司祭がうざい
アサル神との話が終わり、放置していた入れ物の身体に憑依するように、俺はラミトス神殿に戻って来た。
目を開けば、ラミトス神殿の祭壇の前で相変わらず跪いていた。
アサル神にエルナちゃんを探してくれとお願いされてしまった。
神が見つけられないもんをそんなすぐに見つけられるとも思わないが、俺としては是非とも彼女とは会いたい。
彼女は望んでこの世界に来たわけじゃない。
間違いなく、俺のせいだ。
お礼も謝罪もしたい。
もしも彼女が今、身を隠さにゃならんくらい辛い思いをしているのだとしたら、俺は何か贖罪をしなくちゃいけない。
どのみちいずれ俺は王都に向かうつもりだ。
エルナちゃんも生きているなら神の言う通りいずれ王都に来るだろう。
スキルをガン積みらしいしから優秀な冒険者になるはずだ。そうでなくても優秀な人間は王都に集まってくる。
俺が冒険者としてのランキングを登っていけばどこかでそのうち会えるだろう。
そのためにも、まず冒険者登録だな。
めっちゃ足がしびれてる。
立ち上がろうとすると足が痛くてフラフラする。
祭壇の上でよろめいていると、一人の司祭がゆっくりと俺のほうに近づいてきた。
「ずいぶんと熱心にお祈りされてらっしゃいましたね。」
「あ、すみません。」
「2時間以上もじっと神に語らいかけてらっしゃいましたよ。」
2時間!?
数分しか話しとらんぞ!?
気づけば辺りには何人もの信者が行きかいながら俺のことをチラチラと見ている。
「貴方は貧民で階位も持たない。身勝手に願うばかりではだめですよ。あなたより世のためを願う人たちはたくさんいるのです。」
なんか言い方ムカつくんですけど。
「あなたのようなかたは、まずは、自身がラミトス様のために敬虔に働かなくてはなりません。」
「いえ、願っていたとかではなく・・・。」
「おお、懺悔でしたか! それは素晴らしい!!」司祭は嬉しそうに声を上げた。
が、その後すぐに真面目な顔になって俺のことを見つめた・・・というか睨みつけた。
表情がニッコニコなのに目の奥が笑ってない。
「ですが、それもまた同じこと。階位も持たぬ信者までが直接神に懺悔されては、神の世が懺悔にあふれ、神がお困り遊ばせます。懺悔も祈りも、知者や敬虔な信徒やこの街を変える力のある者たちが優先されるべきなのです。それは情熱とは異なるのです。あなたのようご身分の方は今後は祭壇ではなく懺悔室へ参りなさい。」
いや、アサルに報告せにゃならんのですけど。
「そのための我々司祭なのです。我々が貧しき者たちに対する神の耳でり口なのです。あなたのような、若く、徳の満ちていない信者が神々の御心をそばだてないようにするのが我々の勤めなのです。」
「あ、いや、懺悔とかでもなくて・・・。」
「?」
司祭が不思議そうな顔で俺を睨む。
「その、神と少しばかりお話をしてました。」
「・・・・・・ははっは。」
司祭の口から乾いた笑いが漏れた。
「不遜極まりない。貴様のような下賤の流民がラミトス様を語るかね、小僧。」
話してたのはラミトスじゃないですとか言ったら火に油だろうなあ。
「貴様のような、汚らしい小僧が神託を受けるなどどいう事などありえない。子供向けに作られた啓発用の物語の読み過ぎだ。神を語らって自らを大きく見せようなどあってはならないことだよ。」
アンタの神かどうかは知らんが、神託っぽいのは受けてるんだが?
「失礼。少し、言葉が過ぎた。敬虔な信仰があればいずれは本当に神託は訪れよう。焦りめさるな。ただ、神に感謝し精進しなさい。街や教会にとって大事な人間となってからまたおいでなさい。」
司祭はそう言って俺に背を向けるとさっきまで祭壇で祈っていた、恰幅の良い貴族の元へと話しかけに向かった。
「まあ、所詮はボロ雑巾のような子供がどれだけ頑張ろうと大事な人間にはなれなかろうが。」
去り際の司祭がぼそりとそう呟いたのが聞こえた。
この街の司祭ヤベエな。
村の神父さんは良い人だったのに。
* * *
「冒険者ギルドに行っただぁ!?」ヤミンは思わず叫んだ。
「ああ、朝っぱら早々に、ギルドの場所聞いて出てったぞ? 登録のしかたも教えといた。」ニキラの返事にヤミンは頭を抱えた。
「ニキラさん、何でギルドの場所教えちゃうの!? 今、新人冒険者やばいんだよ?」
「別に、冒険者になるだけなら問題ないだろうよ。」
「そんなこと言っても、どうやって新人を狙ってるか分らないから防ぎようがないのよ。ギルドが情報を流してる可能性だってあり得るじゃない。」
「あるわけないね。ギルド舐めんな。」
「ギルドが噛んでなくても、ギルドにいる冒険者の誰かが関わってるかもしれないじゃない!」
「心配すんなって。あのケーゴとかいう奴、抜け目ないよ。あたしゃ冒険者も宿屋も長年やってきたんだ。所作みてるだけで分かる。アンタらよりかよっぽどしたたかさね。」
「あの人の良さそうなのが、したたかな訳ないでしょ! 」
「心配しすぎだって。落ち着け。」
「でもでも! あいつリコのいいひとなのよ? 」
「知らないよ。だからなんだってんだい。」
「私、探してくる! ニキラさん。もし、他に新しい人が来たら私の代わりに新人狩りのこと説明しといて!」
ヤミンはそう叫ぶと、くるりと回って出口に向かって駆け出した。
「ちょっと! ったく・・・。扉くらい閉めてきなよ。」
ニキラはそう言って扉を締めに向かうと、冒険者ギルドに通りを駆けて行くヤミンの後姿を眺めるのだった。




