脱イップス
謎の集団との戦いが始まった。
相手は統率の取れた動きで俺を囲い込んでくる。
ちょっと戦って、すぐに分かった。
こいつら、結構強い。
まずいかもしれない。
敵は自分の戦い方を心得ている上に【祝福】と【戦意高揚】のバフでレベルに上乗せがついている。
二特のみんなも戦い方は憶えてきているしレベルもだいぶ上がっているが、なにせ敵のほうが数が多い。
「【回復】!」
さらには司祭が回復までしてくる。
敵の中でも棍棒を持ったひときわ大きい男が飛び抜けて強い。
リコとエリー二人がかりで対応していて倒せていない。
30レベル以上あると見た。
リコとエリーが攻撃を当ててはいるのだが大男は全く怯まない。
かなり深く切りつけられたりもしているが、まるで痛みを感じていないかのようだ。
司祭に回復してもらえるとは言え、攻撃を受けるのが怖くないのだろうか。
大男の攻撃は乱雑だが、ときおり使ってくる技スキル【暴風・棍棒】は広範囲の攻撃で間合いの中にいると【回避】が難しい。しかも巨大な棍棒は【防御】ではいなせないくらいにダメージが大きそうだ。
リコやエリーのような剣士や騎士とは相性が良くない。
ヤミンが遠距離から攻撃しようにも敵の魔法使いの【ウィンドバリア】の魔法で矢が使えなくなっている。
まさに棍棒の間合いの外から一撃で仕留めることのできる俺の出番のはずなのだが、俺の鞭は未だ人間相手には伸びてくれない。
完全に役に立たない俺。
【回避】型の俺は大人数は得意ではないので、敵を引きつけておくこともできない。
「ケーゴ、鞭で範囲外から攻撃を!」事情を知らないエリーが俺に向かって叫ぶ。
「ケーゴ、私たちは大丈夫だから、無茶はしないで。【回避】に専念!」リコがエリーの頼みを取り消す。
「リコ、私たちだけではキツイ! ここは素直に助けを・・・」
「黙ってて!」リコが叫ぶ。「ここは私たちだけで耐えないとだめなの!」
「だが・・・。」
「ケーゴ! できることを考えて! いま来ても足手まとい!」リコは俺に叫んだ。
「ケーゴに向かって足手まといだなどと、世迷言を!」
エリーには申し訳ないがリコが正しい。
今の俺が行っても何もできない。
でも、二人は押されている。
騎士たちも必死で耐えているが押され始めている。
綺麗だった陣はすでに崩れてしまい、もはや乱戦に近い。
せめて、少しでも俺が引き付けないと。
「【乱舞】!」
【乱舞】なら当てられる。
騎士団を囲んでいる連中にむけて鞭の嵐が襲う。
「かまうな、こいつは強くない!」
敵の一人が叫んだ。
敵は完全に俺の【乱舞】を無視する。
俺の【乱舞】じゃまともなダメージは行かない。
それが解ってるから、俺もこのスキルだけは鞭を触れるのだ。
「【暴風】!」
大男が再びリコたちに向けて棍棒を振り回した。
「【ガード】!」
リコが体勢を崩していたエリーをかばう。
「馬鹿者、リコ! 無茶だ。」エリーが大声を上げたがもう遅い。
二人分の打撃がリコを襲い、ものすごい音が響いた。
「大丈夫!」
かろうじて立ち続けたリコが鼻から出てきた泡混じりの血を拭う。
「ケーゴ! 頼む!援護を。」
エリーの救援を求める声をかき消すようにリコが叫んだ。
「大丈夫だから! ケーゴは自分のできることをしてっ!」
「【ウィークポイント】!」
ヤミンから大男に魔法が飛ぶ。
水色の印が大男の色々な所に現れた。
「ヤミン!」
リコの叫びにヤミンが叫び返す。
「甘えんなケーゴ! 私はリコも大事だっ!」
ヤミンにだって余裕がない。
接近戦を挑まれ、弓で無理やり応戦している。
くそっ!
