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ケーゴvs二特

 さて次は俺の番だ。

 多分、エルマルシェとだろう。


 カサンの醜態を途中からずっと黙って見ていたエルマルシェだったがその表情は怒りに満ちていた。

「なさけのない・・・。」

 血が出てきそうなほど歯を食いしばりながら、みんなに聞こえないように小さく唸ったのが近くにいた俺にだけ聞こえていた。

 

「殿下! 最後は私自らが相手をすることをお許しください。」

「無論じゃ。だから強いと言うたじゃろ。もう後がないから本気でやれ。ワシをがっかりさせるな。」

「ぐ・・・・。」

 ルスリーの厳しい言葉にエルマルシェがものすごい目で俺を睨みつけた。

 ほんと煽るのやめて欲しい。

 

「あの・・・俺、鞭しか使えないんですけど。鞭でいいですか? もちろんそちらは普段の武器で構いませんので。」

「構わん。好きにしろ。」

 そう言ってエルマルシェはくるりと振り返って、自分の準備のために会場を後にした。


「ケーゴ、頑張ってね。」リコが無邪気に応援する。

「すごい強そうだよ。一対一で勝てそう?」ヤミンが心配そうに訊ねてくる。

「うん、多分。へんなスキルを持ってなければ。」

「ケーゴだって【ゼロコンマ】持ってるじゃない。」

 最近、リコの【ゼロコンマ】に対する信頼が厚い。

 何かと言い訳に使いすぎた。

「でも怪我しなかったらいいからね。」

「うん、ありがと。」


 と言っても、ルスリーからの依頼の手前、ここはきっちり力の差を見せておかないと行けない。

 でないと、多分エルマルシェは俺たちの言うことを上っ面でしか聞かないだろう。

 ここは徹底的に自慢の鼻をへし折っておこう。


 俺はエルダーチョイスのではない方の鞭を準備する。

 怪我させないように先端についている重りの尖った先っぽを布で巻く。

 とりあえず振った感じなんとかなりそうなので、これで戦うことにする。


 うーん、【クリティカル】しちゃうとこの鞭でも結構ダメージいっちゃうんだろうけど、どうしようかな?


 鎧姿に着替えたエルマルシェがやってきた。大きな盾も持っている。

 フルプレートではないが軽い感じの鎧を身につけている。

 おそらく、今までのリコやヤミンの戦いを見て本気で戦うと決めたらしい。

 彼女としてはもう負けられない。

 相応の気合が顔に出ている。


 互いに試合場の真ん中に進み出て向かい合う。


「お前は鎧はつけないのか?」

「【回避】型なので、もともと鎧は最低限なんです。こういった試合だとつけてないほうが強いと思いますので、手加減しているとかではありませんよ。」

 拗ねられても困るので、念のために伝えておく。


「ふん。私より弱ければコルドーバで二特を率いるのは私だ。泥臭い冒険者ごときが二特を率ることなどあってはならないのだ。」


 だいぶ気負ってるなぁ。


「寸止めしても、止めんでも構わんが、決定的な一撃を決めたほうが勝ちじゃ。戦闘不能になってもここなら回復は可能じゃから心置きなく戦うが良い。」

「はっ!!」

 エルマルシェが気合のこもった返事を返す。


「それでは、始めっ!」


「すぐに終わらせてくれる!」

 エルマルシェが盾を目の前に俺に向かって突っ込んでくる。


「【閃・両門咲き】!」

 エルマルシェは一瞬で間合いを詰めると、俺に左右から同時に攻撃を浴びせてきた。

 攻撃は鋭い。

 たけどルナやこの間の栗毛の冒険者にくらべると大したことない。


 後ろに飛ぶこともなく、両側からの同時攻撃を縫うようにかわす。


「なっ!? これを、かわすだと!?」

 エルマルシェが驚きの声を上げて追撃を控える。


 とりあえず少し間合いを取る。

 シールド系の攻撃スキルはどれもこれも極めて避けにくいのだ。


「ちっ! まぐれが!【連撃】!」


 素早い連続攻撃が俺を襲う。

 良い攻撃だが、俺の【回避】の敵ではない。


 30レベルと聞いていたが、技スキルを使ってこれってことは攻撃系のスキルはそこまで高くないと見た。

 わざわざ鎧を着込んできたということもあるし、どちらかと言うと防御系のスキルが高いのだろう。

 【クリティカル】で防御系の効果を無効化できる俺とはすこぶる相性がいい。


「【連撃】! 」

「【一閃】!」


 エルマルシェは休むこともなく、次々と技を繰り出してくるが、当たらない。

 攻撃だけならリコのほうが強いかも知れない。


「くそ、これもかわすか。こざかしい小僧め・・・・。」エルマルシェが苛立たしげに呟いた。


 攻撃については大体わかった。

 回避に専念しなくてもかわすのは簡単そうだし、防御側の実力を見させてもらおう。


「くらえ! 【斬・絶切】!」

 エルマルシェが大技を繰り出してきた。

「【カウンター】!」

 エルマルシェの攻撃に合わせ、俺の鞭が大きな盾を回り込んでエルマルシェを襲う。


 が、

 鞭はエルマルシェの手前で彼女を避けるように軌道を変えた。

 鞭はエルマルシェにかすりもしない。


「なっ!?」

 完全に当たったと思っていた俺は思わず驚きの声をあげた。


 何をされた?

