ドワーフ
俺たちは人が二人並んで通れるかどうかくらいの狭い洞窟を進んでいく。幸い両壁に松明が置かれていて明るい。
「ねえ、ケーゴ! この松明熱くない。」リコが俺の肩をつつく。
「ホントだ。」の声を上げた。
松明に手を近づけるも本当に全く熱くない。
「魔法の炎みたいだよ?」ヤミンも手で炎を触ろうとしながら驚きを口にした。
エデルガルナさんにこれがどういう仕組みか訊こうと口を開いたが、ヤミンと同じように手のひらを炎の上で行ったり来たりさせてたので訊くのをやめた。
松明で照らされた細い道をしばらく進むと幾つかの分かれ道に到達した。
ここの3方向の道は今ままでとは異なり、掘り抜いた坑道といった様相ではなく、きちんとした通路として整備されている。
最初の交差点分かれ道から3方向の先を見る。
そこまで明るいわけではないので先までは見通せないが、4、5メートル間隔の部屋がブロック状に並んでいる区画のようだ。
てか、3方とも似たような風景なんですけど。
宿屋どっちやねん。
なんとなく右に曲がって最初の扉を見る。
特に看板のようなものは出てない。
ダンジョンのような雰囲気に宿が本当にあるのか懸念される。
「看板とかは出てないみたいだ。」
近場の扉を見に行くも看板も表札も出ていない。
「こっちにもないみたい。」
リコとヤミンが反対側の扉を見に行って叫んできた。
これ、どうやって宿探したらいいんだ?
あのエルフ、不親切にも程がある。
「なんじゃ、騒がしいのう。」
「あ! 誰か出てきた!」ヤミンが俺のいる通路の先のほうを指さした。
振り返ってヤミンの指差す方向を見る。
小さな人影が扉からのっそりと出てきた。
ずんぐりむっくりとした、背の低いおっさんだった。
立派なあごひげが蓄えられている。
ドワーフだ。
「人族か。今日は何をやらかした?」ドワーフは俺たちに話しかけてきた。
「え? いや、宿を探してるんですが。」
「宿?」ドワーフは意味が分からないといった様子で尋ね返してきた。
「あ、はい。宿です。」
「・・・お前らもしかして旅人か?」
「旅人というか、今この街につきました。」
「そりゃまた酔狂な。どおりで人間なわけだ。」
ドワーフはなんか勝手に納得し始めた。
「今日の宿を探してるんですが。」
「宿だあ? そんなもん無いぞ?」
「えっ!? でもさっきエルフの方がこっちにって・・・。」
「魔術サイドの奴らめ・・・。」
「魔術サイド?」聞き慣れない言葉にエデルガルナさんが反応した。
「そうじゃ、魔術は反対側の区画、こっちは技術サイドじゃ。」
「技術サイド・・・。」エデルガルナさんは何故かがっかりしたようにドワーフの言葉を繰り返した。
「くされエルフ共、面倒事をこっちに押し付けおったな。」
面倒事本人を目の前に言わんでくれ。
「ともかく、宿なんてこの街にはない。」ドワーフが改めて宣告した。
「どうしよう?」リコが俺を見る。
「今まで、この街に来た人たちはどうしてたんです?」
「そういや、物資配達の人間はどうしてたかのう? ちょっと待っとれ、そういうのはホルスが詳しかったはずだ。」
そう言って、ドワーフの人は俺たちを横切って通路を進み始めた。
3区画ほど進むと、彼はそこにあった扉をノックしてから開けた。
「ホルスよ、旅人が来たんじゃが、ここに泊まるときはどうすればいい?」
ドワーフが部屋の中に向かって声をかける。
「なんじゃあ、エボーグよ。藪から棒に。」
もうひとりドワーフが出てきた。
「おや、人間じゃないか。珍しい。」
「お前、グラルじゃないか。ホルスの部屋で何しとる。」
「アホいえ、ホルスの部屋はもう2つ向うじゃ。ここはわしの部屋じゃ。」
おい。
部屋間違えてるやんけ。
「まあ、お前でいい。コイツらがこの街に泊まりたいなんていっとるのだが、どうすりゃいい? 配達の奴らはどうしてたかのう?」
「たしか、東の奥の区画が空き部屋ばっかりだったはずじゃ。そこを使ったらいいんじゃないか?」
「なるほど。」エボーグって呼ばれたドワーフが俺たちを振り返った。「そうしろ。」
「ええっ。勝手に使っちゃっていいんですか?」
「別に構わんだろ。」
ホントに大丈夫か?
「馬車も停めたいんですが。」
「馬車? そんなもん街の入り口んとこにでも停めとけ。」
「その、繋ぐ場所もないし、馬が休める場所でもないので馬屋的なところがあるといいんですが・・・。」
「なんぞ、めんどくさいのう。後で作っといてやるから広場で我慢せい。」
「はぁ。」
作る?
「そろそろ、いいか? 工房に行く準備をしたいんだが。」部屋から出てきたドワーフがエボーグに言った。
「おう、グラル。悪かったな。」
最初のドワーフがそう言って片手を上げて振ると、二人目のドワーフは部屋の中に引っ込んでいった。」
「用が済んだのなら、ワシも行くぞ?」
「ちょっと待って! もう一つ。ご飯が食べれるところってありますか?」
宿が無いとなると、食事にありつけんかもしれない。
「ああ、そこの十字路の真ん中の通路を進んでいった突き当りに食堂がある。そこで食わしてもらえ。他に何かあるか?」
「いえ、ありがとうございました。」
「うむ、じゃあの。馬小屋は任せておけ。」
そう言って、ドワーフの人は自分の部屋へと戻っていった。




