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酔い

 メルローたちの後も、ドワーフやエルフがひっきりなしで押しかけてきて色々と話した。

 みんな避難所に数日閉じこもっていたと言うが、健康にはなんにも問題なさそうだ。


 俺はまだ、心のなかでは二人の冒険者を殺そうとした罪悪感と、リコとルナがひどい目にあわされた怒りとの折り合いがついてない。


 だから、この人たちを助けられて良かった。

 今はそう思うことにする。


 最初のうちは、みんなの感謝がとても俺の心の救いとなった。

 が、時を重ねるとともにみんなどんどん酔っ払い始めた。


 ドワーフたちが大騒ぎで自分たちの技術について喚いてくる。

 エルフたちはドワーフと違って大騒ぎはしないものの、誰彼かまわず滔々と自分の技術について語っている。

 こいつら、こんな饒舌だったのか。

 ドワーフもエルフも言いたいことばっか言って相手の話なんか聞いちゃいねえ。

 そのくせ、社交辞令でも「すごいですね」とか返事しちゃうとトークのギアを上げてきやがる。


 俺、しらふなのでめっちゃ辛い。


 主賓がいなくなるわけにも行かないので、隙を見て喧騒を離れ、上階につづく階段裏の地べたに隠れるようにして座る。

 ここなら大丈夫。

 とりあえず、ギリギリまでここに隠れていよう。


 と、俺が階段裏に座り込むやいなや俺の隣に誰かが座りこんだ。

 

「ケーゴ。」

「リコ。」

「えへへ、私も逃げてきちゃった。」


 リコは俺の隣に密着するように体育座りをした。

 近い。

 てか、ぴったりくっついてる。

 恥ずかしいの少しだけ右にずれてちょっと隙間を開けたが、すぐにリコが詰めてきたので諦めた。


「みんな酒癖悪いよね。」

「ルナちゃんほどじゃないけどね。」


 まじかよ。


「ねえ、ケーゴ? 今日元気ないよ。まだ頭痛い?」

 リコが俺の顔にぐいと近づいてきて覗き込む。

「あ、はい。」


 近い。

 ほんと、近いって。


 リコの端整な顔が目の前にある。

 リコってこんなに綺麗だったっけ?


 透き通った目が俺を見つめている。

 少しでも顔を傾ければ唇が当たる。


 やわらかなリコの吐息が俺の顔をなでる。


 とても酒臭ぇ。


 こいつ完全に酔ってやがるな。


「ケーゴのことが心配。」

 リコは俺の目を覗き込むのを止めると、突如俺の肩をかじかじと甘噛し始めた。

「ちょ!」


 嘘でしょ?

 ちょっと酔いすぎじゃね?


「噛んでいい?」

「駄目だよ! 何でよ!?」


 やばい、いつものリコじゃない。


「ケーゴは私のこと嫌い?」

「そんなわけないでしょ。」


 リコは再び俺の目をじっと見つめてきた。


 目をそらしたら悪いとか、負けだとかそんなことを思ってこっちも見つめ返すが、リコのあまりに無防備な視線に耐えられなくて目をそらす。


 ちょっとこの酔い方はまずくないか?

 女子耐性の薄い俺、ドッキドキやぞ?

 こんなんどこかの手練にやろうもんなら一瞬でお持ち帰りだぞ?


「リコさん・・・ちょっと飲みすぎですよ?」


 リコはわざとらしくほっぺたをふくらませた。

 可愛い。


「やっぱり噛んでいい?」

「やだよ! 何でだよ!」

 なんか口調がさっきよりもマジになっt、痛ったぁ!!


 ほんとに噛みやがった!


「リコっ!?」


 なんなん?

 どうしちゃったん?

 艶っぽかったり、可愛かったり、噛んだり。


「つまんない。」

 リコは拗ねたそう言って立ち上がる俺に背をむけた。


「リコ!?」

「寝る。」


 そう言ってリコはホールを出て行こうとする。

 あんな状態のリコを一人でうろつかせる訳には行かない。


 慌ててリコについていこうとして立ち上がった所を、今度はいきなり腕を掴まれた。


「ヤミン!?」

 ヤミンが俺の腕に抱きつくようにして体重をかけてきて、俺はたまらずもう一度座り込む。

「ちょっと、ヤミン! リコを送ってかないと。」

「大丈夫だって。リコは子供じゃないんだよ?」ヤミンが俺の腕を抱え込んだまま、ずいと俺の目の前に顔を近づけて目を覗きこんできた。


 近い。

 近いって。


 二人してか、と思ったが、ヤミンはそれほど酔っては無い様子。

 なんだったら香水でもつけてるのか、ちょっといい匂いがしてくる。


「でも、リコめちゃくちゃ酔ってて、誰かに絡んだらやばいって。」

「大丈夫。リコは見境なく誰かに迫ったりしないから。」

 ヤミンはリコを追いかけさせないようにするかのごとく、俺の腕にしがみつく力を強くする。

「リコは大丈夫だから、次は私のターン。」

「ターン?」

「リコが心配?」俺の質問には答えずヤミンが訊ねてくる。

「当たり前でしょ?」

「リコ、私と飲むとたまにああなるよ。」

「え?」

 そうなん?