ダメでもやらないと!
「【牙突】!」
大男の弱点に目掛けて鞭を振るう。
が、鞭は大男のギリギリで角度を変えあさっての方向に逸れる。
・・・くそっ
何で当たらない。
「いつまで時間がかかっているのです! さっさと殺してしまいなさい!」司祭が遠くから叫ぶ。
「【剛打】! 」
大男は完全に俺のことは無視して、手負いのリコに襲いかかる。
「【ガード】!」
今度はエリーがカバーに入るが庇いきれない。
ついにリコがダメージで尻もちをついた。
「終わりだ。死ね! 【剛打】!」
大男の棍棒がもう一度振り上げられた。
「リコっ!」ヤミンの悲鳴が響く。
また。
脳裏にクリムマギカの光景が蘇る。
『嫌っ! 痛い!』
『嫌だ、嫌だ!!』
『嫌っ!! 助けて!』
また、俺は何もできないで、
『助けて!』
そんなのは、嫌だ。
「助けて! ケーゴっ!」
リコの声が耳に届く!
絶対に守る!!
リコを泣かせるやつはぶっ殺してやる。
「【尖突】!」
死ねっ!
俺の鞭が、リコにとどめを刺そうとしている大男の青く光った首筋を貫く、
ダメだ!
「曲がれぇええええっ!」
エルダーチョイスの鞭はリコにとどめを刺そうとしている大男の無防備な首を貫く寸前、急激に向きを変えると、男の鎖骨の際をつらぬいた。
男がリコに振り下ろそうとしていた棍棒が手から落ちる。
途端に、ウィークポイントの印が形を変え始めた。
なんだ?
今までの青い印の他に緑色の印がいくつも現れた。
それらは、うねうねと動いて状況によって場所を変えている。
急所ではない。
あそこなら死なないのか?
「【スナイプ】!」
鞭で大男に現れた緑色の印を貫く。
鞭は吸い込まれるように大男のふとももを貫き、大男は崩れるように膝をついた。
「「ケーゴ!!」」
リコとヤミンが歓喜の声を上げた。
「ヤミン、強いやつに【ウィークポイント】! リコはヤミンをカバー! エリーは司祭を制圧して!」
「「「はいっ。」」」
俺の指示に3人が元気よく返事をして動き出した。
「【ウィークポイント】!」
ヤミンが近くの敵の一人に【ウィークポイント】をかける。
今度もうねうねとした緑色の印が見える。
動いていたって当てるのは余裕!
「【スナイプ】!」
俺の鞭が一閃し、一つの軌道で敵の両手をいっぺんに貫いた。
相手はたまらず武器を落とす。
さらに、自由になったリコが、ヤミンに迫っていた敵を倒す。
人に鞭が振るえるなら、もう怖くない。
「【牙突】!」
確かな手応え。
鞭の先がヤミンに迫っていたもう一人の足を貫く。
足を貫かれた相手は転倒してのたうち回る。
「くそ! 鞭がやばい! 鞭に気をつけろ!!」
両手を貫かれた男が大声で仲間に叫ぶ。
俺の目の前の敵たちが一斉に慌て始め、統率された攻勢が乱れ始めた。
「【ウィークポイント】!」
「【尖突】!」
俺はヤミンが【ウィークポイント】をかけた敵を次々と敵を無力化していく。
敵の数が減ってきて動けるようになった騎士団のみんなが攻勢に出始めた。
「アタッカー! 前へ!」
カサンが大声を上げて前に踏み出す。
「サポートはアタッカーに援護魔法を!」
サリアがそう言って目の前の仲間に援護魔法をかける。
「ディフェンスはガードのため各アタッカーに続け!」
ゼルマノールの指示にディフェンダーが盾を構えてアタッカーといつでも代われるように進む。
騎士たちは見事な連携で攻勢に出始めた。
形勢は一気に逆転した。
みんなが敵を蹂躙し始める。
二特弱くないじゃん。
そして騎士たちはあっという間に敵を制圧してしまった。




