公証2レベル
「第2特殊騎士大隊、大隊長。エデルガルナ様の名のもとに命じます。その剣を収めて下さい。」
「な!? まさかっ! エデルガルナだと!? まさか金等級騎士が来ているというのか!」ドヴァーズが驚きの声をあげた。
騎士たちにも動揺が走る。
栗毛もピネスの喉元から剣を引いた。
ピネスは相手の強さを悟ったのか剣を引かれても動かない。血が出てきそうなほど歯を食いしばって栗毛の冒険者を睨みつけている。
リコの宣誓の後、ルナがヤミンに支えられて馬車から降りてきた。
ルナは血まみれの礼服から普段着へと着替えている。
・・・着替えたちゃったか。
「エデルガルナ様っ!?」ドヴァーズはルナを見て驚きの声を上げた。
一方のルナはドヴァーズの大声に驚いてヤミンの背中に隠れる。
さらには周りの騎士や冒険者たちを見回して、萎縮して小さくなって震え始めた。
礼服を失ったらこの子、ホントただのルナちゃんなんだよな。
「・・・どこをどう間違ったらコイツがエデルガルナ様に見えるんだ?」ドヴァーズが呆れたようにルナを睨む。
一瞬、本人だと認識してたやんけ。
「本当にエデルガルナさんです! ね。ルナちゃん!」リコはルナに同意を求める。
「ほ、ほんとうなの〜。」ドヴァーズに睨まれて怯えた様子のルナがリコの後ろからか細い声で言った。
「どう見たって本物でしょ。こんなそっくりさんがたまたま居るわけないじゃない。」ヤミンもドヴァーズに反論する。
「そっくりも何も、もうちょっと似せてこい。」ドヴァーズが呆れた顔でルナを見つめる。
ぶっちゃけ、この点については、俺、ドヴァーズ派。
謎の理論を持ち出す女子たちにガツンと言ってやって欲しい。
「どうして!? よく見てよ。どっからどう見てもエデルガルナさんでしょ。」ヤミンが食い下がる。
「ええい、私は北方国境守護隊の隊長だぞ! 王都にも出入りしているし、エデルガルナとも会ったことがあるのだ。そんな、似ても似つかない偽物で私を騙せると思うな!」
ほら見ろ。
「ちっ! これだから、見る目のない男どもは。」ヤミンがドヴァーズにむけて吐き捨てるようにつぶやく。
俺、今、一緒に撃たれたよね?
「そ、その・・・今はそんなにケルダモの街の兵隊さんは少ないの?」ルナが恐る恐る質問を口にした。
「ああっ?」ドヴァーズがルナを睨みつける。
「ひっ!」ドヴァーズの視線にルナがますます小さくなる。
「ここに居るのでほどんどだよ。」栗毛の冒険者がドヴァーズの代わりに答えた。
「冒険者も兵も南のレイド戦に出てしまってここには居ない。」ドヴァーズは何故か不機嫌に声を荒らげた。
てか、ここに居るのって30人くらいなんですけど。
これでケルダモの全戦力ってこと?
