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アルトロワ王子

 少しだけ気まずくて、少しだけ温かい沈黙の中、俺たちは遺跡を進んでいく。


「ケーゴ、なにか聞こえる。」階層を上がったところで突然ルナが言った。

 ルナに言われて俺も耳を澄ます。


「助けてくれ〜。」


 なんか聞こえた。

 通路の先で誰かが助けを求めているようだ。

「誰かいるの!」

 声は少し先の分かれ道の向こうから聞こえている。

 メルローから教えてもらったのとは逆側の道からのようだ。


「行ってみよう。」


 罠かもしれないが、かといってほっとくわけにはいかない。

 俺たちは順路を外れて声のする方に走った。

 通路を進むとすぐに声の主のもとにたどり着いた。


 そこは牢がいくつも並んでいる牢獄のような場所で、そのうちの一つの牢に俺と同じくらいの年齢の男が閉じ込められていた。


「おお、エデルではないか! 丁度良かった、私を助けろ!」

 男は鉄格子を掴んで顔を近づけると、ルナを見ながら

嬉しそうに叫んだ。


 今度はルナの知り合いか。

 あれ?

 俺もこいつ見たことある。


「どうしてこんなところにいるの!? アルトロワ殿下!?」ルナが驚いて叫んだ。


 そうだ!

 こいつ、コルドーバに行く時、ルスリーに嫌味言いに来た王子だ。


「新興宗教のアジトに侵入して内情を探っていたのだが、捕まってしまったのだ。」

「王子殿下自ら?ひとりで?」ルナが困惑した様子で訊ねた。

「頭の悪い愚か者め。王子かどうかなど関係なかろう。偉い人間が自ら率先して下々に見本を見せることこそ重要なのだ。ルスリーには考えもつかないだろうがな。はっはっは。」


 あ、これ部下が迷惑なやつだ。

 自分の仕事しろ、自分の仕事。


「もしかして、エルダーチョイスさんの剣を持ち出したのはアルトロワ殿下?」ルナが尋ねた。

「そうだ。」

 エルダーチョイスの剣がここにあるの、こいつのせいかよ。

 お前のせいで5万倍が34億倍になったとか言ってたぞ?


「なんでそんな勝手なことするんですか。」ルナはめずらしくご立腹のようすだ。

「勝手? なにを言っているのだ。私のためにあるような剣を隠したルスリーこそ身勝手であろう。あれがあれば私も一特も強くなれたというに。つまりルスリーは国家の成長を阻害したのだぞ。」

「それでも、人のもの盗んじゃダメなの。」ルナは相手が王子なのも気にせずアルトロワ王子を叱った。

「ともかくここを出せ。この新興宗教の事を王都に報告せねばならん。」王子はそう言って掴んでいた鉄格子を猿のようにゆすり始めた。「お前の紫輝幻武ならこの程度の鉄格子壊せるだろう?」


 ルナがこっちを見る。

 俺は小さく首を振った。

 こんなん絶対罠じゃん。


「古代の遺跡の物は紫輝幻武でも斬れないの。」ルナは答えた。

「そうか・・・。ならばこれを持ってってくれ。教団やアジトの情報がまとめてある。」


 アルトロワ王子はそう言って一枚の小さな紙切れを取り出すと鉄格子の間から差し出した。

 ルナは鉄格子に近づいてアルトロワ王子の取り出した紙を受け取ろうとした。

 だが、ルナがその紙を掴んでもアルトロワ王子は紙を離そうとしなかった。


「?」

 ルナはアルトロワ王子を不思議そうにながめた。


「ルナ! そいつなんかおかしい。洗脳されてる!」


「二特に手柄なんて渡すかぁ! 【転移】!」

 

 アルトロワ王子が叫んだ瞬間、

 ルナとアルトロワ王子はすっとかき消えた。



***



 ルナにはなにが起こったのか分からなかった。


 ルナの目の前の景色が突然変わった。

 いやらしく笑うアルトロワ王子だけが目の前にいる。

 間にあった鉄格子はなくなっている。


 ルナは困って振り返るが、ケーゴは居ない。

 今まで遺跡の中に居たはずなのにここは外だ。

 辺りは緩やかな丘陵地帯。オーンコールの周りの森ではない。

 いつの間にか夜になっていて夜空に月が出ている。

 月に照らされて、ルナにとって見慣れた三角形のシルエットが遠くに見えた。


「わっはっは! 僕の頑張って掴んだ情報を掠め取ろうったってそうはいくか!」アルトロワ王子は勝ち誇って高笑いをした。「これで教団の秘密を暴いたのは僕の手柄だ。二特のでもお前のでもないのだ!はっはっはっははは!」

「どういう事なの?」

「俺が先に場所を突き止めたからって、教団をやっつけて手柄を横取りしようとしてただろ! そんな見えすいた作戦を俺が許すわけ無いだろ! こすっからいルスリーめ! 抜け駆けしようったってそうはさせないぞ。」

「なにを言っているの? ここはどこなの?」ルナは訳が分からない。

「馬鹿め! ここは王都のすぐ外だ! お前が手柄をかすめ取ろうったってもう間に合わん! 今から教団について僕が報告して、僕と一特が褒められるんだ!」アルトロワ王子は叫んだ。


 ルナは拳でアルトロワの顔面をぶん殴った。

 王子は奇妙な悲鳴を上げて地面に転がっていった。


 ルナは地面に倒れ伏したアルトロワに向けて、生まれて初めて怒りにかられて怒鳴った。


「もしケーゴになんかあったら絶対に許さない!!」

 


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