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作戦開始

 さて、善は急げと言うか、そもそも俺の所在がバレちゃってるのでここは危険だし、マディソン商店にこの人数で立てこもってもいられない。

 情報もそろったので、俺たちは作戦を一気に進めて相手の根城の攻略に乗り出すことにした。


 リックとガスにスージーや村長たち非戦闘員をカリストレムまで避難させるようお願いして、残りの面子で敵の本拠地オーンコールを目指す。

 ミュールによればオーンコール山の麓に遺跡があり、その遺跡を塞ぐようにして信者たちが城を建設しているらしい。

 ミュールの提示した本拠地の場所もピーちゃんの情報と食い違うところはなかった。


 一番の問題はオーンコールに居る信者たちだ。

 オーンコールの彼らの本拠地には信者が1000人近く常駐しているらしい。

 まともに相手にするには、ちょっと数が多すぎる。

 そして、彼らは洗脳された普通の市民でもある。正面切っては戦いたくない。


 だから、俺達の優先目標は魔導具の破壊だ。


 そうすればこの1000人は元に戻る。

 魔導具を壊す方法があるかはわからないが、ハウルオブハートとソウルプリズムは別装置なわけだから、その2つを切り離すだけで効果を途切れさせることができるはずだ。少なくとも効果の重ねがけはできなくなる。


 ミュールからの情報によれば魔導装置は城にではなく遺跡の中にあるらしいとのことだ。

 魔導装置が遺跡で発掘されたから、それを塞ぐように城を作ったらしい。


 これもたぶん本当だ。

 ソウルプリズムがアルファン時にどこに置かれていたかは知らないが、場所は最初から設定されていて移動不可だったと聞いたことがある。実際効果範囲もずっとオーンコール周辺だけだった。

 だとしたら、少なくともソウルプリズムは彼らの作った城にではなく遺跡の中にあるはずだ。

 

「1000対35人か・・・」

 本拠地に歩みを進めている間に、先の展開が不安で思わずため息が出る。

「まあ、実際戦えるのは3割くらいって話だし大丈夫だよ。」すぐ後ろからルナが俺を元気づけるように言った。

「それでも300対35だよ。」


「もしかしたら、アルソンフ=エリックが来てくれるかもしれない。」エリーが呟いた。


「アルソンフ=エリック?」

 誰?

「私が騎士を目指したきっかけだ。」

「え!? エリーさんアルソンフに会ったことあるの?」ヤミンが驚きの声を上げた。

 ヤミンも知ってるのか。

「まあな。騎士になる前に一度、命を助けてもらったことがあるのだ。」

「ルナ以上の猛者だ。生ける伝説だな。私の目標で憧れだ。」

「え? あ、うん。そのとおりなの。」ルナがなんか奥歯に物が挟まったような返事を返した。


 ちなみに今日は通常ルナ状態だ。

 エデルガルナは隠密に向かないらしい。

 ちなみにOLルナになると戦闘力が下がるんだそうな。

 コスプレってすげぇな。


「え? アルソンフって誰? 有名な人?」

「この国がピンチになるとさっそうと現れる自由騎士だ。なんでケーゴはいろんな事を知ってるのにこういう事を知らないのだ。」

「カリストレムの時にも来てたって噂があるみたいだよ。」ヤミンが言った。

「その真の姿は誰も知らない。私も顔までは見ていない。声は若い男の声だったが。」

「そうなんだ。」

「彼は常に厚ぼったい鎧と兜をまとっているのだ。そして紫輝幻武の持ち主だ。しかもルナと同じく二本貸与されている。しかも、背中から火を出して空を飛ぶのだ!」


 え!?


「それって・・・」

 俺とヤミンが思わずルナを振り返る。

 振り向くとルナが必死な顔で口の前に人差し指を立てた。

「彼は王国の機密事項でもあるらしいからな。」話を聞いていたヴェリアルドが横から話に入ってきた。

「機密事項と言うか、王国でも正体を掴んでいないのだ。」エリーはそう言って遠くを見つめた。「今回もふらりと助けに来てくれるかもしれない。」

 

 王国というかルスリーの機密事項だったんだろうな。

 でもそのコスプレ衣装、クリムマギカで壊れちゃったからなぁ。


「戦争が始まりそうだし、そっち行っちゃうかも、なの。」ルナが白々しく言った。

「確かに、そうかもしれん・・・。」エリーがしゅんとなる。「ぜひとも、もう一度お目にかかりたいものだ。」

「きっと、そのうち会えるよ。」

 俺はがっくりと肩を落としたエリーを慰めながらルナを見る。後でちょっと話さんとな。




 5日の行程を経て、俺たちは敵の本拠地に到着した。

 幸い敵の拠点は森の中にあるため、俺たちは見つかりにくいところに隠れて様子をうかがう。


 木々の向こうに見える城は思っていたよりも大きかった。簡素だが石造りの城壁まである。

 城はカリストレムの大聖堂くらいの高さがありそうだ。

 城壁のその手前にはバラックのような家々がいくつか立ち並んでいる。

 城に収容できない信者たちが住まっているのだろう。


 ここで俺たちは選抜隊とおとり部隊に分かれる。

 ヴェリアルドたちカリストレムの冒険者がおとり部隊だ。

 彼らにつられて敵の主力が外に出てきたところで俺たちが城に侵入する。

 

