リコvs二特
次はリコの番だ。
今度は普通に剣を持っての模擬戦だ。
だだっ広い運動場のような場所の真ん中に石灰で四角くラインを引いて区画を切ってある。この四角の中が試合場だ。
リコとカサンという女騎士が試合場の真ん中で向かい合っている。
カサンはベリーショートの背の高い騎士だ。
整った顔だちのせいか、観客の女騎士たちから悲鳴のような声援が上がっている。
黄色い声援に対抗するかの如く、ヤミンが一人でリコリコ騒いでいる。
てか、ホントに女の子だよな?
中性的すぎる。
リコは動きやすい格好に着替え、訓練用の木刀と小さな盾を受け取った。
そして、試合会場の真ん中で二人は向かい合った。
互いに木刀と盾以外はなし。服装も軽装のままだ。
リコが背の高いイケメンと向かい合ってるみたいでなんかムカつく。
「騎士に対して剣を使った勝負を挑もうなどと、思い上がりも甚だしい。」カサンがリコに向けて言った。
「え? えーと、私、剣しか使えないので・・・。」
リコちょっとドギマギしとらん?
「剣を使っての戦いであれば我らが真に鍛錬し得意とする分野だ。無名な冒険者に負けるわけもない。サリアにしても弓はそもそも騎士の本分ではないのだ。さっきの勝負を真に受けてもらっては困る。」
「はい。お手柔らかにお願いします。」
なんか上から目線でめっちゃ言われてるけど、リコは自然体。
というか勝てるとも思ってないな。
ここ数ヶ月で急激に強くなったから、気持ちが全くついてきてないんだろう。
「うむ。貴君は5レベル。私は20レベル。始めから相手にならない。せいぜい気楽にかかってくるといい。」リコのわきまえた返事にカサンは気分を良くしたようだ。
「カサンは先日【剣】がついに20になりました。」エルマルシェが得意げにルスリーに報告した。「今や私とエデルに次ぐ実力者です。」
あ、うん。
リコの勝ちだな。
一番最初に話題に登ったのが20レベルの【剣】ってことは他のスキルはもっと低いってことだ。
【剣】はもちろん、【打撃】から【回避】から【防御】から【盾】から何から、基本的な技能が全部20レベル超えのオールラウンダーリコの足元にも及ばない。
ついでに言うと、リコはクリムマギカで優秀?なエルフたちの指導のもと、いろんな魔法まで憶えてきてる。
有り余る才能が羨ましい。
「では、双方構え。」
ルスリーの号令に二人が盾と剣を構える。
「始めっ!」
ルスリーが手を上げた。
スコン。
両者が一歩踏み出して間合いが詰まったと思った瞬間、リコの木刀が相手の木刀をはたき落とした。
【武器落とし】すら使ってない。
さてはこのカサンって子、【剣】以外は、たいしてスキル持ってないな?
