ハルピエの戦士
オーバーモースから離れた俺たちは馬車を止め、ようやく一息つく。
オーバーモースが俺たちを追いかけてくることはなかった。
追いかけてこようとしたのかもしれないが、俺の打撃でのたうち回ってたから出遅れただけかも知れない。
あと、馬が速かったのでそもそも追いつけなかったって可能性もある。
辺りの安全を確認してから俺は馬車を降りた。
血まみれで意識を失ってしまっているルナをリコが介抱するためだ。服も血まみれなので、着替えさせる必要がある。
ルナは今だに意識を取り戻していない。
馬車を降りた俺はオーバーモースの動きを遠くから確認する。
敵は俺たちを見失っているようで、遠くのほうで行ったり来たりしている。
ハルピエたちの姿が見えない。彼らも逃げたのだろうか。
しばらくの間、オーバーモースはウロウロとした後、俺たちとはまったく別の方向へと進み始めた。
とりあえず、一安心、と思った所に上空から大きな羽音が聞こえてきた。
見上げると一人のハルピエが俺の元へと降りてこようとしていた。
筋骨隆々とした戦士っぽい出で立ちのハルピエだ。
ハルピエは俺の前に着地すると話しかけてきた。
「私はピネスという。助けてもらって感謝する。」
「俺はケーゴです。気絶した二人は大丈夫でしたか?」俺は訊ねる。
オーバーモースのスタン攻撃自体にはそこまで大きなダメージは無いはずだが、気絶した状態で上空から落ちたからかなり心配。
「分からぬ。仲間達に担がせて村に運ばせた。」
「無事を祈ります。」
「ありがとう。お前は素晴らしい戦士だ。あの化け物を苦しめていた。感服する。」
ピネスが大げさに俺の前で膝をついて、胸に手を当てて頭を下げた。
なんかの敬礼的な仕草なのだろう。
「いやあ、それほどでも。」
と、謙遜しつつ、顔のニヤケが止まらない。
あの戦闘時間でいい攻撃3発も入れたった。
特に最後の感触。うふ。
結構なダメージが入っているはずだ。
クリティカル連発できるキャラなんてそうそういないはずだから、このままだと結構な功労点ついちちゃうかもよ?
ぐふふ。ちょっと楽しみ。
「ところで、皆さんは何だって、あんなところで戦ってたのですか?」俺は心のニヤケをさとられないようにと、ピネスに訊ねる。
「もともとは街の連中があの化け物と戦っていたのだが、そのせいで化け物が我々の村に向かって来てしまった。」ピネスは答えた。「我々も街の連中に混ざって化け物と交戦したが、彼らは途中で撤退した。」
あれま。
「彼らも犠牲は大きかったので仕方がない。我々の戦士もたくさん死んだ。だが、化け物はそのまま我々の村に向けて進路を取り続けた。故、我々は村を守るため戦い続けるしかなかった。」
「え? 村は大丈夫なんですか。」
「化け物は進路を我々の村から変えたようだ。」そう言うとピネスは再び俺に頭を下げた。「村を助けて貰って感謝する。お前のおかげだ。」
「そうですか。それは良かった。」
とりあえず、今のところはオーバーモースが露頭に迷っててくれるのが一番いい。
後でケルダモの街の人やハルピエの戦士たちと一緒にレイド戦だ。
「我々の仲間を庇ってくれた女性は大丈夫か?」ピネスが心配そうに訊ねてきた。
「大丈夫。気を失っているだけみたいです。いま俺の仲間が二人で看ています。」
骨折とかの部位破壊もなさそうだったし、リコが【応急処置】を持っている。そのうち回復するだはずだ。
「とりあえずは無事に撤退できたし、オーバーモースの進路も村から外れたみたいで良かったです。」
「しかし、困ったことがある。」ピネスは眉を潜めて言った。
「困ったこと?」
「化け物はおそらくケルダモに向かっている。」
「え? マジ?」
俺が思わず驚きの声を上げた瞬間、遠くから怒声が飛んできた。
「そこのお前らぁっ!」
声の方を振り返ると十数騎の騎兵が数十人の冒険者を連れてゆっくりとこっちに向けて近づいて来ていた。
先頭の騎士が俺たちに向けて怒鳴りつけてきたようだ。
騎士は再び俺たちに大声を浴びせてきた。
「せっかく厄介払いしたオーバーモースを街に向かわせやがって! なんてことをしてくれたっ!!」




