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作戦会議

 ドヴァーズは夜のうちに貴族たちを連れて街を出た、と、ピーちゃんから連絡がきた。

 市民たちへの避難勧告は市庁舎の掲示板に紙一枚貼っただけ。

 多分、わざとだろう。

 自分が逃げるための囮にするのか、それとも犠牲を大きくして憐憫を煽りたいのか。


 そして、朝。


 日の出を待って、俺たちは街から1キロほど北に集まった。

 ヘイワーズさんも含めた俺たちと、ハルピエの魔法戦士たち16名。


 鎧や武器の手入れもばっちし。

 ハルピエから譲渡してもらった回復その他ポーション類の準備や、いざという時に使う馬車の準備もOKだ。

 現在、みんなで車座に座って作戦の最終確認中。


 この場所から北、ひらけた大地には畑が広がり、遥か遠くまで視界を遮るものはない。

 遥か彼方に朝日を照り返して、オーバーモースがゆっくりとこちらに向かってくるのが見て取れる。

 ゆっくりって言っても、うちの馬が早すぎるだけで、オーバーモースも健全な馬が駆けるくらいの速さでは走ってると思う。

 もうすぐ、ここにたどり着くだろう。

 それまでに、作戦をきっちりすり合わせしてレイド戦に挑みたい。


「まずはA班から先に出ます。」俺は作戦の確認を始める。「俺、ヤミン、リコ、ピネスさんの魔法部隊。」

「「はい!」」

「「おう!」」


 良い返事。


「ヤミンは基本的には【ウィークポイント】。ヤミンの【ウィークポイント】を受けての俺のクリティカルが今回のダメージソースです。」

「任せといて!」ヤミンが答える。

「ヤミンの魔力切れが一番もったいないので、MP回復のポーションはヤミン優先でお願いします。リコは俺のカバー。」

「うん。」

「ハルピエ隊は、オーバーモースの状態観察と俺たちへの防御魔法。鞭の届かない場所に弱点が出た時に俺たちを魔法でフォローです。それと、オーバーモースが尻尾を上げたら必ず笛を吹いて知らせて下さい。」

「任せろ。」


「次に、B班。ルナ、リコ、オキュテピアさんの魔法部隊。みなさんは、A班と交代で戦闘です。」

「うむ!」

「はい!」

「「おう!」」

「ピネスさんの話を聞く限り、オーバーモースはダメージを与えた者がいればしばらくそいつに粘着します。」

 いわゆるヘイトってやつ。

「昨日、ルナの攻撃であのレイドボスは振り向きました。多分、多少のダメージは入っていたんだと思います。囮役になって、街に近づけないようにしてください。」

「承知した。」エデルガルナ状態のルナが答えた。

「ただし、有効なダメージはクリティカルしないと入りません。街に寄せないことを主眼に動いてください。ハルピエ隊はオーバーモースの状態観察と戦場の照明担当をお願いします。基本夜間になりますが、こちらも尻尾の動きは絶対見逃さないで。」

「まかせてくれ。」オキュテピアさんが自信満々に応える。

 ハルピエがどっちかと言うとフクロウ寄りの鳥人でよかった。

「リコはルナがとちった時のフォローとして離れて待機。A班との掛け持ちだから無理はしないで。基本的にはB班のタイミングで睡眠と休息を取って。」

「うん。」


 レイドボスのHPなんて1日2日で削りきれるもんじゃない。

 街に近づけないためにはずっと戦い続けなくてはならない。

 だから、最少人数で可能で、死ななきゃOKの戦闘方法を考えた。

 幸い、ルナという強い手駒がいるし、俺はオーバーモースに対してすこぶる相性が良い。

 ドジさえしなければ永遠に足止めができる作戦を組んだつもりだ。


「次に、オーバーモースの行動への対処です。絶対に守ってください。」

 俺が声のトーンを落としたので、みんなが俺に注目する。


「オーバーモースが尻尾を上げたら大範囲のスタン攻撃がきます。絶対に離れてください。予備動作がありますので、ハルピエたちは見逃さずに、見つけたら絶対に笛を鳴らすように。みんなは笛が吹かれたらどんな状態でも離脱を。」

「分かった。」首から笛を下げたハルピエたちが頷いた。

「次に、俺とルナとリコ以外は、絶対にオーバーモースの正面にたたないこと。基本ブレスの範囲は前方のみです。これで遠距離のヤミンとハルピエたちは相手の攻撃を完封できるはずです。」

「承知。」

「了解!」

 ピネスとヤミンが返事を返す。

「ルナに関してはブレスは耐えて欲しい。連発はされないので、隙をみてハルピエ部隊がHPを回復。」

「承知した。」ルナが静かに返事をした。

「俺はブレスを耐えられない可能性があるので、どうしようもないときはリコが俺を【ガード】。その後離脱して回復を受けて。」

「うん。」

「通常攻撃は俺かルナを狙ってきます。これは自分たちで対処します。俺は基本避けきるつもりですが、万一食らった場合は、リコがハルピエを援護して回復に来てくれ。それと、万一、俺かルナが倒れてしまった場合はリコがオーバーモースを引きつけている間にヘイワーズさんが回収してください。」


 馬車はオープンカー状態に改造されて、気絶した人間を放り込んで飛び乗れるようにしてある。


「わ、私ですか・・・。」ヘイワーズさんが気弱な声を上げた。

「お願いします。」

 馬車に乗ってない状態のヘイワーズさんには不安しかない。

「ひいぃ。」ヘイワーズさんは情けない悲鳴を上げた。

「あと、A班、B班の交代時は結構ワチャワチャすると思いますので慎重にお願いします。」

 皆が頷いた。


「最後に。絶対に無理はしないで下さい。ケルダモよりもみんなが大事です。長老たちとも約束しまていますので、命を大事に。最善は尽くしますが、それより大切なことがあることを忘れないで下さい。以上です。質問は?」


「どうして、あれ程の相手に対して、弱いものを狩るかの如き作戦を立ててしまえるのだ。お前は。」ピネスが感心したように質問と言えないような言葉を投げかけてきた。

「観察ですかね? 戦いに観察ってすごく大事ですから。」

「それは分かっているが、よくもここまで系統的に作戦が立てられるものだ。」


 ゲーマーだったからな。

 ゲームで勝つためには実際の戦闘に向けた肉体的な努力は要らない。

 必要なのは行動のパターン化と反射神経、そしてミスらない集中力だ。

 特にRPGなんかじゃ、パターン構築とそれをミスらないのなんて基本よ。できなきゃKICKされる。

 そういう意味では、戦闘に関してはこっちよりシビアなのかもしれん。


「さて、先方もようやくこっちに到着するようです。」


 俺たちの話し合いの間にオーバーモースが俺たちからはっきりと形が解るところまで迫ってきていた。


 車座で座っていたみんなが武器を持って立ち上がる。


「それじゃ、ゲーム開始といきましょう!」

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