カリストレム攻防2
教会ではバルザック司祭と高位の神官たちが筒状の装置を囲んでいた。
神官たちの中心にある空を向いた筒には細かい文様が刻まれていて、うっすらと蒸気が上がっている。
彼らが囲んでいるのは聖魔光機と呼ばれる魔導機だ。レイドボスが現れた時のなどのための超魔導攻撃装置である。
「はぁっはっは!見たか! これがラミトス様の力だ!」
バルザック司祭が高笑いしている。
彼と神官たちはたった今聖魔光機を起動し、聖なる光によって街の外のモンスターたちをなぎ払ったところだ。
その代わり大量の魔導力を消費し、神官たちは肩で息をしている。
「何が! 何が神託か! 小僧の戯言など所詮街を惑わせただけの世間へのねい言! ラミトス様の真の威光を抱くことができるのは、清く、高貴で、常にラミトス様のために努力してきた我々だ。地べたを這いずりまわって舐め回すことを努力と宣うハエ共とは違うのだ! はっはっはっ!」
司祭は高笑いをしながら声をさらに大きくした。
「さあ、次弾準備しなさい! ラミトス様の真の使徒である我々の威光を皆に示すのです!」
「お待ちください、司祭様。魔力が切れています。」
「情けない、もう疲れたのですか! 日々の精進が足りませんよ。」
「違うのです、司祭。 魔導砲への魔導力の供給が切れているのです。」
「魔導力? 街の魔石窟からの供給のことか。街の魔石が切れたとでも言うのか?」
「よくわかりませんが、街から教会への魔導力の供給が全部切れています。」
「なんだと? パイプラインのどこかが故障したとでもいうのか? こんな時に! この街の連中はインフラの整備もできんのか。使えん市長だ。市長に連絡して、教会への魔導力や魔石の供給を優先してもらえ。ラミトス様のためだといえば解ってもらえようぞ。」
司祭がそう言った直後、教会の扉が勢いよく開かれ大声がとどろき渡った。
「バルザーーーック!」
「これはこれは市長。どうです、ご覧いただきましたか、神のお導きを。ちょうどよい所にまいられた、魔導力の供給に不具合が発生している様子ですぞ。至急、教会に魔力を回してください。」
「不具合じゃない! 私が止めたのだ!!」
「な、なんと愚かなことを。北門のモンスターを一瞬で焼き払ったのを見ておられたでしょう! 」
「アホか!! あんなのあと2発も撃ったら街の魔石が全部なくなるわ! あと神官のMPがもったいない!」
「何をおっしゃいますか。裁きの雷で倒した敵の魔石を回収してくればよろしい。」
「この状況で防壁の外に取りに行けるわけないだろうがっ!! それにどのみち足りん。そんなことも分からんのか!」
「そのくらい、我々の裁きの雷があればなんとでもなりますとも。」
なぜ、こんな奴を信じて、あの少年をないがしろにしてしまったのか。
ガラス市長は自分の見る目のなさに歯ぎしりをした。
「司祭を更迭しろ。」
市長は怒鳴りつけるように部下に命じた。
兵士たちが市長の後ろから出てきて司祭を取り囲むと、左右から羽交い締めにした。
司祭は驚いた顔で両脇の兵士を交互に振り返る。
「なっ! 何を!? 血迷ったかガラス市長。我々がどれだけ貴方や街に勧請してきたと思っておいでか!」
「お前こそ我々がどれだけ寄進してきたと思っているのだ。お前の言う裁きの雷も我々の寄付金で買った魔導機だろうが。」
市長は司祭にそう言うと、今度は兵士たちに向かって命じた。
「司祭は奥の部屋へお連れしろ、しばらくその中に軟禁して頭を冷やしてもらえ!」
バルザック司祭は目を皿のように開いて、市長と兵士に向けて大声を張り上げた。
「離せ、離せ!貴様ら! 神罰が落ちるぞ!」
もちろん兵士たちがそんな叫びを聴くわけがない。
神官たちは部屋の真ん中でわめき散らかす司祭を戸惑いながら見ている。
そんな神官たちに向けて市長が命令した。
「神官たちは街にでて負傷兵の回復をしてくれ! みんな君たちの援護を必要としている!」
「市長! どういうつもりだ! ラミトス様が黙ってはおらんぞ! 越権行為だ!!」
兵士たちに引きずられるように連行されながら司祭が喚き散らすが、もはやそこには威厳の欠片もない。」
神官たちは司祭が連れて行かれるのを戸惑いながら眺め、そして躊躇いながらも教会から街へと出ていった。
市長は扉の向うに運ばれていった司祭を見送りながら舌打ちした。
苦い顔でこの先の展開を考える。
おそらくは夜間通じて防衛戦だ。
今夜の明かりが持つだろうか・・・?
あのクソ司祭のせいで魔石が足りなくなるかもしれん。
今夜は明かりが持ったとしても、明日の日の高いうちにモンスターたちの襲撃が終わるのだろうか?
カリストレムの戦いの先行きの不安さに、市長の顔つきはますます暗くなった。