 ヴェリアルドたちにはここで可能な限り敵をひきつけてもらう。

 戦う必要はないが、戦力差的には危険な役目だ。


「ヴェリアルドさん、無茶はしないでください。」

「心配するなって。ちょっと痛い思いはしてもらうかもしれないが殺したりはしないよ。」ヴェリアルドの心配をしたのに、違う感じの答えが返ってきた。

「お前は甘すぎる。」カシムも何故か俺が相手の心配をしているかのように返事を返してくる。

「いえ、そういうことではなく、相手は思っているより手強いと思いますから、無茶はしないでください。俺にとってはヴェリアルドさんたちのほうが大事ですから。」

「だから、心配するなって。」

「俺たちだって、お前たちのことが大事だ。だから、お前の知り合いかもしれん奴を殺したりはしないよ。」

「・・・ありがとうございます。」

「じゃ、ちょっくら行ってくるわ。」

 ヴェリアルドは軽くそう言うと冒険者たちに指示を出し、笑顔で別れていった。


 俺たち選抜隊は少し離れたところからみんなの様子を見守る。

 選抜隊はリコ、ヤミン、エリー、俺、ルナの5人だ。


 心強い。

 

 そして俺、今更すごい事に気がついた。

 転生モノにありがちなハーレムパーティーだ、なんかこれ!

 なってみると意外と普通!


 ヴェリアルドたちは城に向けて特攻するような真似はせず、俺達から離れた目立ちにくい場所に簡易的な砦を建設し始めた。人数に対してだいぶ大きめのものを作っている。

 砦は完璧なものではなく、幻術系の魔法できちんとできているように見せかけてあったり、一部はただの布に枝や葉をつけてごまかした壁だったりしている。

 どんどんと建造されていく砦に教団側も気がついたらしく、わらわらと黒装束たちが城から出てき始めた。


 ふと、砦の近くから魔法の炸裂した音がした。

 おそらく教団側の放った斥候を誰かが追っ払ったのだろう。

 俺達から見えないところで小競り合いはすでに始まっているようだ。


 砦はみるみる完成していき、黒装束たちの陣も整っていく。


「釣られたのは200人ってところか。」エリーが砦の前にできあがった陣を見ていった。

「城の入り口の前にも50人くらいが陣取って警戒してるね。」ヤミンが木の上から城の入り口を観察しながら報告した。「城壁にも見張りが出てる。」

「城の中にはまだ50人くらいは居るってことだな。」エリーが言った。

「充分だ。行こう。」


 俺たちは戦いが起こりそうな地域を大きく迂回して、城から離れた相手からは見えない場所にやってきた。


「【トンネル】!」ルナが地面に向けて呪文を唱えた。

 名前そのまま、土にトンネルを開ける魔法だ。


 ルナの膨大な魔力を用いて、ここから地下に魔法のトンネルをほって城壁の下をくぐって城の裏庭に抜ける作戦だ。

 ここ一月程度で作られた建築途中の城だ。【トンネル】対策なんか間に合っているわけがない。

 ただ、トンネルは石壁を通せないので城の中までは入れない。遺跡の中までも無理だろう。アルファンの世界なら【トンネル】で簡単に入れる遺跡なんてあるはずがない。


 モコモコと気持ち悪く地面が動き、目の前の土が盛り上がる。

 そして人がギリギリ一人進んでいけるくらいの細い穴が地下に下っていくように口を開いた。


「できたの。」ルナが言った。

 魔法のトンネルは無事に貫通したらしい。

 ルナの額には汗が浮かんでいる。

 結構大変な仕事だったらしい。


「急ごう。」

 魔法の効果時間が過ぎるとトンネルが消えて生き埋めだし、出口を誰かに見つかったらこれまた大変だ。


 俺たちはルナを先頭にトンネルを進み、最後は真上に向かって開いた小さな穴から這い出るように外へと出た。

 そこはミュールの情報通り、城の裏庭の狭い死角で、建築用の資材や粗大ゴミのようなものが野放図に置かれていた。

 一番心配していた敵との遭遇もなかった。


 なぜこんな場所をミュールが知っているのが甚だ疑問だったので罠の可能性も疑っていたが、無駄な心配だったようだ。

 ピーちゃんに上空から見張って貰ったり、エリーとリコでルナに防御系の魔法をかけまくったり、リスクヘッジを幾重にもしていたんだけど肩透かしに終わった。


 俺たちの出てきた辺りの城はまだ建築途中で、完成していない城壁が一部雨よけの布で覆ってある。

 これも事前にミュールから教えてもらっていた通りだ。


 俺たちはその布の端を目立たないように切り裂いて城の中へと侵入した。


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