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闘技会開始

 そろそろ日が沈む。

 あたりが少しづつ暗くなり、会場に祭りの提灯のように吊るされた魔導照明があたりを照らし始めた。


 いよいよ、闘技会が始まる。

 俺が村を出て行けるほど強くなっていることをスージーに見てもらわにゃならん。


 スタッフの誘導で広場の真ん中が試合会場として広く開けられた。

 村人たちが本日のイベントである闘技会を見ようと会場の周りを取り囲んでいる。

 広場の中央には中年のドワーフ、審判のガスが立っていた。

 ドワーフなので中年と言っても実年齢はもっと上かもしれない。

 あまり娯楽の無いこの辺りの人にとって、この手のイベントは小さくても大きな楽しみだ。

 100人以上が俺たちの戦いを見ようと集まって来ている。

 ちなみに、闘技会の後には演劇も催されるらしいので集客は抜群だ。


「さて、本大会の一回戦は、ロカ対ケーゴ。両者とも会場の真ん中に出てきなさい。」審判のガスが大声を上げた。


 俺は会場を囲んでいる村人たちの輪を割ってガスの前まで進み出た。


「ケーゴ、今年も泣きべそかくのか?」

「なんだってまた出てきたんだろうねぇ。」

「最初くらい、ワクワクする試合がみたかったんだけどなあ。」

 村人たちが口々に俺のことをはやし立てる。


 が、全員が敵って訳でもない。


「ケーゴ~、頑張れ~。」

 マディソン商店の姉さんたちだ。

 ありがとうございます!!


 次いで対戦相手のロカがマッゾたちを含む村の若者たちの集団に手を振りながらのんびりと現れた。


「手加減いらねえぞ!」

「ボコボコにしてやれ。」

「幾ら初出場だからってケーゴなんかに負けたら恥だぞ!」

 マッゾたちがロカに向けてヤジとも声援ともつかない声を飛ばす。


「二人とも今回は一本入ったら、終わりだからね。」ヤジを聞いたガスが危険だと思ったのか俺とロカに釘を差した。


 去年、リコが起こした惨劇を忘れてはならない。

 命懸けで食い下がった俺も悪いけど。


 俺はロカと向き合う。

 ロカはニヤニヤと俺を見ている。


「ニセ剣聖くん、君が去年リコにボコボコにされて泣きながら運ばれてったのを見てたよ? 今年はもう出てこないかと思ってたけど。君はスキルがないのバレちゃったのにまだ頑張るんだね~。えらい、えらい。諦めないで頑張るのは良いことだよ。」


 お前、年下やろ?

 人の恥ずかしい過去を抉ってくるなや。


「で? スキルは手に入ったのかな?」

 そう言って、ロカはくすくすと笑った。


 村の噂だと俺はスライムを殴打してマウント取ってる可哀そうな奴で、しかも、何発スライムを叩いても倒せないほど弱いってことになってる。

 ロカが勘違いしちゃうのもしょうがない。


 たかだか村人の攻撃程度が【回避】9レベルに当たると思うなよ?

 回避だけなら街でも通用する冒険者のレベルだぜ?


「試合が始まれば分かるよ。」

 俺はそう言って不敵に笑い返す。

「ニセ剣聖君、キミ、生意気だね。」

 お前年下やろ。


「準備はいいか?」

 俺たちのどうでもいい言葉の小競り合いを静して、ガスが試合の開始の準備をするよう促した。

「ハイ。」

 俺はそう言って木刀を構えた。

 ロカもニヤニヤと笑いながら木刀を構えた。


「それでは、第一試合。はじめっ!」


 ガスの大声が飛ぶ。


 ロカはすぐにはかかってこない。


 すぐ終われせてはつまらないとでも思っているのだろう。

 カツン、カツンと嫌がらせのように俺の木刀の先を叩いてくる。


 木刀が弾かれるたびに構えを戻しながら俺はこっそり自分のステータスを開いた。


 なんせスライム以外で【回避】を上げられるチャンスだ!


