タイターン4
何がなんだかよく分からないけど、エデルガルナさんがめちゃくちゃ仕事をこなしてくれるようになった。
エデルガルナさんが仕事をこなしてくれるようになったもんだから、リコとヤミンは仕事が材料の運び込みや廃棄なんかの雑用をこなした後はやることがない。二人とも午前早々に仕事が無くなって魔法の訓練に向かっている。
いいなあ。
俺もエデルガルナさんに仕事を任せて魔法の訓練を・・・と思ったのだが、そうはいかなかった。
流れはこう。
「大きな建築にはロボが必要なのだ。」最初にメルローが言い出した。
「ゴーレムの専門家はワシじゃ!」エデルガルナさんがつれてきたドワーフの一人が前のめりに叫びながら手を上げた。
「これこれこういうロボが必要なんだよ。」メルローはそのドワーフに説明をした。
「でかいのう。さすがにそれは一人じゃきつい。計算ができて体力のあるって協力してくれるやつが必要じゃの。」
「わたくしは足場まわりのお手伝いで手一杯です。」エデルガルナさんがメガネをクイッとさせた。
「計算ならケーゴが得意らしいよ。」と、ここでヤミンが余計な事を言った。
「おお、冒険者の坊主か。丁度いい。お前らのための機械なんだから手伝え。」
依頼したのは俺たちだけど、あなた達のための機械だってことを未だに誰も理解してませんね?
と、こんな経緯で、俺、ゴーレムの専門家に弟子入りして、ゴーレムづくりに強力することになった。
訓練はまだ先かぁ・・・。
仕事が始まってみると、俺はゴーレム作成の助手として思いのほか適性があったようだ。
数学は前世の知識で余裕だったし、前世の機械に関する知識が何となく役に立つ上に、【ゼロコンマ】で【ゴーレム作成】の微妙なレベルの上がり方を見ながら組み立てたてることで、上手い組み立て方をカンニングできる。
そんな感じで上手いことやってたら、ゴーレムづくりの親方に完全に見込まれてしまった。
親方は良い弟子を持ったとばかりに、メルローの言ってたのよりもゴーレムを高性能化し始めて、仕事量爆増。寝る暇もない。
仕様通り作りやがれ。
俺が完全にゴーレム作成に張り付いてしまったので、エデルガルナさんは一人で人材の管理をする羽目になり、あっちへ行ったりこっちへ行ったり大変だ。
「ごめんなさい、エデルガルナさん。俺がもうちょっと上手くやれば良かったのですが。」
なぜ、俺は完璧に仕事をこなそうとなどしてしまったのか。
「構いませんよ。ケーゴ。」
「リコとヤミンがもう少し手伝えれば良かったんですが。」
「仕方ありません。交渉はわたくしの得意分野ですのでお任せてください。」
そう言った後、エデルガルナさんはメガネをクイッとして俺を睨んだ。
「それよりケーゴ、わたくしの事はルナと呼んでください。せっかく同期なのですから。」
同期?
なんの?
