺、彼女とセックスしたんだよ!!』


 >おいーーーー!

 >いきなりの爆弾投下!

 >白龍の暴走が始まりました

 >ふーん、えっちじゃん

 >俺と同じリア恋勢! 息しろ!


『いや、なんかね、メンバーでホテル泊まってたんですよ。で、そういう、ライブの準備をしてくれるスタッフさんも何人か泊まってたホテルだったんですけど、そのうちの一人だったんだよ。俺ね、ほら、ライブ一日目ね? 終わった夜めっちゃ眠かったんだけど、たまたま彼女と二人きりになれる瞬間があったわけよ! でもさ、うーん、これってさ、どうなんだろ! 男性陣にも経験ない? めちゃくちゃ疲れてるのに、大好きな子が目の前に現れたら勃起しちゃったみたいなこと』


 >ある

 >それやって嫌われた

 >どこの思春期男子だよ! 俺だよ!

 >今の彼女がそれ

 >疲れてる時の性欲は異常


『そう! そうなんだよ! 異常! 俺さ、なんか止まらなくなって、めっっっちゃ口説いたんだよ! もう、すっっっっっごい口説いたの! あのね、ブラジャー! 下着のブラジャーのホックを外すところまでは成功した!』


 >よくやった!

 >お前は男の中の男だよ

 >ブラジャーのホックはエロい

 >そうか、女だと外し方わかるのか……

 >私たちは何を聞かされているんだろう……


『なんかねー、いい感じだったんですよ。ムードは良かった。服の中に手を突っ込んでも、なんかいけそうだったんだよ。だから、ブラジャーを、ね? ホックが三つあるタイプだったんですけど、それをね、ゆっくり外していくんですよ。相手にね、繊細さと敬意を払って。で、外すじゃん。そこからよな。はい、ここからがスタートですよ〜っていうところで——枕ぼぉーん! 投げられて!「触るな、ケダモノ〜!」って』


 >wwwwwww

 >出たケダモノww

 >彼女さん本当にケダモノ呼びしてるんだねwwww

 >ケダモノ出現要注意


『「明日もあるからさっさと部屋戻れ」って怒られてさ。仕方なく部屋戻ってその日は寝たのね? で、二日目にライブやりました。はい、楽しかったです。で、握手会です。事件がありました。もうね、すぐ病院運ばれたんですけど、もうお医者さんも「ただのかすり傷ですね。はいはい。塗り薬用意しときますから〜」って、もうこんなテンション』


 >医者ぁ……

 >お医者さんもかすり傷で来られてびっくりしたでしょうね。

 >マジレスすると傷口から菌とか入るから病院行ったの正解。白龍が無事でよかった


『たださぁ、疲れたんだろうね。握手会終わったらもうメンバーも解散でさ、ホテル泊まる人は泊まって、帰る人は帰ってーって感じだったんだけど、俺すごく眠くてさ、ずーーーっと寝てたの。起きたら24時でさ、日付変わってるじゃん! って思って、なんか腹も減ったし喉も渇いたしで飲み物買いに行ったんだよ。で、なんとなくなんだけど、彼女いねぇかなって思って、彼女のいる階の自動販売機に行ってみたの。……いたんだよ。彼女』


 >!?

 >ドラマじゃん!

 >いたの!?

 >運命すぎる!!


「いや、だからさ、事件あってから一切会えてなかったから、心配してくれてたりしないかなー? なんてちょっと、こう、淡い期待もあったのよ。でね、彼女が外歩きたいっていうから、ホテルのね、なんか夜中でも開いてる湖付きの庭みたいなのがあって、その道を二人で歩いて、なんか、ライブの話とかしてたわけよ』


 >昨日失恋した俺の前でイチャついてんじゃねぇよ!!

