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第12話


 押し倒されたベッドに、体が沈む。

 上に、西川先輩が乗り込む。

 まだ乾ききってない髪の毛を垂らして、あたしを見下ろす。


「ツゥ」


 低い吐息混じりな声に、思わず心臓が高鳴った。


「嬉しい。ツゥが私の部屋にいるなんて」


 長細い指があたしの頬を撫でる。


「思い出すね」


 首筋をなぞられる。くすぐったい。


「ね、ツゥ」


 手が、どんどん下へ、下がっていく――。


「……しよ……?」

「駄目です!!」


 思い切り掴んでいた枕を西川先輩の顔面をぶん投げる。西川先輩が手を止めた。


「泊まるだけって言いました!」

「……ツゥ」


 Round2。西川先輩がそっとあたしに抱きつき、耳に囁いてきた。


「ね、……しよ?」

「ダウト!!」

「ぶふっ!」

「油断も隙もない! なんですか! この天井! こんなところにまで写真が!」

「え、前気づかなかったの?」

「客室で寝ます! なんかありましたよね! 前に見ましたよ! あたし!」

「やだやだ。ツゥ。わかった。何もしないから一緒に寝よ」

「近づかないでください! ケダモノって呼びますよ!!」

「や、ケダモノって……! 間違いではないけども!」

「あ、いいものがある! これをこうして!」


 あたしと西川先輩の間に、枕の壁ができた。あたしはそれに背を向けて横になる。


「お休みなさい」

「……ツゥ、ね、枕邪魔じゃない?」

「枕退けたら二度とこの部屋に来ませんし、今夜も一緒に寝ません」

「わかった、もう、いい。それで。大丈夫……」

「……それじゃあ」


 あたしは心地良いシーツを被った。


「お休みなさい」

「……お休み。ツゥ」


 シーツから見える膨らみを見て、西川先輩が鼻で笑った音が聞こえた。あたしは振り返ることをせず、そのまま――疲れがたまっていたのか……すぐに眠ってしまった。



(*'ω'*)



『Re:connect!』

『どうも皆さーん! Re:connectでーす!』

『はいはい、どうもどうも』

『ところでね、皆さん、見ましたか?』

『何ですか!』

『YouTubeチャンネル登録者数が90万人を行きました!!』

『いや、拍手拍手!』

『すごいことですよ!』

『あれだよね、多分、ミツカと月子の影響だよね』

『MVすごかった!』

『私達もグッズ出てますんでね、ぬいぐるみ! ぜひぜひ買ってくださいね』

『じゃあね、早速ですけどね、近況報告でも聞いときます?』

『なんでだよ! 告知あるだろ! いけよ!』

『ほら、来月ライブあるでしょ。その後にね、握手会が決まりまして』

『ちゃんと顔出しでね、やらせてもらいます!』

『私達、ライブでは顔出しする系歌い手なんでね!』

『チェキはNGなんですけど、握手会に参加できるチケットが限られてます。早めのご購入お願いします!』


 >白龍の元カノは?

 >あ、白龍の元カノ!

 >関係者席!?


『いや、いやいや……あのさ、リア恋もいるからさ、ね』

『いや、ここは聞いておかないと駄目だね』

『うちらただのアイドルグループじゃないからさ』

『なんて言ったってRe:connectですからね』

『いや、いいよ! また怒られる!』

『結局別れたの?』

『別れてないから! 付き合ったままだから!』

『ライブ来るの?』

『わかんない。スタッフとして来るんじゃない?』

『あ、そっか! スタッフなのか!』

『私さ、なんとなく勘づいてるんだけど……あの……いつも録音してるスタジオあるじゃん……』

『あっ! あっ!』

『すごい美人なお姉さんがいるんですよ!』

『そうだ! あの人最近入ったばかりって……!』

『あ、あの人じゃない』

『違うの!?』

『あの人はね、違う』

『違うのか……』

『え、じゃあ復縁したの?』

『いや……じゃあさ、そこまで言うならさ、わかったよ。これはちょっと男性陣に聞きたい』

『お、男性陣ならもういっぱいいるんじゃない?』

『スイのリスナー2:8で男性だからね』

『任せて』

『お家に連れ込むことに成功したんですよ』

『『うわーー!!』』

『爆弾投下!』

『あーあ! チャンネル登録者数減るよ! これで!』

『いや、だから、で! その後よ! そこまできたらさ、お前らわかるじゃん! 抱きたいじゃん! だってずっと会ってなかったしさ!』

『月ちゃんは心に男のブツがついてるからね』

『よく彼女さん部屋入ったね!』

『いや、そこはもう、さ、俺の腕だよね!』

『打ち合わせとか言って騙したんじゃないの?』

『……』

『『え?』』

『ちょっと待って』

『月ちゃん』

『いやいやいやいや……うん、いや、だからさ、とにかく、なんか……色々あったんだよ』

『何があったんだよ』

『言えねぇよ! あのさ! 言えることと言えないことがあるんだよ!』


 >言えないようなことしたの?

