初レイド戦
オーバーモースの脇腹に小さいクリティカルポイントが俺のムチを当ててくれとばかりに青く輝いている。
あの弱点の大きさなら、【クリティカル】なしだとしても当てることは容易い。
しかし、当てるだけでは多分ダメージは抜けない。【クリティカル】させなくちゃ駄目だ。
【クリティカル】するかは俺のスキルレベル頼み!
今俺の【クリティカル】は23.06059427レベルだが、エルダーチョイスの鞭のおかげで43レベルちょいの実力になっているはず。
そんなバカ高いレベルまで【クリティカル】上げたやつなんて、アルファン後期でもなかなかいなかった。
「【牙突】!」
ルナを気にしていて、完全に俺の事がおろそかになっているオーバーモース。
俺の伸びた鞭の先が吸い込まれるように弱点へと伸びる。
俺の鞭の先がオーバーモースの弱点の最も濃い部分を貫いた。
この感触!
一発目から来た!!
オーバーモースが暴れる。本気で痛がっているようだ。
効いてる!
いけるぞ!
レイドボス相手でもダメージが入ってる!
「すごっ!」
「なんで!!」
ルナの攻撃が通用しなかったレイドボスに俺の攻撃が通ったのを見てリコとヤミンが驚きの声をあげた。
しかし、どのくらいのダメージが入ったのか。
この世界では相手のHPバーが見えないのが痛い。
HPが見えれば、今の攻撃が効いているのか、それとも微々たるものだったのかが解る。
アルファンでは何度かオーバーモースがレイドボスとして登場していて、その時のプレーヤーたちの全体的な強さに合わせてレベルが調整されていた。
なので、このオーバーモースがどのくらいの強さかは分からない。倒すためにどのくらいの戦力と時間が必要か見積もりたいところだ。
ちなみに、アルファンだったら各プレーヤーがどのくらいHPを減らしたかがカウントされていて、後で表彰される。
この世界もパーティーごとに活躍度がカウントされて、表彰されていたはずだ。
突然やってきた集団がオーバーモースにダメージを与えたものだから、ハルピエたちは俺たちのことを驚きの目で見ながら何やら騒いでいる。
オーバーモースも振り返って、10メートル上から俺のことを見下ろす。
もう一度かましてやるぜ。
あれっ!?
脇腹からクリティカルの青い線がなくなってる。
ヤミンの憶えたての【ウィークポイント】では効果時間が短いのだろうか?
ぐぬぬ。脇腹だったのは憶えてるけど、起伏のないオーバーモースの形状のせいでどのあたりが弱点だったかもう分からん。
「ヤミン、【ウィークポイント】が切れた。もう一度頼む!」
「ケーゴ、頭だ! 耳の所に突然弱点が出てきた!」ヤミンが後ろから声をあげた。
目を凝らすと、獣の右耳の根元あたりにすごく小さな濃い青い丸が輝いている。
弱点、移動するのかよ。
500円玉くらいの大きさしかない。
伸びるとはいえ、鞭で狙うにはちと遠いか?
「ヤミン、狙えるか!?」
「やってみる。【スナイプ】!」
ヤミンは弓を引き絞って矢を放った。
が、駄目。
青い丸から30センチ近く離れた場所で矢は跳ね返った。
「ダメ!! 止まっててくれたらともかく、動いてたらきつい!」ヤミンが叫ぶ。
それでも、ヤミンだけが頼りか。
あの場所だと、魔法で伸びる俺の鞭でもギリ届くかどうかだ。
「【アースデヴァ】!」
おおう?
後ろから、ルナの声が聞こえたかと思うと、突然、大地が盛り上がって俺とリコを持ち上げた。
オーバーモースの顔面が目の前に。
これなら届く!
この距離なら10円くらいの大きさにだって命中させられる。
ただ、【クリティカル】には弱点に当てるだけじゃ駄目だ。
狙う場所と攻撃の向き、そして・・・
俺が攻撃をためらった一瞬、オーバーモースは大きく口を開いた。
口の中にエネルギーの光が集約する。
ブレス!!
しくった。
クリティカル狙ってちょっと躊躇しまったい。
一旦飛び降りて、回避しないと。
「ケーゴ、狙って!」
リコが俺の前に進み出た。
「リコ!」
範囲攻撃であるブレスはダメージが強力ではないと言えど、俺を【ガード】すればリコには2倍近いダメージがいく。
それに、普通のモンスターならともかく、相手はレイドボスだ。
オーバーモースの口からエネルギーが溢れ出す。
「大丈夫! 【ガード】!」
「信じる!」
俺は飛び降りるのをやめて、オーバーモースに向き直った。
「【ハイプロテクション】!」
ルナからリコに防御を固くする魔法が飛んできた。
「【エアシールド】!」
「【アーヴァスウィンド】!」
同時に、まわりのハルピエたちも俺たちに向けてダメージ軽減魔法を飛ばしてくる。
その直後。
オーバーモースのブレスが炸裂、俺たちをまばゆいエネルギーの光が包み込む。
リコの【ガード】を抜けたダメージが俺を襲う。
かなり痛かったが俺は無事。
リコも俺の前で仁王立ちだ。
そして、ブレスを撃ち終わって、隙だらけのオーバーモースの顔面。
【クリティカル】に必要なもの。
それは、狙う場所、攻撃の向き、
そして、タイミング!!
