アアル王国王女 ルスリー
観光が終わり、リコとヤミンは繁華街の手前で降ろされた。
俺との合流場所と帰宅時間がエデルガルナさんから示されたので二人共安心したようだ。
俺もちょっと安心した。
「宿とっとくね。」
「お願いします。」
金のない俺、いまだリコのヒモ状態。
人混みに嬉しそうに消えていく二人を見送った後、俺はひとり王女の所にドナドナされていく。
馬車は王城には向かわず、城の近くにある立派な建物に止まった。
ここ知ってる。魔術研究所、兼、王立図書館だ。
アルファンで魔法を極めようとすると必ずここにお世話になる。この世界の魔法の粋がここに集まっている。
こんな所に王女が居るのだろうか?
エデルガルナさんは人通りまばらな施設の中へと俺を案内する。
入った先は魔術研究所っぽくなく、図書館としての機能の場所のようだ。
吹抜10メートルくらいある高い天井の通路の両脇には本がはるか上まで並んでいる。
通路と言うか高い本棚の間を進んでいるのだろう。
初めて乗る魔導エレベーターを使って、図書館ゾーンの最上階まで到達する。
最上階には本の並んでいない普通の廊下が伸びていて、幾つかの扉が並んでいた。
エデルガルナさんは俺を連れて通路を進んでいき、突き当りの小さなの扉をノックした。
「失礼いたします。エデルガルナにございます。冒険者ケーゴを連れてまいりました。」
「入れ。」
中から女の子の高い声が聞こえてきた。
エデルガルナさんが扉を明けて俺を中に通す。
そこは貴賓室のような場所で、アンティークの机や家具が幾つも置かれていた。
家具はどれもけして派手なものではなく、落ち着いた喫茶店のようなセンスのよい雰囲気を作っていた。
そして、部屋の奥の年代物のソファーに10歳位の金髪の少女が寝転んで本を読んでいた。
金髪碧眼の人形のような少女。
この古風なセンスの部屋に物語のように溶け込んでいる。
エデルガルナさんが膝をついて頭を下げたので、慌てて俺もそれに習う。
「ケーゴよ。楽にして良い。エデルガルナも大儀であった。」
王女がこちらを向いて身を起こした。
「はっ。なにかありましたらお声がけください。」
エデルガルナさんは再び一礼すると、俺を残して部屋から出ていってしまった。
良いんか?
俺と王女しかおらんぞ?
「よくぞ、参った。吾輩がルスリー=グラディス=アアルだ。」
アルファンのワガママ姫だ。
ゲームでは何度か会った。
悪い子ではないが、機嫌を損ねられるとめんどくさい。王女だし権力もある。
「この度は王都にお招きいただきありがたく存じます。王女殿下におきましてはご機嫌麗しゅう。」
俺はひざまづいたまま、かしこまって頭を下げる。
下手にいって、この場を無難にやり過ごそう。
「固い挨拶は良い。お前に確かめたいことがあってここに呼びつけた。」
「確かめたいこと?」
「先のカリストレム攻防において、お前は色々な所に救援を要請したのう。」
そう言うと、王女は指折り数えながら俺がカリストレムから出した手紙の宛先を口にし始めた。
「王城、王立騎士団、魔術研究所、ウェルフェイン公爵。一介の冒険者が随分と身の程知らずの所に手紙を出したものだのう。」
そのことか。
「そ、その・・・必死でしたので。」
「王城や騎士団へつながる宛先をどうやって調べた?」
「ええと・・・その・・・。」
やべえ。
なんて言おう。
「なんだって、ウェルフェイン公爵にまで手紙を出した?」
王女は、俺が答えるのを待たずに矢継ぎ早に問い詰めてくる。
言い訳を熟考する暇を与えてくれない。
「ウェルフェイン公爵は冒険者に優しい方だと耳にしたことがあったもので。」
王女の質問を遮るために、無理やり適当な言い訳を挟み込む。
「田舎の冒険者がどうやってそんなことを知った。」
「そ、それは旅の商人から・・・。」
「どいつじゃ、そんなことを吹聴して回っているのは!」
王女はソファーから立ち上がって、ひざまずいている俺を問い詰めるかのように見下ろした。
「え、あ、その・・・そこまでは・・・。」
「どうして公爵の宛先まで知っている? まさかその旅の商人が教えてくれた訳であるまいな?」
「・・・・。」
やばい。
なんか考えないと。
「と、とある配達人さんの荷物をちらりと見たのを憶えていたのでございます。」
無理くりな言い訳をひねり出す。
「随分と物覚えが良いものだな。」
「それだけが取り柄でして・・・。」
冷や汗がやばい。
「お前が公爵宛と思って書いた届け先だがな、だいぶ前からワシの邸宅になっておる。ワガママ言って譲ってもらった。だから、お前が見たのは私宛の手紙だったはずだ。なぜ、ウェルフェインの名を書いた?」
「そ、それは・・・。」
アルファンとちがう!
「この場所にも手紙を書いたな? 何故だ? ここなら力になってくれるとでも思ったのか?」
王女が質問の切り口を変えてきた。
「ここでしたら、もしかしたら偉い魔法使い様がいるのではないかと思いまして・・・。」しどろもどろに答える。
「ここはまだ魔術研究所ではないぞ。ただの王立図書館だ。お前は図書館なんぞに魔法の支援を願うのか?」
「!?」
またアルファンと違う!
「確かに、ここを魔術研究所にしようという計画が無いわけではない。だが、そのことをお前は何故知っている!」
くそ!
そんなん想定外のさらに外だよ。
顔中から冷たい汗が吹き出てくるのが分かる。
「答えよ! お主はいったい何者だ?」
もう一度王女が強い口調で問い詰めてくる。
「・・・・。」
ダメだ。
良い言い訳が思いつかん。
ここに来て、王女は矢継ぎ早の質問を止め、俺が答えるのを待ち始めた。
「・・・・。」
ええい、こうなりゃ破れかぶれだ。
全部ホントのこと話してみるか。
信じちゃ貰えないだろうけど。
「ええと、その、信じては貰えないかもしれないですが・・・俺はこの世界とは別の世界から飛ばされてきた人間なのです。」
「じゃよな。」
「じゃよな!?」




