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俺、最強の鞭を手にする

 3日がたった。


 外の敵の喧騒とは裏腹に街の中は意外と呑気だ。


 遠距離部隊も慣れてきたせいか緊迫感が無くなってきている。

 ロックリザードとサンドウルフには崖を越えて攻撃してくる手段はない。

 ジャイアントたちは持ってきた石を投げれば届くんじゃないかと思うが、奴らは崖を埋めるのに夢中で全くこちらには攻撃してこない。


 作戦がうまく回っているというか、死傷者が出ないので何かを改善をするきっかけがない。

 ドワーフたちは忍耐強いし、エルフは気が長いのでこの状況に対しての不満もなさそうだ。

 俺自信も状況に慣れてきたせいか、少しだれてきた。


 ルナによるとテキコロースの作成も順調に進んでいて、明日の夕方には完成できる見通しだ。


 測量の専門家のドワーフによれば、崖が埋まるのはおそらく明日の夜か明後日とのこと。

 なんともギリギリだ。


 そして、それまで俺、やることがない。


 今は肉弾戦で防衛線を張らなくてはならなかった時に備えて、少しでも敵に対応できるようにレベル上げをすることにした。

 親方に協力してもらって作った飛行型のゴーレムを相手に訓練中だ。


 空を素早く飛べるトイドローンのような小さなゴーレムだ。

 魔力追尾で俺をトレースするように作ってもらってあって、俺の周りをランダムに飛び回るように作られている。

 トイドローンと言っても形はまん丸で、外側は硬い外殻で包まれている。防御力はあって、俺の攻撃では壊れない。

 外殻には隙間があって内側に緊急停止ボタンが設置されている。

 それを鞭で叩くとトイドローンは停止する。

 そして、停止ボタンを叩くのに成功すると、めっちゃ【クリティカル】が伸びるという寸法だ。


 そんなわけで、昨日今日と、万一に備え、空いていた研究室を借りてドローン相手に訓練をしてる。

 おかげで【クリティカル】が1上がった。


 と、そんな折、研究室の入り口から声をかけられた。


「おい、少年。」


 振り返れば、5センチほど開かれた扉の隙間からドワーフの顔半分が覗いている。


 この人知ってる。

 いつも超遠巻きにテキコロースの開発現場を見てる人だ。

 何故か、彼だけは他のドワーフと違って話に参加してきたり、自分のできることのアピールをしてきたりしない。


「ええと、何でしょう?」

「何をしている?」ドワーフは扉の隙間から俺をじっとにらみながら訪ねてきた。

「ええっと、いざという時、この街を守れないとダメかと思って修行をしているのです。」

「そうじゃろ! そうじゃろ! ようやく解ったか!」

 ドワーフが扉を開けて、小躍りしながら部屋に入ってきた。

「やっぱあんなドッカーンみたいなのじゃ小回りが効かんし、いざという時に役に立たん! 派手なだけじゃ。」

「ドッカーン?」

「メルローの作っとるやつだ。」

「ああ、テキコロースですか。」

「そうじゃ。あんな威力が高いだけの下品なもんより、手に持って戦える武器のほうが断然便利で大事なのじゃ!」

「そりゃそうですよ。」

 俺の返事にドワーフがキョトンとする。

「なんじゃ? お前がアレを作れと言ったんじゃないのか?」

「いやいやいや、何言ってんすか。あれはあれですよ。あれは戦略面での武器で、今回みたいなイベントに特別に必要な武器ですから。いちいち、モンスター倒すのにあんなんぶっ飛ばせませんし、レイドボス相手に当てれるとも限りません。」

「おお! お前、よく分かってるな!」

 ドワーフが嬉しそうに俺に右手を差し出してきたので握手をする。

「ワシはエルダーチョイス。魔法の武器を研究しておる。」


 え!?

 エルダーチョイスってアルファンの伝説の武器の製作者じゃなかったっけ?

 ご存命なの?


「ワシの武器を使ってみる気はないか?」

「ぜ、ぜひとも!!」


 もし、この人があのエルダーチョイスなら、願ってもない!


 俺は訓練はさておいて、エルダーチョイスと名乗ったドワーフに案内されて彼の工房にやって来た。

 聞けば、彼は正確には武器自体を直接作っているわけではなく、武器に持ち主の戦闘能力を上げる魔法を付与する方法について研究しているらしい。


「見ろ! これが私の研究だ!」


 エルダーチョイスは誇らしげに彼の研究室の中を見せてきた。

 部屋の中には思ったほどの武器はなく、20本ほどの武器だけがどうだとばかりに飾ってあった。


「ここにあるのはワシの自信作じゃ。どれもかなりの一品じゃぞ。」


 そう言われると格があるように見える。


「この鑑定メガネで覗いてみてくれ。」

 そう言って、エルダーチョイスはオペラグラスみたいな物を俺に差し出した。

 助かる。


「おお!」

 メガネで武器を覗くと、武器の能力がゲームのヘルプのように現れた。


 すげえ、この剣、ダメージ補正が+25ある。

 アルファンでは+10を越えたら、相当な名品だ。

 ざっくりいうとスキルレベルに+10されるような感じだ。


「真中のが一番の自信作じゃ。これはなかなかの武器じゃと思うぞ。」


 エルダーチョイスが指し示したのは、いろんな武器の真ん中、他の武器よりも高い位置に飾られた地味な広刃の剣だった。

 これがソード・エルダーチョイスか。

 アルファンでは最強と呼び声の高い剣だ。


 鑑定メガネで覗く。


『ダメージx3.55488544 命中補正+10.00000001 クリティカル補正+5.00000004。』

『追加効果:一部モンスターへの特攻。使用者が魔力を消費することでダメージに加算を得ることができる。』


「すげぇ・・・。」


 かける3.55倍って何だよ・・・。

 こんなんチート剣じゃねぇか。


「どうじゃすごいじゃろう! くれてやってもいいぞ?」

「ま! まじっすか!?」

 最強剣の一つがあっさり俺の手に!?

