第13話
(言ったれぇえええええ!!!!)
切り抜きポイントを探して、動画を見ている中、そんなオープニングトークを見かけた。
(また人のことネタに使いやがって!! あの白髪!! 寝るだけって言ったくせに襲ってきたのそっちじゃん!! 「近づくな、ケダモノ」? 「近づかないでください。ケダモノって呼びますよ」だろうが! 敬語使ってんだろうが! あたしが悪いみたいに言ってんじゃねぇぞ! 話盛ってんじゃねぇぞ! てめえの行動が全ての元凶なんだよ! 火のない所に煙は立たないって教わってねぇのかよ! いけ! リスナー!! 言ったれ言ったれ! どんどんアンチをふかせ! 白龍月子の人気を突き落とせ!!)
あたしははっとして、——調べてみた。X、検索、白龍月子。
(アンチコメント検索! 良かったものには全力いいねをつけるべし!!)
>白龍と彼女を別れさせるためにはどうしたらいいですか? 踏み込んじゃいけないっていうのもわかってるけど、白龍が知らない女といちゃついてるっていうのを聞くだけで張り裂けそうになる。。。
>白龍の彼女、お願いだから別れて欲しい。好きじゃないならこれ以上白龍を翻弄しないであげて。白龍が可哀想。
>昨日の配信見たけど、白龍の彼女ってなんなの? どう見ても成功者の白龍にごますってるようにしか見えないんだけど。別れたらいいのに。
(……)
あたしは静かにパソコンを閉じ——ゆっくりと窓を見た。青空が広がっている。
(……どうしてあたしが嫌われてるの?)
あたしはもう一度Xで検索してみた。白龍、彼女。
>白龍の彼女、どう見ても白龍のこと利用してない? なんかモヤモヤする。。。
>壁一面に写真貼られるくらい愛されてるの普通に羨ましい>_<。
>白龍の話は面白いけど、彼女が好かない。もう別れて欲しい。
>白龍優しいから利用されてるだけ。気づいてない。
>どうしたら彼女と別れさせれる?
>スタッフって言ってたけど。
>彼女、ライブに来るの?
「藤原」
あたしはパソコンを閉じ、振り返った。
「打ち合わせ」
「うわ、すみません。そうだった!」
パソコンを持ち、会議室に向かう。二人でパソコンを開き、チャットアプリからグループを作ると、Re:connectメンバーが入ってくる。
「あ、お疲れ様ですー!」
『『お疲れ様ですー』』
「本日はお忙しいところすみません! 早速なんですけど、今後の方針についてお話していきたいと思います!」
高橋先輩が率先して、Re:connectの活動方針のすり合わせ、及びそれに伴った企画を提案。結局ショート動画を作るのもライブ宣伝のためであり、ライブを中心に動いていこうというのが今後の目標。ということをみんなに伝えていく。
「こんな感じですかね。他にご質問ありませんか?」
『あ、一点だけ。今度のライブなのですが、高橋さん達も来れませんか? 今ライブの制作チームが人手不足で、メイキング用のカメラマンが欲しいと話が出ていて……』
「ああ! 大丈夫ですよ! 行かせていただきます!」
(高橋先輩)
あたしは手を挙げて主張した。
(あたしは行きませんよ!)
「藤原も連れていきますので!」
(お前くたばれよ!)
『あー! 助かりますー!!』
「制作チームに連絡とってみます! では、また今月もよろしくお願いします!」
リモート会議が終わり、パソコンを閉じると共に高橋先輩に睨まれる。
「スケジュール空けとけ」
「なんでプライベートな時間まで空けないと駄目なんですか! 先輩一人で行けばいいじゃないですか!」
「メイキング用のカメラマンだろ? どう考えてもこっちの仕事だろ」
「あたし動画編集者です!」
「欲しい素材わかるのは編集する側だろ」
「もぉー……!」
「ライブ3日間スケジュール押さえとけ。……あー、メンバーの泊まるホテルも聞いとくか。ホテルの中で撮影できそうだし」
(そうだそうだ……。これは仕事だ……)
というわけで、ライブの3日間はメンバーと同じホテルに決まりました。別に嫌なわけじゃない。嫌なわけじゃないけどさ……。
(西川先輩が何してくるかわかんないから怖いんだよなぁ……。……ま、メンバーいるし……流石に大丈夫か……おん?)