 >ふーん、炎上じゃん


『まあ、なんか色々あってですよ、一晩彼女がうちに泊まることになりまして、でさ、これはさ、もうさ、ここまでいったらさ、あとはもうベッドインするだけじゃん。もう服をぽいと捨てて、脱がすのでもいいですよ。お互いが肌を重ねて愛を深め合う行為をね、したいと思うじゃん。ここまで行ったらさ! だって、うちのね、ダブルベッドがあってね、もうそこにいるんだもん。俺が用意したパジャマ着てさ』

『一緒のベッド行ったの!?』

『行った! 客室なんか絶対使わせねぇ! 彼女が入っていい部屋は俺の部屋だけだから!』

『可愛かった?』

『すっごく可愛かった! あとエロかった!』

『ぶふぉ!』

『エロいんだ!』

『エロいよ! 俺思うんだけどさ、可愛い綺麗な、おっぱいがもう……こんな、でかいセクシーお姉さんとかもいっぱいいるんだけどさ、やっぱりどこにでもいそうなさ、地味に見せかけた顔つきの女の子が一番エロい気がする』


 >彼女地味顔wwww

 >彼女さん怒っていいぞwwww


『え、もうこの部屋しかないからーみたいなこと言ったの?』

『いや、もう何も言わずに、寝るってなったら「はいはいこっちね〜」みたいな自然な感じで、もう、連れてった』

『いや〜これは手慣れてるわ〜』

『絶対他の女の子も連れ込んでるわ〜』

『オフパコしちゃダメだからね!』

『いや、リスナーには手出すなって運営側から言われてるから!』

『それで、一緒に寝たの?』

『いや、これがさ、スイ、聞いてよ』

『聞いてますよ』

『二人で寝る感じになるじゃん。もうね、この距離にいるわけよ。だからもう、スイッチが入って、口説きモード突入だよね』

『あ、でも白龍女の子口説くの上手そう』

『いや、正直俺はすごいよ! もうイチコロのメロメロだから!』

『結果どうなったの?』

『これがさぁ……、……枕投げられて、「近づくな、ケダモノ」って言われました』


 >wwwww

 >目がギラついてたんだってw

 >どこぞの童貞だよw

 >思春期の男子かよw

 >ほら、涙拭けよwwww


『ぎゃはははははは!!』

『え、どこで寝たの?』

『普通に寝室』


 >あれ、寝室って……

 >流れ変わったな

 >天井に写真貼ってるんじゃなかったっけ?


『え、月ちゃん、天井に写真って何?』

『いや、寝ながら見れるなーって思って、寝室には彼女の写真を、天井の壁一面に貼ってて……』

『『いやいやいやいや』』

『そこに連れてったの!? 一緒に寝ようって!?』

『月子、それは流石に怖すぎる』

『いいじゃん! 愛じゃん! お前らこういうのが好きじゃん!』

『上見上げたら自分の写真貼ってる部屋でさ、抱かれるってどう?』

『いや、無理』

『キモい』

『引く』

『リスナーさん達も引いてるから!』

『え、じゃあ、あ、わかった。これは女性陣に聞きますわ。皆さんどうですか。彼氏の部屋の天井に、自分の写真貼ってあったら』


 >白龍なら嬉しい♡

 >引く

 >自分が見えないところでやるなら許せる


『ほら! 嬉しいって! 嬉しいってコメントある!』


 >不快

 >速攻で別れる

 >ストーカーwwwwww


『ストーカーじゃねぇから!』

『天井の写真見て彼女ちゃんなんて言ってたの?』

『なんて言ってるというか……もう……なんか……ひたすら……やめて? みたいな』

『ほら引いてるじゃん……』

『いや、その場ではさ、あんまり気にしてなかったよ! え、なんで貼ってんの? みたいな感じ? いや、天井にも貼ってるし〜、みたいな?』

『いやもうそこまで行ったら踏み込めないんだよ。怖いんだよ! きっと!』

『きっつ』

『これは別れ切り出されても仕方ない』

『今日白龍の彼女オーディションでもやる?』

『えー、やるー? ……嘘! 嘘! やらないから! 俺、ちゃんと一途だから!』



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