「その代わりちゃんと使ってくれるのが約束じゃ。売ったりしたら承知せん。」

「ぜ、是非!」


 って言ったものの、ダメージ3.5倍って実は俺にとって全く美味しくない。

 魔力もめっちゃ集中して、ルナに諦めろと言われるくらいしか絞り出せないから、ダメージ加算の効果も望めない。

 命中が上がるのはうれしいけど、そもそも得意分野なのでそこまで困ってない。

 完全に猫に小判だ。

 これだったらダメージにプラスが入るさっきの剣のほうが良いかも。


 ん?

 一番端にそれとなく立てかけられていた槍に目が留まる。


「こっちの槍は?」

「おお、これか・・・。出来はイマイチなんだが、何か捨てられなくてな。」


『ダメージ+15.00000003 クリティカル*1.89700876 命中*1.49735253』

『追加効果:射程補正』


「こっちがいいかも。」

「これで良いのか? ダメージにプラスが入っているだけだぞ?」


 もしかして、エルダーチョイスには小数点以下が見えないから、クリティカルや命中のブーストが見えてないのか。


「これで、お願いします。」

 クリティカルを乗算補正してくれる武器なんてアルファン時代でも聞いたことがない。

 まさに【クリティカル】ビルドのためにあるような武器だ。


「試しで使っとる感じだと、向うの剣よりよっぽど使いやすいのじゃが、眼鏡でデータ化するとダメージ補正しかついとらん。」


 やっぱ、小数点以下の乗算効果が見えてなのか。


「俺みたいな非力な人間には最高の武器ですよ。これ。」

 俺的にはこの槍最高。鞭から鞍替えしても良い。

 俺のその言葉にドワーフが飛び上がって大喜びする。

「そそっそそ、そうじゃろ! そもそも、これは持ち主を選ばないというコンセプトで作った武器なんじゃ! 非力でも不器用でもそれなりに力にはなってくれるはずじゃ。HOOOO!!」


 テンション上がりすぎ。


「ちょっと、振ってみていいですか?」

「もちろんよ。」


 エルダーチョイスから槍を預かって突いてみる。

 うーん。やっぱ使ったこと無いのでしっくりとこない。

 【槍】スキルを一から覚えることになるけど仕方ない。【槍】も剣に比べたら力を必要としない武器だし。


「イマイチ腕が立ちそうじゃないな、お前。」

 俺の槍の扱いを見て、エルダーチョイスは残念そうに言った。

「まあ、冒険者としてはひよっこですからね。それに、槍って使うの始めてですし。」

「鞭にしたろうか?」


 は?

 何言ってんの?


「そんな事できるんですか?」

「できるぞ、ちょっと待っとれ。」


 エルダーチョイスはそう言って、部屋の隅にあった箱をガタガタとあさると先に何もついてない銀色の柄を持ってきた。

 彼は俺の手から槍を回収すると、穂先をくるくると回して外し、今度は持ってきた柄の先に取り付けた。


 その瞬間、取り付けられた穂先がぐんぐんと伸び、しなるような銀色の鞭と化した。


「す、すごい!」


「そうじゃろ! 誰でも使いやすいようにと考えたら、使いやすい武器になってもらうのが一番だと考えたのじゃ! だから、持ち手を変えればいろんな武器に化ける。だが、武器なんてその個人に合わせて特化したほうが良いわけじゃから、正直、いろんな武器に変化できたからって役に立つとは言えんけどな!」そう言ってエルダーチョイスは愉快そうに笑った。


 ゲームアイテムとしては最高の一品だけどな。


 エルダーチョイスはドヤ顔で俺に鞭を渡した。

 鞭を受け取った俺はエルダーチョイスが離れるのを待って地面をぴしっと打ってみる。


 おお!

 いい感じだ!

 フィット感も悪くない。


「どうじゃ!」

「最高ですよ!!」

「じゃあ、持ってけ!」

「本当にいいんですか? 言っときますがこれ、相当なものだと思いますよ?」

「がはははははっ!! 嬉しいことを言ってくれる!! 持ってけ持ってけ!」

 これだけの武器なのに使ってくれる人が今まで誰もいなかったのだろうか、エルダーチョイスは超絶ご機嫌だ。

「ありがとうございます!!」


 俺が礼を言った瞬間、扉が開いて一人のエルフが駆け込んできた。


「ケーゴさん。みんなが探してます。至急入り口に戻ってください。」

 エルフにしては珍しく焦った感じの口調だ。

「どうしました?」



「ジャイアントたちが崖を渡り始めました。」


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