 >ラブラブやん

 >自然消滅した愛が蘇ったか……


『いや、そしたらさ、なんか、……うーん、なんていうのかな。なんか、こういうことってさ、今までなかったわけじゃん。今回初めてのドームライブでさ、まさか、事件がさ、起こるなんて思ってないわけじゃん。でもある意味、見てる側ってさ、トラブルとかハプニングって、映像で見ると面白くない? むしろさ、何かあった方が見れたりするじゃん。こういうのって。で、それを、彼女わかってるんですよ。プロなんでね。だから、その様子とかをさ、スタッフだから、カメラで撮ったり、記録に残したり、とかを、彼女は仕事だから、してたんですよ。ずっと』


 >彼女ちゃんプロやん

 >仕事だもんな

 >彼女カメラマン?

 >うわぁ……

 >現場スタッフ大変そう


『んー、それがちょっとね、……重荷になったのかな。まあ、腕切られたのが俺っていうのもあったからさ、やっぱり、そこの板挟み? もあって、仕事だからやらなきゃいけないし、でも人としてそれはどうなんだろう、とか、白龍が切られたー、出血ダバダァー、みたいなのがあってさ、うん、ちょっと、耐えられなくなったんだろうね。もう、ぷつって、糸が切れたのかさ、話してるうちに可哀想なくらい泣いちゃってさ』


 >あぁ……

 >気持ちはわかる

 >そうだよな、スタッフ達も大変だったよな……

 >出血ダバダァーやめてもろてwww

 >そこは男としてちゃんと慰めたんだろうな?


『あ、違います。女です。ついてません。はい。ついてねぇから。心にはついてるけど。……うん。慰めたよ。もうこの両手で抱きしめて、目一杯慰めましたとも。でもさー……その顔がまた可愛くてさぁーーー』


 >ほう

 >流れ変わったな

 >話を聞こうか


『セックスしたよねぇーーーー』


 >オチきたーーーー!

 >オチ早い!

 >話オワタww

 >もう帰れ!


「あの、凍結されない程度に言うわ。……いやぁーー、もうね、もう、あーー! なんて言ったらいいのかなぁーーー! どエロくてさぁー!! あのさ、なんか、やったことある人いると思うんだけど、彼女がね、俺の太腿に手を乗せて、そこからゆーーーーっくり撫でるの! やってみ! お前ら! すごく気持ちいいから! しかも彼女超上手いからさ、え、これ、……もしかして男作ってたんじゃね? って思って、「え、これ誰から教わったの?」って聞いたの! そしたら……』


 >ほう

 >流れ変わったな

 >面白くなってきた

 >話を聞こうか


『俺にやられてたのを覚えてて、それを俺にやってたの!! いやー! まじで興奮した! あれ!』


 >新手の仇討ちか

 >姉御、もうしんどいっす……

 >自然消滅期間中に恋人作ってないの?


『あ、聞いたんですよ。それ。本人はね、「作る暇がなかった」とは言ってた。まぁ、わかんないけどね。俺はレズビアンでも彼女は違うからさ。でも、まぁ、仕事忙しすぎてそれどころじゃなかったっていうのは、まぁー……信じてもいいのかなって。五日間の平均睡眠時間3時間って聞いてびっくりしたもんね。俺、絶対無理だわ』


 >3時間!?

 >スタッフって大変だもんな……

 >マジな話、場所によって撮影方法違うし、いざ整理してみたら素材足りないこともあったりする。カメラマンアシスタントやってたけど、無理すぎてすぐ辞めた


『そう、で、彼女と連絡取れなくなったのが六年前だから、俺も彼女も久しぶりのセックスだったからさ、そりゃ燃えるよな。うん』


 >何回した?


『えー、何回ヤッたんだろ。でもめちゃくちゃヤッた。すごかったよ。もう、お互いずっと止まんなかったし、ずっと興奮してたし、でさ、彼女、仕事人間だから普段はピリィ! ってしてんだよ。もう、静電気みたいな。触れると痛い痛いみたいな。でもヤッてる時はもう素直だもんね。ずっと腕のこと気にしてくれてた。すっごいでっかい愛を感じた』


 >愛されてんな

 >良い彼女じゃねえか!

