カリストレム攻防7
イベントボス二匹か!!
くそ、騎士の手が空いてない!
北門の衛兵だけで押し止められるか?
10メートル超えの巨大ムカデは波打つように足を波打たせて、防壁を乗り越えて街に乗り込もうとする。
防壁がちょっとした障害物にしかなってない。
「ちくしょう、攻撃が聞かねえ!!」ムカデを迎え撃った門番たちが悲鳴を上げる。
防壁に張り付いたムカデは、北門の兵士たちの攻撃をものともしない。
ここからでもカンカンという音が聞こえてきそうなほど、兵士たちの攻撃が効いてない。
防壁に頭だけを張り付けて街の中を覗いていたムカデは、兵士たちは障害にならないと判断したのか、一気に城壁を越え始めた。
ムカデの突進に北門の上の兵士たちが跳ね飛ばされる。
皆が唖然と北門を見る。
今まさにムカデが防壁を乗り越えた。
その瞬間、ニキラさんが防壁の上を乗り越えようとしているムカデの背中に巨大な斧を振り下ろした。
が、硬い外皮に弾き飛ばされて、ムカデの向こう側に消えていく。
こいつ、イベントボスってレベルじゃねえぞ?
ムカデはそのまま壁を乗り越え、街の中に侵入する。
くそ!
あんなのに好き勝手に暴れられたら大惨事だ!
壁の内側で俺たちの後方支援をしてくれていた市民たちが我先にと逃げ惑う。
逃げ惑う人々をムカデがなぎ払い、倒れた一人に噛みついた。
断末魔が響く。
「誰か、ここを頼む!」
俺は戦線を放棄し、鞭を使って街へ転がり降りる。
街中にあれと戦える人はいない。
誰かが降りてくるまでの間だけでも足止めしないと!
無我夢中でムカデに走り寄ると後ろから鞭で狙う。
ニキラさんの攻撃ですら、有効なダメージは入らなかったんだ。俺の攻撃じゃ、普通に当たっても気づかれすらしないのは分かっている。
ステータスシートを開く。
頼むぜ【ゼロコンマ】先生!!
「【乱舞】!!」
俺は鞭をがむしゃらに振るう。
ダメージを出したいわけじゃない。
手数がほしい。
狙いも定めず相手の尻尾にひたすらに攻撃を叩きこむ。
あった!
【クリティカル】0.00049781レベル上昇!
まずはここ!
「【牙突】!」
【乱舞】が命中した中で最も【クリティカル】のレベルの上昇が高かった場所に俺の最大攻撃力である突き技を叩き込む。
ここが他よりも弱いはずだ!
確かな手応え。
ムカデがバタバタと暴れ、こっちを振り向いた。
巨大ムカデが頭を上げ、はるか頭上から俺を見下ろす。
前のムカデと同じなら頭のあたりにでっかい弱点があるはずだ・・・が、駄目だ。
頭の位置が高すぎる。俺の鞭では届かない。
なら、もう一度。
「【乱舞】!」
【ゼロコンマ】で弱そうなところを突き止める。
脇腹のその一点を狙いすまして攻撃。
ムカデが再び咆哮を上げるかのように上体をそらした。
この巨体だ。ちょっと痛いだけでダメージなんてたいして入ってないのなんてもちろん承知。
来る。
上から叩きつけるような範囲攻撃!
大きく後ろに飛んで間一髪を転がって避ける。
ムカデの頭が下がった。
【乱舞】の暇はない。
多分ここ!
前回、おっきな弱点のあった場所。
「【牙突】!」
ムカデの頭にたくさんある目っぽい突起の一番上部を狙う。
僅かな手応え。
もしかしてダメージ入ったのか?
ムカデがのたうつ。
効いてる!
素早く、鞭を引き抜いて距離を取ろうとする。
が、
それより速くムカデの攻撃。
まずい。
体を振り回して、薙ぎ払って来た!
避け場がない!
「【ガード】!」
その瞬間、聞き慣れた声が響き、迫ってくるムカデの胴体と俺の間に駆けつけて来た援護が割り込んできた。
なびく、茶色の後ろ髪。
一瞬の後ろ姿でも絶対に見間違えることはない。
リコ。
駄目だ!
やめろ!
それは、君が受けきれるやつじゃない!!
「【ガード】」
もう一度声が響いた。
ムカデの攻撃はリコの寸前で止まった。
リコの目の前には、ジェット噴射全開でムカデの巨体を止めている騎士がいた。
「リコ!離れて!」
俺はリコの首根っこを掴んで慌ててムカデの攻撃範囲から離れる。
騎士は俺たちが離れたのを察したのか、ジェットで飛び上がる。
支えを失ったムカデの体が辺りの家をなぎ倒す。
「頭! 目のあたりが弱点!!」
俺は騎士に向かって叫ぶ。
「わかりました! ありがとう!」
騎士はそう叫ぶと、二本の剣を上段で構えた。
「【大絶斬】」
戦士系のブッパ技だ!!
命中度外視の最大火力攻撃がムカデの胴体を真っ二つにした。
弱点関係ねぇ・・・。
騎士は個別にのたうっている上半身と下半身に更に【大絶斬】を連発して作業のように息の根を止めていく。
やがて、イベントボスは動かなくなった。
俺はこっそり、このイベントの勝利を確信した。