「よそ見すんなよ!」

 と、急に駆け出してきたロカが大振りで俺の頭をぶっ飛ばしに来た。


 ヒョイっとかわす。


「おお? 意外とやるじゃん。」

 今度はロカが振り返りざまに横に薙いできたので、バックステップでかわす。


「ちっ! ケーゴごときが避けるなよっ!」

 二回かわされて、ちょっとムキになったのか、ロカは躊躇することなく木刀を振り回し始めた。


 うーん。

 思ったより【回避】の上りが悪い。

 スライムのほうが良いまである。


「もっと、コンパクトに早く振ってみてくれない? もっと当てに来る感じで。ホントの剣ならそれでもダメージは入るわけだし。」

「なんだとっ!?」

 ロカの表情が険しくなる。


 いかん。

 ついお願いしてしまった。

 こういうの良くない。


 俺がいらんことを口にしたせいで頭に血が登ったのか、ロカの攻撃はますます粗野で大雑把で分かりやすくなってしまった。


 こりゃダメだ。

 レベル上げにならん。


 ロカが俺に当てようと木刀をむちゃくちゃに振り回わしてくる。

 とりあえず、俺はしばらくロカの攻撃をかわし続けると、大振りし過ぎてバランスを崩したところを狙ってスパンと一本入れた。


「そこまで!!」

 ガスが試合を止めた。


「勝者、ケーゴ!!」


「「「おおおおおおおおおおおお」」」

 まさかの番狂わせに広場から歓声が上がった。


 ちらりと観客席をみるとお姉さま方がめっちゃ喜んでくれている。ちょっと嬉しい。

 先輩たちの喜びっぷりを見てマッゾがイラついているのが、なおのこと嬉しい。

 スージーは驚き、カムカはちょっとホッとしたような表情を浮かべている。

 他の観客たちもスージーのように驚きを隠せていない。


 どうよ。

 神託の日にスキルが無かったからって何だい!


「ケーゴ、やった!」

 姉さまがたの所に戻ると、ヌサさんが飛び出してきて俺を出迎えた。

「強いじゃん! ビックリした! こんなに細い腕なのにあんなに素早く剣を触れるんだねぇ。」

 今度はマリアナさんがやって来てさりげなく俺の腕にボディータッチ。


 せやろ? せやろ?

 もっと褒めて下され。


「私が調整して時間を作ってやったおかけだな。ちょっとほっとしたさね。」

 カムカも寄って来て俺をねぎらう。

「きっちり優勝してくれよ?」

「任せてください。」

 俺はカムカにどや顔でほほ笑む。

「まあ、次はリックかレックだからな。気負わずやんな。今こんだけ戦えんなら、仮に次で負けても来年には村を出れるだろ。」

 今度はスージーが呑気に言った。

「俺、負ける気ないんで。」

「あっそう、期待してるよ。」

 そう言って、スージーは手のひらをニ、三度振ると人ごみに戻っていった。


 スージーは俺が勝てるとは微塵も思っていないご様子だ。

 実のところ先輩方もそこまでは期待しちゃいないだろう。

 もしかしたら、カムカだけが本気で俺の勝ちを祈ってくれてるのかもしれない。




 さて、次の対戦。

 優勝候補のNo.1、とNo.2。

 激戦となるかと思われたリックとレックの戦いは意外にもすんなり片が付いた。


 試合開始5合ほど打ち合った後、あっさりとリックがレックの木刀を跳ね飛ばした。

 よく考えたらレックは斧使いだから、木刀での試合じゃリックに勝てるわけがなかった。

 でも、どうせだったらリックを疲れさせて欲しかったぜ。


 ともかく、次の天王山。相手は職業兵士であるリックに決まった。


 次の天王山、負けるわけにはいかない!


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