「【牙突】!【スナイプ】!」
即座に鞭をカーブさせて、オーバーモースの耳元の青い点を貫く。
完璧な手応え!!
オーバーモースがのたうつように暴れ回る。
弱点を刺し貫いた鞭がオーバーモースに引っ張られて、身体を持っていかれそうになる。
慌てて鞭を引き抜き、体勢を立て直す。
「リコ、ダメージは。」
「大丈夫。魔法の援護のおかげで殆ど無い。」
とリコは言ってはいるが、鎧のあちこちにすすが付き、インナーがところどころ焼け焦げている。
苦しんでいるオーバーモースをちらりと観察。
くそう。タイミング的には狙い時なのに弱点がさっきの場所からまた消えてしまった。
また、どこかに移動したらしく、どこに出たか見つけられない。
「ヤミン! 弱点は!?」
「ごめん! 見当たらない!」下から返事が返ってきた。
「何だって!?」
弱点が消えただと!?
「ハルピエたち! どこかに青い丸が見えないか?」
大声を上げてまわりを飛んでいるハルピエたちに訊ねる。
「我々からも見えない。」ハルピエたちから返事が返ってきた。
クリティカルできないオーバーモースなんて無敵やん。
オーバーモースが痛みの混乱から復帰する。
オーバーモースは高台上の俺たちを瞳のない目で睨みつけた。
「リコ、降りるぞ!」
「うん。」
リコと二人で、ルナの作り上げた高台から急斜面を滑り降りる。
そこを狙いうちしてきたオーバーモースの攻撃も回避。
転がるようにして体勢を立て直す。
と、オーバーモースの尻尾が持ち上がった。
分かりにくい合図だが、特殊な範囲攻撃で俺たちを気絶させてから大ダメージ攻撃へ流れるのコンボの予告動作だ。
やってて良かった、アアルファンタジー!
「大きいのがくる! みんな離れて!!」
俺はそう叫ぶと自ら先陣を切って逃げ出す。
リコとルナが俺の動きを見て、戸惑いながらもオーバーモースから離れる。
ハルピエたちも遅れてオーバーモースから離れていく。
と、オーバーモースがその場で尻尾を加えるように丸くなり、その場でコマのように高速回転を始めた。
やみくもな攻撃があたりを襲う。
逃げるのが遅れたハルピエたちが何人か巻き込まれ、二人が地面に叩きつけられた。
オーバーモースは回転を終えると、回転攻撃で気絶しているハルピエたちを踏みつけにかかる。
「【ガード】!」
ルナが慌てて駆けつけて間に入る。
「ルナ! その攻撃はダメだ!」
俺の叫びは間に合わない。
オーバーモースの踏みつけ攻撃に対し、ルナが二人のハルピエの前に立ちはだかった。
ものすごい打撃音が響き渡り、ルナが3人分の攻撃を受け止めきれずに吹き飛んだ。
「ルナっ!!」
オーバーモースは吹き飛ばされて倒れ込んだルナとハルピエたちを見下ろすと、とどめを刺そうとゆっくりと片方の前足を振り上げた。
ルナは完全に気を失っている。
ルナの真っ白な礼服には大量の真っ赤な血がにじんでいた。
俺は慌ててルナの元へと引き返し、オーバーモースとの間に割って入る。
二度は踏ませない!!
もう見つけたぞ!
「【カウンター】! 【牙突】!」
オーバーモースが足の裏に隠していた弱点を俺の鞭が貫通する。
【カウンター】の乗った強烈な一撃!!
自分自身の攻撃をくらいやがれ!!
オーバーモースはたまらず踏みつけを中止し、痛みに暴れまわる。
俺はすぐに振り返ると、リコと二人で意識を失ったままのルナを抱えあげる。
出血は酷いが命は大丈夫そうだ。
「引く! ハルピエたちも仲間を助けて! まだ生きてる!」
俺は上空のハルピエたちに叫ぶと、ルナを抱えて馬車へと駆け込んだ。
全員が乗ったのを確認すると、馬車は痛みに荒れ狂うオーバーモースから急いで逃げ出した。