チャットに通知が来た。
(そういえば会議始まったくらいからしつこく来てたな。なんだろう。なんかの案件の確認かな?)
チャットを開き、後悔した。——白龍。
(うっ!!)
通知100件以上。
(うんんんっ!?)
>ツゥ、会議始まったね。
>ツゥがいつ喋るのかドキドキしながら待ってるw
>企画楽しそうだねー
>てか撮影明日だよね
>なんか毎日ツゥと会えて嬉しいんだが
>今の発言変態みたいww
>これ俺発言していい?
>俺とか言っちゃったww
>完全に白龍になってるww
>ツゥ、喋った!
>声可愛いね♡ニチャア
>ツゥさ、いつになったら引っ越してくるの?
>高橋さんってさ、なんでいつも語尾上がってんの?w
>企画でさ、メンバーが他にもやりたいことあるっぽいから、それまとめて送ってもいい?
>ね〜ツゥ〜
>好き♡
>(白龍のスタンプ)
>(白龍のスタンプ)
>(白龍のスタンプ)
>(白龍のスタンプ)
>ツゥもこのスタンプ使っていいよ♡
>ツゥ今夜会える?
>一緒にご飯食べよ
>個人的にミュートのツゥがいつ出てくるかゲームして遊んでるw
>(白龍のスタンプ)
>(白龍のスタンプ)
>(白龍のスタンプ)
>(白龍のスタンプ)
>ツゥ〜
>ねぇツゥ〜
>今夜配信19時から22時までだから、残業終わったら来てもいいよ♡
(誰が行くか、クソッタレ!!!!!!)
こうなったら22時と言わず、24時まで残業してやるわ! いいか! 映像業界に、定時で上がるなんて言葉は存在しないんだよ!!!
「水城スイちゃんの切り抜き動画5連発作ってやるから!!!!」
「ふじっち気合い入ってんな〜」
「すげーわ」
「ふじっち、俺先上がるから。お疲れー」
「お疲れ様でーす!!!!」
19時。
「ふじっちまだやってくの?」
「ご飯は?」
「お給料まだ入ってないんで! ボーナス出たらこっちのもんっすよ!」
「お疲れー」
22時。
「……」
24時。
「……ふぁっ! 今何時!?」
時計を見て愕然とする。
(マジで24時までやってたじゃん……終電……うわ、今から駅とか間に合わん……)
椅子にもたれる。
(今日も朝までコースかぁ……)
スマートフォンを見ると——通知100件以上。
(動画確認か!? 何かミスがあったのか!?)
編集グループ一件。
>お疲れ様でした〜(太陽の絵)
白龍。九十九件。
>ツゥ。今から配信するよ〜
>ツゥ。配信終わったよ〜
>超楽しかった
>仕事いつ終わる?
>さては寝てるな?
>ツゥ、起きろ〜
「……」
飲み切ったエナジードリンクとコーヒーに囲まれて、ため息を吐いて、1分前までに投げられたメッセージを無視して、スマートフォンを弄る。
<白龍さん、お疲れ様です。明日はうちで5本撮りなのでもう寝てください。
>おはよ〜(絵文字)まだ会社?
<おはようございます。明日の準備があるので会社です。おやすみなさい。
>お腹すいたんだけどどっか行かない?
あたしの小腹も鳴った。
<お給料前なので節約してるんです。いいから寝てください。
>何食べたい?
(ラーメン……定食……)
<ライブ前なので外食は控えてください。
>うちおいで。余りものある。
<いらないです。
>カツ丼作って待ってる。
(……)
>プラス、味噌汁。
——別にカツ丼と味噌汁に釣られたわけではない。使われた食材がこのままゴミ箱に入るのは地球の生命的にも良くないから行くだけだ。そう。あたしは——決して——胃袋のために——行くわけではない……。
「……お疲れ様でーす」
誰もいなくなったオフィスを見回し、鞄を背負った。
「……お帰り。ツゥ」
「カツ丼と味噌汁食べに来ただけです。……お邪魔します」
ドアを開けてにやつく西川先輩から、視線を逸らしながら部屋へと入っていった。