こりゃ完全に想定外。
想定外というか、アサルの想定通りってことか。
「ともかくだ! この少ない戦力で、ようやくどうにか時間を稼いだというのに、貴様らが余計な事をしたばっかりにすっかり台無しだ。」
「だからって他の村を囮に使うやり方は納得できません。」リコが前に出てきた。
「時間稼ぎだの、押し付けるだの、騎士団と冒険者ならあのモンスターを倒そうとしなさいよ!」ヤミンもリコといっしょになって食って掛かる。
「ああ?」ドヴァースが怒りの目でヤミンを睨みつけた。
「ホントはレイドボス討伐の功労点を稼げると思って叩きに行って、返り討ちにあったんだよね。」からかうように栗毛が言った。「だから戦力がこれしか残ってないんだよね。」
「うるさいっ! もともとはお前の発案だろうに!」
ドヴァースは隣であっけらかんと笑っている栗毛を怒鳴りつけたが、栗毛は意にも介していない。
「私たちでもあのレイドボスには太刀打ちできました。きっと倒す方法はあるはずです。」リコが進言する。
「太刀打ちだぁ? 何も知らない小娘が知ったようなことを抜かすな。」ドヴァーズがヤミンを見て呆れたように言った。
「オーバーモースには普通にはダメージが通らないんだよ。」栗毛の冒険者がせせら笑いながらヤミンに言った。「初心者は余計な口は謹んだほうがいいよ?」
「そんなことないわ。ケーゴはオーバーモースにガンガンダメージ与えてたもん。」ヤミンが俺を前に押し出して反論する。
「本当だ。この少年はあの化け物を我らの村から撃退したぞ。」ピネスも証言を付け足した。
「何だと?」
ドヴァーズが片方の眉を上げて俺のことを観察し始めた。
周りの騎士や冒険者たちも戸惑ったようにざわつき始める。
「小僧。冒険者カードを見せてみろ!!」
ドヴァーズはそう言うと、俺に近寄ってきて無作法に俺に手を伸ばした。
「は、はぁ。」
俺は冒険者カードを取り出してドヴァーズに渡した。
「ケーゴ、戦士・・・2レベル!?」
そういや、ぜんぜんカード更新できてないから、表記は登録当初のままだった。
「アホかっ! ただの初心者じゃないか。お前ごときがレイドボスにダメージを与えられるわけないだろうが!」
ドヴァーズはカードを俺の地面に投げ捨てた。
「ちょっと!」
俺のカード!
周りから呆れたようなため息と失笑が漏れる。
「まあまあ、ドヴァーズ隊長。彼らの言ってることは本当ですよ。」栗毛の冒険者がニヤニヤと笑いながらドヴァーズに話しかけた。
「は? そうなのか?」
「オーバーモースはクリティカルさえすれば誰でもダメージは抜けるんです。だからこの子がダメージを与えたのは本当のことなんでしょ。もちろん、レベル2程度のダメージでしょうけど。」
「この戦士はちゃんとあの化け物を苦しめていた。」ピネスが俺の肩を持つ。
「君らの実力から見たらね。」栗毛の冒険者は肩をすくめた。
「2レベルごときがクリティカルしたところで何の意味があるってんだ。そんなのゴミだ。」
「あのレイドボスを無駄に刺激しただけじゃねえか。」
「あーあ。俺にそのクリティカルくれよな。もったいね。」
周りの冒険者達が俺が2レベルだと分かった途端に色々言い始めた。
「せっかく、功労点稼ぐチャンスだったのに。」
「レイドボスに2レベルのダメージなんかで功労点つくのかよ。」
「それだっ!」
俺、今更気づく。
そういや、功労点ってHPの減り具合から算出してるはずだからHP観測する方法があるはずだ。多分。
「オーバーモースの残りHPを確認してください! HPを確認してもらえれば俺たちの言ってることが本当だって分かるはずです。観測できるレベルのダメージが入ってるはずです。」
多分、さっきの3発合わせればHPゲージが変化するくらいのダメージは入ってるはずだ。
「HP観察なんぞ王都の観測班がするもんだ。兵士すら十分におらんのに、レイドボスのHPを確認できる人間などいるわけあるか。」ドヴァーズが答えた。
「ええっ!?」
人が観察してるの?
アルファンみたいになんかシステム的に分かるもんじゃないの?
もしかして、今までの俺のダメージってもしかしてカウントされてないの!?
「ちょっと待ってよ!」
さっきまで、俺らの事をニヤニヤと嘲っていた栗毛の冒険者が突如真顔になってドヴァースに詰め寄ってきた。
「ドヴァーズ隊長、今の話本当?」
栗毛に続いて、彼の仲間らしい大男と太った魔法使いが俺達の包囲を放棄してドヴァーズに詰め寄り出てきた。
俺たちを囲んでいた騎士たちが、慌てて俺たちの包囲を緩めて彼らを牽制し始めた。
「な、何だ! お前たちまで!」ドヴァーズは怯みながらも大声で冒険者達を威嚇する。
「僕らはレイド戦の戦績が残せるからってことで協力してるんだけど? もう一度訊くよ? ダメージ観測ってできてないの?」栗毛の冒険者はドヴァーズを見上げながら尋ねた。
「そ、そうだ。」ドヴァーズは躊躇しながらも答えた。
すると、栗毛の冒険者は呆れたように言った。
「なんだよ、じゃあ、レイド戦なんて参加しても意味ねぇんじゃん。」