「えっ?」
「えっ?」
あまりに唐突で早い試合の終了にカサンだけでなくリコも戸惑っている。
周りもあまりに一瞬の決着に声も出ない。
「勝者、リコ!」
ルスリーが勝どきを上げた。
「ちょ、ちょっとお待ち下さい。」カサンが泡を食ってルスリーに取りすがる。「いまのはちょっとしたミスです。つい、剣が手元を離れてしまっただけなのです!」
「や、やっぱ、そうですよね。」リコもホッとしたように同意する。
「ミスだろうが何じゃろうが負けは負けじゃろ。本当の戦いではやり直しなどきかんのじゃぞ。」ルスリーは冷たく言い放った。
「さ、さすがにこのような急性な勝負の突き方では互いの強さがわかりませぬ。」エルマルシェが慌てて割り込んできた。「油断をしたカサンは悪うございますが、今回の目的は互いの実力を把握することにございます。改めてきちんとした再戦をお願いします。」
まあ、何度やっても同じだろうけどな。
ルスリーがちらりと俺の表情を見て取って、ニタリと片方の口角を上げた。
悪い奴だ。
「仕方ないのう。リコ、構わぬか?」
「はい。」
「では、泣きのもう一回だけじゃぞ。」
二人は再び試合場の真ん中で互いに向き合う。
「始めっ!」
スコン。
先程の再現VTRのように全く同じ光景が流れた。
カサン、剣の握りが浅いねん。
場の空気が再び凍りつく。
「・・・・えーと。」リコが本気で困っている。
「どうする、もう一度やるか?」
ルスリーがちょっと不機嫌を装ってカサンに訊ねた。
「馬上ならば! 馬に乗っての戦いならば勝てたのです! 騎士とは馬上の生き物なのです。地べたを這いつくばって戦うのは本分ではないのです。」カサンは必死で言い訳をする。
「なんとも、口達者な・・・。」
ルスリーが呆れたように首を振った。
芝居がかってるので多分これも様式美なのだろう。
「すまんが相手してやっては貰えんか?」ルスリーはリコに言った。
「えっ? 私、馬に乗れないんですけど。」
「なあに、振り落とされないようにまたがって相手を殴るだけだ。」
「さすがに本職の方には勝てませんよ?」
「かまわんよ。練習のつもりでやるといい。」
ルスリーは邪悪な笑みを浮かべながら、騎士の一人に命じた。
「ヘイワーズを呼んでこい。カサンも自分の馬をもってくるといい。」
しばらくすると、カサンがめっちゃきれいな白馬に乗って戻ってきた。
毛並みもバッチリでめっちゃ品のある馬だ。
「ははは、騎士の戦いとは馬を飼育するところから! 見てください殿下! ビクトリアと私はまさに人馬一体でしょう。馬上の勝負は馬との絆が物を言うのです。」カサンが勝ち誇ったようにルスリーに言った。
今度はヘイワーズが見慣れた生き物を二匹連れてやってきた。
「ヘイワーズさん。こんにちは。」リコがヘイワーズに頭を下げる。
「お久しぶりです。」ヘイワーズも丁寧に頭を下げる。馬車にさえ乗ってさえなければ、めっちゃいい人だ。
「カルトス、バルトスも久しぶり。」
マッチョ馬たちはリコを憶えていたのか寄ってきて甘えるように首をすりつけた。
騎士団たちはヘイワーズの連れてきた馬っぽい何かを見て、口をあんぐりと開けて声も出ない。
カサンもエルマルシェも連れてこられた巨大な馬から目が離せない。
「ヘイワーズよ。この馬を騎馬として使いたいのじゃが、リコが乗っても大丈夫かの?」
「大丈夫です。カルトスもバルトスも頭がいいので一緒に死線をくぐり抜けた仲間は憶えています。それに彼らはリコさんのことが好きですから、気を使って動いてくれるかと思います。でも、こいつらに合う鞍なんてどこかにあったかなあ・・・?」ヘイワーズが頭をひねって考え始めた。
「うむ、鞍さえあれば、問題なさそうじゃな。それではカサンちょっとそのまま待っとれ。」
「ちょっと待って! 馬が! 馬がずるい!!」
カサンが大慌てで叫んだ。
カサンの白馬ビクトリアはカルトスとバルトスにびびってしまって、尻尾をまたに挟んで一生懸命逃げようとしている。
馬上のカサンは大あらわだ。必死で後退りしようとしているビクトリアをカサンがこれまた必死に留めようとしている。
「ならば、お前もあの馬で良いぞ? どっちがいい?」
「えっ!?」
馬上のカサンが顔面蒼白になって、馬っぽいそれに視線を送る。
カルトスとバルトスがメンチを切るようにその視線を睨み返した。
「す、すみません・・・き、棄権します。」
カサンが青い顔で言った瞬間、ビクトリアはカサンを振り落として一目散に逃げ去っていった。