 かわされたのか?


「危なかった。そこそこはできるようだな。だが、残念だが、私が鞭の攻撃に慣れていなかった今のいっちゅんが最後のチャンスだっ!」

「いっちゅん?」

「///////」

 こいつ気持ちが前掛かりすぎて噛みやがった。


「おのれ! おのれっ! 【連撃】! 【連撃】!」

 エルマルシェが顔を真っ赤にして襲いかかってくる。

 かわすのはなんのことない。何ならパワーもなさそうだ。


「なぜだ! なぜ当たらない!」


 エルマルシェの攻撃疲れで少し隙ができたところに再び攻撃を繰り出す。


 だが、今回も盾を回り込んだ鞭はエルマルシェを嫌がるかのようにあらぬところを通過していった。


「なんでっ!?」

 何をされた?

 エルマルシェを見るも何かしらの魔法やスキルを使った様子はない。

 それどころか、俺の攻撃なんてまるで無視だ。

 常時効果を発揮するようなパッシブなレアスキルでも積んでいるのだろうか?


 今度はこちらから仕掛けてみる。


「【牙突】!」


 うおい!

 鞭の先があらぬ方向に飛んでいく。


 ??

 なぜだ?

 なぜ当たらん。


「ケーゴ?」

 リコが異変を感じて外野から声をかけてきた。

「大丈夫。」

 とは言ったものの何をされているのか全くわからない。

 

「何が大丈夫か! 舐めるなっ! 【閃・両門咲き】!」


 エルマルシェの繰り出してきた攻撃を難なくかわすと、ステータスを開く。


「【乱舞】!」

「くっ!」


 エルマルシェが盾を目の前に鞭の嵐を耐える。

 これはいつもどおりいけた。

 クリティカルの場所もみつけた。


 ちょっと痛いかもだけどごめんなさい。


「【尖突】! 【スナイプ】!」


 俺の鞭の先がエルマルシェの盾の防御の甘いところを的確に貫く。

 と、思いきや、鞭の先は命中寸前に急激にホップして、エルマルシェと見当違いの方向に向かった。


「【連撃】!」

 エルマルシェが俺の攻撃終わりをねらって反撃を仕掛けてくる。


 危ねえ。

 さすがに気を抜いてたら当たる。


「くそ、ちょこまか逃げ回ってばかりで! 逃げるばかりが貴様の戦い方か。」

「あ、いや。攻撃はしてるんですが・・・。」

「あんな闇雲に振り回した攻撃など避けるまでもない。」


 あれ?

 エルマルシェのスキル効果じゃないの?

 もしかして本人も認識してないパッシブスキルとか?


「【連撃】!」

「【斬・絶切】!」

「【閃・両門咲き】!」


 次々と繰り出してくるエルマルシェの技を俺がかわす。


「【牙突】!」

「【スナイプ】!」

「【牙突・三段突き】!」


 俺の技も何故かエルマルシェに届かない。


 お互い攻撃を外し合う世紀の凡戦。

 泥沼のしょっぱい試合がダラダラと続く。


「貴様! いい加減に諦めろっ!」エルマルシェが叫ぶ。

「そっちこそ、それ何なんですか!」俺も俺の鞭が当たらない理由を知りたい。


 攻撃が無効だというのならこれならどうだ。

 あの大きな盾を持った相手に効くか分からんが。


「【束縛!】」


 俺の鞭はエルマルシェの頭上を通過し、巻き付く相手を見失ったままグルグルと二回って戻ってくる。

 

 これも当たらんの?


「貴様っ! 嬲るか!!」

 エルマルシェは今の鞭の動きにバカにされたと感じたのか怒りの叫びを上げた。


 なんで怒るん?


 リコとヤミンが異常に気づいたのか心配そうな顔で俺を見ている。


「そこまで!」

 ルスリーが大声で試合を止めた。


「殿下!!」エルマルシェが俺から間合いを取ると、うらめしげにルスリーに言った。「まだこれからです。」

「これ以上やっても互いにちっとも当たらん。いつまで湿っぽい試合を見せる気か! 少なくともケーゴが弱くないことは分かったじゃろ、文句言うな!」


 ルスリーが頭ごなしに命令し、この互いに不完全燃焼の試合は引き分けに終わった。


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