さて、大砲の作成は順調に進んだ。
ルスリーによれば、モンスター襲撃イベントの開始は雪が降る時期とのことだ。
まだ、夏も終わりくらいだから、いくら北の山間とは言え、初雪にはまだ2月くらいの猶予があるだろう。
このペースだと、検収不可でも作り直してもらうくらいの余裕はありそうだ。
俺もゴーレム作成の専門家に師事して、ゴーレムづくりに勤しむ。
そして、3日目。
ようやく巨大ゴーレムが完成を迎える。
「ルナ! 土属性ゴーレムに魔力を注入できる魔術師を呼んできてくれないか。」巨大なゴーレムの汚れを落としながら、俺は通りがかったルナに声をかけた。
「はい。どのような方がよろしいですか?」
「すみません、親方。魔力供給量にどんな人を連れてくればいいですか!」
「6式ゴーレムに魔力を供給できるような奴をつれてきてくれ。」
最終チェックでゴーレムのネジの締め付けトルクを魔導スパナでひとつひとつ確認していた親方がゴーレムの足の下から大声で答えた。
「だって。」
「わかりました。任せてください。」ルナはメガネをクイッとさせるとつかつかと出ていった。
親方が最終チェックを終え、ついに二階ほどの背の高さがあるゴーレムが完成した。
後は動作確認だけだ。
これが動けば、ようやく俺はお役御免だ。
【ゴーレム器作成(グリムマギカ製)】なんてレアなスキルが1レベルまで成長してしまった。
この3日で大砲開発の状況も変わった。
ここに来れば自分の技術が自慢できると噂になったらしく、ドワーフやエルフたちが自分の技術が必要無いかと売り込みにやって来るようになった。
彼らは今も出番を待つかのように防爆室に居座って、他の技術者たちと車座になって話し合っている。
「なるほど、固いほうが細かく細工しやすいかもしれん。」
「ここまで細かくするともっと魔導式を編み込めますね。そちらが望めばもっと砲身を強化できますよ? 供給される魔力の仕様をください。」
「魔導式を編み込むためには魔力供給が足りんな。」
「魔導供給なら任せろ、良い方法を知っとる。ただ、熱が心配だな。」
「放熱の良い鉱石と組み合わせて合金を開発したら使ってくれるかの?」
「合金を作るということは、土属性の魔術師が必要ということでしょうか。仕様を出してください。」
さすがスペシャリスト集団。
自分の得意分野が関与するとなると勝手に話しが回っていく。
「魔力供給者をつれてまいりました。」
エデルガルナさんが一人のエルフを連れて戻ってきた。
って、魔術本部長のフーディニアスじゃん。
「このゴーレムに魔力を供給してくれ。土属性で、魔法は発現させんでいい。」親方は丁寧さのかけらもなくフーディニアスに言った。
「魔力の供給量は?」
「お主が可能な限りガツンと入れてしまっていい。」
「雑な仕様だ。」
そう言いながらも、フーディニアスはゴーレムの魔力供給パネルに右手を当てて集中し魔力を込める。
フーディニアスの魔力供給が終わると、ゴーレムの目がミュンと光った。
おお!
「行くぞ! タイターン4!」親方がゴーレムに命令する。
そんな名前だったんか。
「ぐるっと回わって、そこの箱を持ち上げてくれ。」
ゴーレムは動きを確認するようにぐるりと回れ右してから、箱をかかげ上げた。
すごい!
自分が作ったものが動いてるのってなんか楽しい。
何か感無量!
ものづくりっておもしれぇな!
「ケーゴ。どうだ。」
「はい、なんかすごい嬉しいです。」
「これがゴーレムづくりってもんよ。」
親方と二人並んで、箱を持ち上げて止まっているゴーレムを見上げて満足する。
「完成したんなら、底面に彫り込みしたいから、砲身を持ち上げて支えててくれない?」満足そうにタイターン4を見上げている俺たちを見て、メルローが親方に頼んだ。
「自分で命令せい。お前の言うこともきくぞ。」親方が答える。
メルローはタイターン4に声をかけて、操作し始める。
タイターン4はメルローの命令通りに、作成途中の砲身を抱え上げた。
いいなあ。俺も動かしてみたい。
「じゃ、俺の出番は終わりだな。出来上がったら呼んでくれ。じゃ。」
親方はメルローと俺に片手を上げて挨拶すると、そそくさとこの場を後にし始めた。
さすがスペシャリスト、見切りも速い。
「お疲れ様っす!」
去りゆく親方に頭を下げる。
ようやくこれで、俺も手が空きそうだ。
この場はルナに任せて、ちょっと空き時間を作らせてもらおう。
これでようやく俺も訓練ができるぜ!
「ケーゴ! 大変! すごいよ!」
防爆室の扉を出ていく親方と入れ替わるように、リコが防爆室に駆け込んできた。
何やら嬉しそうだ。
「どうしたの?」
「外! 夏なのに雪が降ってる!」
まだ夏も終わっていないこの日。
季節外れの雪がクリムマギカの山麓に降り始めた。




