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技術フェロー

「おはよう、諸君。」


 朝食。

 食堂のテーブル。

 先に朝食を囲んできた俺たちの所に、礼服に着替えたエデルガルナさんが遅れてやってきて、挨拶してきた。


「おはよう、ルナちゃん。」

「おはよっ! ルナルナ。」


「・・・・。」

 朝のことがあった俺、二人の対応についていけない。


「ケーゴ殿、どうした?」エデルガルナさんが俺の顔を心配そうな目で見る。


 『ケーゴ殿』

 完全に戻ってる・・・。


「ええと、朝のあれは一体・・・?」

「ああ、朝はすまなかった。日が見えぬと方角が分からずよく迷うのだ。」


 そこじゃねえよ。


 え、でも、じゃあ、なにか?

 朝のあの可憐な女の子はやっぱエデルガルナさんだったってこと?

 服装も、髪型も、姿勢も、顔つきも、声も違うんですが?

 朝に弱いとかだろうか?

 いや、弱くてもああはならん。


 俺、混乱したまま朝食。


 リコとヤミンは何事もなかったようにエデルガルナさんと接している。

 朝の状況を知らない御者のヘイワーズさんは微塵も違和感を感じている様子がない。


 仕方ない。

 朝食に集中してすべてを忘れ去ろう。

 うん、それがいい。


 朝もまたハムだったが、今朝の選択肢はチキンとフィッシュだった。

 フィッシュが現れた時点でこれがハムなのか怪しくなってきた。

 ちなみにフィッシュは美味しくない。プリプリ食感のサバ味だ。魚肉ソーセージとも違う。脳が受け付けん。


「今日は何をするんだったっけ。」

 ヤミンがエデルガルナさんに訊ねた。

「今日はこの街の偉い人たちにアポを取って、装置を作ってくれるようにお願いしないといけない。」エデルガルナさんに答える様子がなかったので俺が代わりに教える。


「偉い人、協力してくれるかな?」

「王女からの依頼だし、街が襲われるかもしれないと分かれば協力してくれるんじゃないかな?」


 たぶん。

 でも、カリストレムの時も重いリアカー引いて苦労したからなぁ。

 簡単にはいかない予感。


「水、飲みたい。」

 ヤミンが突然言い出した。


 ヤミンの前にはコップがない。

 俺もヤミンも朝から酒は嫌なので、飲み物は貰ってきていない。

 リコは平然と飲んでる。


「魔術サイドのほうにも食堂ないかな? そっちに水があるかも。」ヤミンが言った。「貰いに行かない?」

「たしかに、これから偉い人に会いにいくってのに朝から酒ってのも良くないかもしれない。」俺も同意。

 リコがこっそりとグラスをテーブルに置いた。

「あまり気にしてもしょうがあるまい。」

 エデルガルナさんが、クイッとグラスを空けた。

 

 えっ!?


「ルナちゃんお酒飲んで大丈夫なの?」


 と、リコも気づいた瞬間、

 エデルガルナさんがまたぶっ倒れた。


「ルナちゃん!」


 ・・・なんでまた飲んだんだ、この人。




 昨晩と同じようにエデルガルナさんを部屋に運んだあと、ヘイワーズさんに看病を任せ、ヤミンとリコと一緒に技術の偉い人と魔術の偉い人に会いに向かう。


 まずは、技術フェローからだ。


 昨日、エルフの人に教えてもらった場所へ行くも、彼の言っていたとおりフェロー室に偉い人はおらず、散々色々なところをたらい回しにされて、鉱山でつるはしを振るっているディグドというの名のドワーフにたどり着いた。


「こんにちは。」

「なんじゃい!」

 技術フェローのディグドははこちらを振り返ることすらせずに尋ねてきた。つるはしを振るうのを止めようともしない。

「なんの鉱石が欲しいんじゃ?」

「私はケーゴと申します。王都からの命令を受けてこの街にやって来ました。この街にモンスターが来襲するそうです。」

 俺はつるはしの音に負けないように大声で目的を告げる。

「あっそ。」


 あっそ?


「鉱石関係じゃないんなら、他の人に頼んでくれ。」

「はあ。」

「じゃあ。」


 じゃあ?


「そのうちこの街にモンスターが攻めてくるんですけど!」

 ディグドのまるで関心の無い返事に、さらに声が大きくなる。

「モンスターはワシの専門じゃない。」

「一応、王女からの下命ですよ。王都の命令ですよ?」

「だからなんじゃい。」


 ここって、王立の魔術研究所ちゃうん? 予算とかもらってるんじゃないの?

 技術関係は別部署なの? 縦割りなの?


「えーと、ディグドさんはこの街の技術部門の一番の偉い人なんですよね?」

「そうじゃ! 鉱石に関することで俺の右に出るものはおらん。」

「あ、いや、そういうのではなくて技術者の取りまとめなんじゃないですか?」

「それは騙されたんだ。」

「騙された?」

「技術の最高峰の役職だと騙されたんじゃい。関係のない会議だのなんだの色々やらされとる。ワシはもう十分雑用はやったぞ。そういうのは別のやつに頼んでくれ。」

「雑用って! この街にモンスターが襲ってくるんですよ?」

「しらんがな。」

 ドワーフはムッツリとむくれた様子で鉱石掘りに集中し始めた。つるはしを振るう手により一層力がこもっている。

「ディグドさん、このままじゃ街が滅んじゃうかもしれないんですよ。」

「・・・・。」

「ディグドさん?」

「・・・・。」

 もう聞いてくれない感じだ。

「怒らせちゃったんじゃないの?」リコが俺に耳打ちする。

 そうかも知れない。


 しまったなぁ。

 出だしからつまずいた・・・。


「し、しかたない、魔術サイドに行ってみよう。」


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