「噛ませてるの?」

「アホか、噛ませるか!」

 ヤミンが俺の額にチョップを入れる。

「噛むのはお前だけじゃ!」

 ヤミンが俺を叱っt、痛ったぁ!


 こいつも噛みやがった!

 リコの噛んだところを上書きするかのようにヤミンも俺の肩に噛みついてきた。


 なんで?

 ここの料理がまずいから?

 俺の肩って何かうま味がするの?


「ちょ、なんで?」

「しらない。」

 ヤミンは拗ねたように言ったが、リコと違って立ち上がる気配はない。

 腕も離してくれない。


 ってか、リコが行ってしまう。

 

「リコばっか見ないで。今は私!」

「あ、はい。」


 ヤミンの迫力に飲まれて思わず返事。

 まあ、リコも部屋に戻るみたいだし、ここは亜人しかいないクリムマギカだから大丈夫か。


 大丈夫かなぁ?


「リコを信用してあげなさい。」

「あ、はい。」

 

 俺、そんな顔に出てる?


「リコって、いつも笑ってるけど、いろんな事我慢してるし、ちゃんとストレスも溜まってるからね?」

「そうなの?」

「冒険者なりたての時とか、酔っ払うと結構ひどかったわよ。」ヤミンがちょっと遠い目をする。

「そうなのか・・・。」

「田舎に残してきた幼馴染が心配でしょうがなかったって。」

「あ、はい。」


 俺のせいか・・・。

 あん時めっちゃ心配かけたしな。

 申し訳ない。


「昨日の戦いでも、リコひどい目に会いそうになって。きっとすごく怖い思いもしたと思う。ケーゴは気絶してたから知らないだろうけどさ。」

 すみません、バッチリ意識はありました。

「だから、きっとケーゴに甘えたかったんだと思うよ?」

 だからって噛むの?


「そして、最悪なことに・・・。」


 え?

 まだ最悪があるの?


「明日、リコは今日の事憶えてない。」


「ええぇ・・・。」

 まじか。


「というわけで、あんたは知らんかも知らないけど、アレもアレでリコだから。あんま子供扱いしてやるな。」

「はい。」

「でも、あんたが思ってる以上にリコは強くないから。」

「それは、まぁ。」

「私だって、そうだからね。」

「えっ?」

「すごく、怖かったし。」


 ヤミンは俺にしだれかかるようにくっついてきた。

 やっばこいつも酔ってるのか?


 ヤミンがさっき噛んだ俺の肩に顎を乗せて、俺のことを見つめてくる。

「いつもケーゴが助けてくれるよね。」

「あ、はい。え、いや、今回は違うんじゃ・・・」


 なんかすごくドキドキするんでやめて欲しい。


「ケーゴはリコのこと好き?」

 ヤミンが突然尋ねてきた。

「え? そりゃもちろん?」

「私のことは?」

「ヤミンのことも好きだよ?」

「・・・・つまんないの。」


 さっきからリコといいヤミンといい何なん?


「ま、いいよ。今日はこんくらいでも。」

 つまらないと言ったくせにヤミンはリコと違って何だかごきげんだ。


「おう、乳繰り合ってるところすまんが、ちょっと良いかの。」


 俺たちの隠れている階段裏にルスリーが数人の女騎士を連れてやってきた。


「る、ルスリー殿下!」

 ヤミンが慌てて俺から離れて立ち上がった。

「なんじゃ、茶髪の娘と懇ろなのかと思っとったが、獣娘のほうじゃったか?」

 ねんごろってなんぞ?

「お、王女殿下に気をかけていただけて嬉しいです。」

 ヤミンが直立不動で答えた。ガッチガチだ。

 やっぱ王女相手だとヤミンの態度が正しいんだろうな。


 痛っ。

 ヤミンが座ったままの俺を踵で蹴った。


 しぶしぶ立ち上がる。


「一応、お主らへの感謝の会でもあるから挨拶に来た。というか、技術バカ共から逃げてきた。」

 ああ、なるほど。ルスリーも大変で。

「此度はご苦労じゃった。お前たちが頑張ってくれたお陰でクリムマギカは二度も救われた。クリムマギカだけではない。ケルダモやその周辺の地域もお前のおかげで災を逃れた。王都に戻ってからたんまり褒美をくれてやるから期待しておけ。」

「ありがとうございます。」一応、かしこまって頭をさげる。


 これでようやくリコのひもから脱出だ。


「お前たちに頼んで良かったよ。」ルスリーはにっこりと微笑んだ。

「もったいないお言葉!」ヤミンが直立不動で軍隊にでもいるかのような返事を返した。


「と言うわけで、特にケーゴよ。ちょっと王都に戻ってからも頼まれて欲しいことがあるんじゃ。」


「はあ、なんでしょう?」


「王都に戻ってから話す。」

 ルスリーはそう言うと何故か俺ではなく隣りにいた女騎士の顔を見上げた。


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