防衛戦
入り口ホールにつくと、エルフたちが全員集まって入り口から外に向けて魔法を飛ばしていた。
その後ろでドワーフたちが斧を持って待機。いつでも戦線を張れるよう待機している。
「ケーゴ! ジャイアントがたちが崖を渡って、入り口に向かって登ってこようとしているの!」
俺を見つけたリコが駆け寄ってきた。
「明日までは大丈夫そうだったのに、なんでこんなに早く?」
「雪が激しくなって積もったの。」
くそアサルめ!
何がフェアだ!
エルフたちが応戦している隙間から前に出て、入り口の外を見る。
入口から向こう岸に向けて、尾根のような道が出来上がっていた。
真っ白く雪が積もっている。
尾根のような道はクリムマギカの入り口や向こう岸の道の高さから10メートル以上下にある。
ロックリザードとサンドウルフは崖を降りられず向う側でウロウロとしている。
だが、ジャイアントたちは向うの崖から、雪の上に飛び降りてクリムマギカ側に渡ってきているのだ。
そりゃ、ジャイアントの自体が10メートルくらいあるわけだから、飛び降りて来てもおかしくはない。
ジャイアントたちはクリムマギカの入り口に張り付いて、彼らからしたらそこまで高くはない崖をよじ登ろうとしていた。
エルフたちが魔法を飛ばして応戦しなんとか食い止めている。
距離が近くなったので魔法の威力も上がり、攻撃に参加できるエルフも増えた事もあって、次々とよじ登ろうとしているジャイアントたちが落ちていく。
魔術師たちが必死で魔法を連射し、ヤミンも彼らに混ざって弓を撃っている。
「まずい! ジャイアントが上がってきた!!」
悲鳴が上がった。
入り口の右側、ジャイアントが一体、魔術師の魔法を耐え凌ぎながら、ついに、右手を入り口にかけた。
近くにいたエルフが危うく潰されそうになって尻もちを付く。
左手もすぐ近くにかかった。
「ヤミン!」リコが悲鳴を上げた。
ヤミンがすぐ近くいる!
ヤミンは一歩だけ大きくバックステップして力いっぱい弓を引き絞って構えた。
ダメだ!!
慌ててヤミンの前に駆けつけ、立ち塞がる。
「【ウィークポイント】【キラーエッジ】【クイックネス】【プロテクション】【バリア】を俺に!!」
近くにいたエルフたちに指示を出す。
次々と俺に支援魔法が飛んでくる。
ヤミンの前に立ちふさがり、鞭を構える。
「ケーゴ!?」
ヤミンの声が後ろから聞こえてきた。
ジャイアントの顔が入り口から覗いた。
でかっ!
【ウィークポイント】のおかげで顔面の巨大なひとつの目全体が水色の円で弱点表示されている。
ん?
なんか、瞳の真ん中と両目尻の水色が濃いな。
「【牙突・三段突き】!」
三連撃で、瞳の真ん中、目尻、目尻と狙う。
誘導されるように鞭の先が伸び、次々と弱点を的確に穿った。
ものすごい手応え!
ジャイアントが悲鳴のような咆哮を上げながら落ちていく。
何だよ!この武器!
この感覚はヤバい。
まさにジャイアントキリングだ。
あまりの手応えに、ロックジャイアントの行く末も、ヤミンの無事も頭の中からふき飛んだ。
やべえ、レベルの上がり幅だ!
どんだけレベルが上がったか確認したい!
これ絶対凄い上がってるはず!
ステータスを開く。
やっべぇええええ!
くっそレベルが上がってりゅううう!!
てか、【クリティカル】なんて今の一発で0.8近く上がったやんけ!!
次の手が入り口にかかった。
「俺に任せろ!」
ひょっこりと出てきたジャイアントの顔めがけてもう一度「【牙突・三段突き】」
ジャイアントが悲鳴を上げて落ちていく!
ふひゃあああ!
レベル上がってくううううう!
「俺がやる! どんどん上がらせて!!」
エルフたちに指示!
「ケーゴ! むちゃしないでっ!」
リコの怒鳴り声が聞こえるが、それどこじゃない。
次に上がってきたジャイアントも【牙突・三段突き】!
あばばばばば! めっちゃ経験点が入るううう。
「ケーゴッ!!」
「今いいところだから! 下がってて!」
こんなに経験点の入るモグラ叩き、他の奴らにやらせてなるものかっ!
【牙突・三段突き】で次々とジャイアントを落としていく。
もしかしたら、倒せてるまであるかもしれん。
ああああ、【クリティカル】のレベル上がりはぇぇぇええっ!もう3以上上がってるうぅぅぅ!!!
15分経ってないぞ!?
「次だ! 次はまだか!!」
気がつくと、ジャイアントたちが登ってこなくなった。
入り口の際まで行って下を覗く。
ジャイアントたちは入り口の下を広く開け、こっちを恨めしそうに見上げていた。
「ちっ、もう終わりか・・・。」
とても残念。
「ケーゴ・・・。」後ろからリコの声。
「ああ、大丈夫だった? リコ。」
振り返ると、涙目で俺のことを睨むリコが両手で俺の両頬を挟み込むようにひっぱたいた。
響き渡った乾いた音に、まわりのみんながシンとなる。
「レベル上げなんかで無茶しないで!」
「あ、はい。ごめんなさい。」
いかん、俺、完全に正気を失ってた。
リコの言う通り、俺一人突出してたから一発でも【クリティカル】が外れてたらやばかったかもしれん。
本来、【クリティカル】はめったに起こらないからクリティカルなのだ。
「ま、まあ、リコもそんなに怒らないでよ・・・。」ヤミンが俺たちの間に割って入ってきて俺の手を握った。「ケーゴのおかげで私も命拾いしたわけだし、そんな悪い判断じゃなかったよ。ケーゴ、ありがと。ね。」
ごめんなさい。あなたの事、序盤で忘れてました。
「これから無茶しなきゃ、もうそれでいいです!」
リコはほっぺたを膨らませて腕組みをした。
目は合わせて貰えない。
「痴話喧嘩の最中にすまんが、ひとつ訊ねたい。」
そんな俺達の元へ、ディグドとフーディニアスが寄ってきた。
ディグドが真面目な顔で俺たちに告げた。
「今度はジャイアントたちが街の前に階段を作り始めた。どうすればいい?」