 >優しい……


『たださ、セックスしてる時はいいんだけど、その後よな! もう、目覚めたら普段通り。もう、ピリィ! ってしてんのよ。俺びっくりしたもん! だって、六年間だよ? 会えてなかった恋人とセックスしてさ、その翌朝だよ? 普通ベッドでさ、「おはよぅ♡ ねぇねぇ白龍、チューしてぇ♡ ぎゅーしてぇ♡」って来るかと思うじゃん。「はい、チェックアウトまで何時間。早く部屋戻って帰る準備してください。早く着替えてください。はいはい、ほら、早く」手ぱんぱん。触れたらピリィ! みたいな。えーーーーー!? ってなるよね。俺も』


 >オカンwww

 >お母さんだwww

 >しっかりしてるわwww

 >彼女のピリィちゃんwww

 >ピリピリィ!


『あ、いいね! ピリィちゃん! キティちゃんみたいで可愛いじゃん! 俺が女王蜂なんでね。その彼女が静電気のピリィちゃんってね。なんの関係性もねぇけど。まあいいや。今からピリィちゃんって言うわ。でさ、メンバーもまた面白くてさ、ミツカが……』

「あれ」



(*'ω'*)



 高橋が白龍月子の配信を見てた編集メンバーに声をかけた。


「ふじっちは?」

「今日お休みなんですよ」

「引っ越しするらしくって」

「あいつ……とうとう囚人部屋みたいな家から卒業したのか!」

「会社の近くらしいですよ」

「時間の代わりに交通費貰えなくなるって嘆いてました」

「あいつも少しは金使うってこと覚えたか。知ってるか? あいつとんでもない節約家なんだぞ。……ところでメイキングどんな感じ?」

「いや、もう素材が最高です!」

「いい映像になりますよ! これ!」


 家具を運んだトラックが建物に到着し、エレベーターを使って運んでいく。と言っても、大した量はない。新しく買った机と椅子と棚、あとは仕事用機材、着るものくらいだろうか。


「これどこに置きますか?」

「ここで」


 引っ越し屋業者に手伝ってもらい、無事に客室だった部屋が女一人生活ができそうな部屋へと変わった。


「ありがとうございました」

「またご利用お願いします!」


 礼儀のいいお兄さんたちが去っていく。それを見届け、玄関ドアを閉める。


(はぁ、疲れた。……お腹空いた)

「お昼食べに行く?」


 振り返ると、西川先輩がスマートフォンをいじってた。


「外食でもいいし、あ、ウーバーにする?」

「ウーバーなら自分で歩いた方が安いです」

「お金ある人は使って経済回さないと」

「そんなこと言ってたらいずれお金に困りますよ」

「そうならないよう頑張ります」

「……確かにお腹は空きました」


 西川先輩のスマートフォンを覗き込む。


「ハンバーガー食べたいです」

「マックいいじゃん! 何にする?」

「あ……シェイク飲みたいです」

「私もシェイク飲む!」


 マックのメニューを見てはしゃぐなんて、いつぶりだろう。忙しすぎて口にしていなかったハンバーガーを見ていると、疲労からではなく、普通にお腹を空かすことができた。


「ねえ、ツゥ、これ二人で買って半分こしない?」

「ふふっ、別に良いですよ」

「よし、買おう!」


 はしゃぎながら頭を寄せてくる西川先輩を、少し、可愛いと思いながら、あたしはまたスマートフォンに視線を流した。









「ライブ来てくれて嬉しかったよぉ〜」


 >可愛かった!

 >最高だったよ!


「え! 可愛かった? でも……みんなに比べたらスイなんて」


 可愛い声で発信する。


「まだまだだよぉ! うふふ!」


 可愛い、天使、スイちゃんが一番! というコメント欄を見て、スイは笑みを浮かべた。


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