不器用な魔術師と湧き場探し
二日後。
筋肉痛で寝込んでいたヤミンがようやく復帰した早々、ギルドから魔石が届いたとの連絡が来た。
ギルドに着くなり、俺は筋骨隆々のでっかいおっさんに睨まれた。2メートル近い恵まれた体格で背中に巨大な棍棒を担いでいる。
「お前がケーゴか?」
おっさんが上から俺を覗き込む。
「おい、脅すな。」ヴェリアルドが出てきたて俺を睨んでいるおっさんを「悪いな、コイツはカシムっていう。」
「あ、もしかして今日護衛してくれるんですか?」
「そ、そ。」ギルドからの依頼でな。「こいつと、あと神官戦士のダダウと重戦士のダダマルが今日は同行する。」
ヴェリアルドも様相から察するに剣士だろ? 前列偏重なパーティーだな。
「け。俺はやりたかねえんだよ、こんなん。」大男が鼻をならした。
「そう言うなって。わりいなケーゴ。お前らの護衛ってギルドからの案件だから報酬が少ないんだ。それですねちまってさ。」
「す、すみません。俺から報酬が払えればいいんですけど・・・。」
「いいって、金持ってないの知ってるから。」
「俺達だって金が余ってるわけじゃねえんだ。」カシムが不機嫌そうに言った。「お前の頼みだから仕方なくやってんだぞ。」
「ほんと、やめろって。すまねえなケーゴ。」
うへえ。上手くやれるか、ちょっと心配。
『お前の頼み』ってことは、ヴェリアルドはわざわざ俺らのためにこの仕事を受けてくれたのだろうか?
「おお! カシムとヴェリアルドだ!」
遅れて冒険者ギルドにやってきたヤミンが声を上げた。
「お久しぶりです。もしかして、今日、私達の護衛してくれるのってカシムさんたちですか?」
ヤミンに続いて入ってきたリコが訊ねた。
「そだよ。」ヴェリアルドが答えた。
「やったー。」リコが喜ぶ。
「今日はよろしく頼むなカシム!」
ヤミンが背伸びしてカシムの肩をペシペシと叩く。
嘘でしょ? カシムってそんな扱いの冒険者なの?
「・・・・・。」
カシム、めっちゃ眉間にしわ寄せてるんですけど?
これ絶対、女の子相手だから我慢してるやつ。
「クワッ!!」
カシムが怒りの眼差しで俺を睨んだ。
君らへの怒りがこっち来てるんですけど!!
俺たちは、ダダウ、ダダマルの兄弟がやってくるのを待って、ギルドを出る準備を始めた。
東のシャムール王国からやってきた浅黒い肌のこの兄弟はいい人そうだった。
この人達とは仲良くやっていけそうだ。
なのに、リコたちはカシムにばかり嬉しそうに絡んでいる。
何でぞ?
やっぱ筋肉か?
俺の視線に気づいたカシムがキッと俺を睨む。
怖えぇよ。女子には強く行けないからって俺に八つ当たりしないでくれよ。
あと、二人共、ほんと空気読めよ。
俺はギルドの前に用意された嫌な思い出しかないリアカーをチェックする。
スージーから納入された魔石のおかげで、魔石の籠が小さくなっている。ピクニックのバスケットみたいだ。これで20万分の魔石が入ってるらしい。そして、金額は銀貨10万だそうな。
これ、そうとう絶対ぼってるよな?
併せて、充魔器も二周りくらい小さくなった。
前回よりは楽になっていると信じたい。
でも今日もこの重い感知器は引いてかなきゃいけない。
カシムが引いてくれればなあ・・・。とチラ見するが表情から察するに無理だそうなあ。
やべ!
俺の視線に気がついたカシムが、胸板をペタペタと触るリコたちを振り切ってこっちにやってきた。
「す、すみません。」
思わず謝る俺を無視して、カシムがリアカーの上の荷物を触り始めた。
「これは・・・。」
そう言って、カシムは感知器をイジる。
「それは力場感知器です。重いですよ。」
カシムが片手で感知器を持ち上げた。
さすがマッチョ。
「流石に重いか。いざという時に投げ捨てれんしな。」
カシムは感知器をリアカーの上に戻すと、背中に背負っていた棍棒を目の前に構えた。
「【デクリーズウェイト】」
え?
魔法?
それ、杖なん?
あんた、魔法使いなん?
「軽くしておいた。レモンに言って大八車をひとサイズ小さくしてもらえ。」
カシムはそう言うと、今度は充魔器を持ち上げた。
それもそこそこ重いんですが?
「これは俺が持っていく。」
やだ。素敵。
「リコ、ヤミン、どっちか魔石の籠を持て。」
「はいさ!」ヤミンが急ぎ飛び出してくる。
「今日は、私これの係!」
この野郎。籠さえ持っていればリアカーを押さなくていいとか考えやがったな?
リアカーを小さいのに変えてもらって、俺たちは街を出発した。
カシムの魔法は物の重さを軽くするものだったようでリアカーがやたら軽い。
そのうえ充魔器まで持ってくれてる。
リコやヤミンがあんだけカシムに懐いてた理由が解った。
ヴェリアルドに続いて、なんてツンデレ。
一昨日調査を終えたところまでやすやすと戻ってくると、俺たちは一昨日やっていたように充魔器の表示を見ながら方向を定めていく。
「こっちです。」
俺は一番魔力の増大している方向を指し示した。
「ほんとに、方向はあってるんだろうな?」
カシムが怪しむように俺を睨む。
【ゼロコンマ】の説明はしたが、俺にしか小数点以下は見えてない。
「はい。こっちです。」
「まあ、新人狩りを見つけ出したスキルだ。信用しようぜ。」ヴェリアルドがフォローしてくれる。
それはこのスキルで見つけたわけじゃないけどな。
信用が増しそうだから黙ってよう。
「報酬はもう貰ってるし、ケーゴに任せていいだろ。」ダダウもカシムをなだめた。
「ふん!」カシムは不機嫌に鼻を鳴らした。
だけど、タイヤがやらかい地面にはまっちゃった時とか真っ先にリアカーを押してくれるのこの人なんだよなぁ。
態度と優しさが噛み合わない。
やがて、俺たちは大地の裂け目に到着。
一週間ぶりにきた荒廃した大地は相変わらず不気味だった。
深いクレバスが俺たちの行く手を遮っている。
ここからはモンスターに遭遇する可能性も高い。
「ケーゴ!」リコが声を上げた。「数値が上がった!」
皆がリコと一緒に感知器を覗き込む。
『1.40708589』
感知器の表示がついに整数の桁まで到達した。
「ケーゴ! 本当に突き止めたよ。すごい! すごい!」
リコが無邪気にはしゃぐ。
「これって、高いの?」
俺は尋ねる?
「よくわかんにゃい。」
ヤミンが答えて、ヴェリアルドたちを見た。
ヴェリアルドたちも困ったように首を横に振った。
「ここでゴールとは限らない。一番数値の高いところを突き止めて帰ろう。よくやった。」
カシムがそう言いながら俺の頭をわしっと掴んで乱暴に撫でた。




