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レイドボス

 レイドボス戦というのはアアルファンタジーのゲーム内でも定期的に催されていたイベントだ。

 超HPの高い強力なボスに対し、何日もかけてプレーヤーたちがこぞって戦いを挑むイベントだ。

 パーティーごとにダメージがカウントされ、冒険者のランキングにも反映される。

 十傑を目指すなら参加必須とも言えるイベントだ。

 通常一匹、もしくはひとまとまりとして出現し、別のレイドボス戦と期間がかぶるようなことは無かった。野良レイドとかも聞いたことがない。

 でも、こっちの世界はそんなに甘いもんじゃ無かったらしい。


 ルナから助けを求められた俺は早速ヤミンとリコを呼び出した。

 食堂で緊急会議だ。


 つっても、たぶん話はすぐに終わる。

 俺はルナをケルダモに届ける気満々。

 あわよくばレイド戦に参入したい。リコやヤミンも反対はするまい。


「リコリコ、ヤミン姉、助けて欲しいの。」ルナが二人に懇願するように言った。

「どうしたの、ルナルナ。」

「あのね、ケルダモの街にレイドボスが現れたの。」

「「ええっ!?」」リコとヤミンが驚く。

「もっと南の方って話じゃなかった?」リコ訊ねた。

「それとは別のがでてきたんだって。」そう言ってルナは頬に両手を当て、困ったようにみんなを見た。

「二匹目!?」

「ちょ、ちょっと待って? ルナルナはなんでそんな事知ってるの?」ヤミンが尋ねる。

「ん? ピーちゃんに聞いたんだ。」

「「「ピーちゃん?」」」突然の新しい登場人物に俺たちは首をかしげた。

「そう。ピーちゃん。」そう言うとルナは大きな声で何かを呼んだ。「ピーちゃん! おいで〜!」


 え?

 もしかして、使い魔?


 食堂に入って来て大丈夫なやつだよね!?


 恐る恐る待っていると、パササパササと小さな羽音を立てて白い小さな文鳥がルナの肩に停まった。


「ピーちゃん。」ルナが文鳥を紹介した。

「ピ!」ピーちゃんが羽を一回はためかせて返事をした。


 普通に文鳥かよ。

 逆に意外。


「なにこれ、ルナルナの使い魔なの?」

「えへへ、可愛いでしょ。」

「かわいい〜。」

 リコが手を差し出すと、ピーちゃんはピョンとリコの指先に停まった。

 手乗りなのね。

「この子がレイドボスのこと教えてくれたの?」

「ピ!」リコの問いかけに文鳥が翼を広げて返事をする。

「うん。ピーちゃん、リコリコたちにも話してあげて。」

 ルナが文鳥にお願いする。

「ピ!」

 文鳥がリコの手から飛び立つと、俺達が囲んでいるテーブルの真ん中にちょんと陣取った。


「とりあえず、ルスリー嬢からの伝言を伝えればよいか?」


 しゃべった!?

 声、太っ!


「うん。」ルナが頷く。

「ピ!」

 返事はピなのか。

 ピーちゃんは再び野太い声に戻るとルスリーからのものと思われる伝言を話し出した。


「問題が発生した。ケルダモ周辺に新たなレイドボスが現れた。要点から言うと、エルナには現地の残存兵力と合流して、レイドボスの進行を少しでも遅らせて欲しい。」


「これ、もしかして王女様からの伝言?」リコが俺に耳打ちする。

「そうみたい。」俺もピーちゃんの伝言を邪魔しないように耳元で返事を返す。


「まさか、レイドボスが二体も投入されようとは思わなんだから、ケルダモ周辺には迎え討つ兵力がおらぬ。」ピーちゃんは野太い声で伝言を続ける。

 口調がルスリーだから、本当にそのまま繰り返してるのだろう。オウムか九官鳥みたいだ。

「一番近い戦略的武力は、エルナ、おまえじゃ。もともと把握していた南部アルマスタのレイドボス戦も始まったばかりだ。援軍にはかなりの時間がかかりそうなのじゃ。それまでの時間を稼いで欲しい。」


『今回の分はきっちり取り返させてもらうよ。』


 アサルの言葉が思い出される。

 ついに、容赦ない手段にでたってことか。

 てか、クリムマギカ戦も大概だったけどな。


「ケルダモってどこだっけ?」ヤミンがリコに耳打ちをして訊ねた。

「確か、クリムマギカの裏のほうだったと思う。」


 ヤミンが『裏』って言ってるのは、吹き飛ばされてないほうのことだろう。

 ケルダモは北部の農村地帯にあるそこそこ大きな町だったはずだ。

 たぶんここからそんなに遠くなかったはず。


「極炎無絶強靭鎧でケルダモまで飛んでくれ。充電ができていればケルダモの側の平原まではエネルギーが持つはずじゃ。ケルダモのレイドボスがどのようなものか分からぬが、無理をしない範囲でレイドボスがケルダモや周辺の村々に向かわないよう引きつけておいて欲しい。・・・以上がルスリー嬢からの伝言だ。」ピーちゃんが説明を終えた。


 アルファンではレイド戦で負けるとどういう扱いになるんだったっけか?

 アルファン内では倒せなかった事がなかったからよく覚えてない。

 確か、期間内に倒せないと、街が消滅するとかその手の罰則があったような記憶がうっすらする。

 アサルも俺たちを殺したいみたいだったし、放っといて良いものではないだろう。


「レイドボス相手に私一人じゃ自信ないし、それに、鎧が壊れちゃって飛んでいけないの。あっても、絶対着ないけど。」

 ドワーフおっさん鎧の事をちょっと思い出したのか不満顔のルナ。

「一緒に来て欲しいの。だめ?」ルナは上目遣いに俺たちを見ながら言った。

「俺的には一緒に行きたいと思うんだけど。何だったらレイドボス戦にも協力したい。駄目かな?」俺はリコとヤミンに提案する。


 アルファンの時はレイドボス戦はいろんなレベルのプレーヤーが参加できるようにそこまで殺意の高い設定にはされていなかった。

 もちろん、高レベルでも死ぬような攻撃や多人数を一気に殲滅できる攻撃が実装されているレイドボスもは少なくない。それに一週間近くプレーヤーにタコ殴りにされても死なないくらいのHPがある。

 だが、レイドボスの種類によっては、今のレベルの俺たちでも足止めするくらいの対応はできるはずだ。それに、レイドボスの独り占めはレベル上げのチャンスでもある。

 さらに俺はアルファンの知識で、レイドボスの手の内について良く知っているという情報チートもある。


 ルナもほっとけないし、ケルダモの町も助けたい。

 リスクはあるけど行かない手はない。

 もちろん、リコとヤミンの返答次第だけど、二人だって冒険者だ。レイドボス戦に心踊らないわけがない。


 ところが、リコとヤミンは困ったように顔を見合わせた。


 あれ?


「そうしたいけど、ちょっと無理じゃない?」

 リコのつれない返事にルナが悲しそうな顔をする。

「ちょっと待ってよ。もし敵わなそうな相手なら撤退すればいいだけじゃん。レイドボスってそういう感じの設定だよ?」

 『設定』とか言っちまった。

「でも、ケーゴ。戦う以前に、街の入り口が吹き飛んじゃったから、私達ここから出られないんだよ?」と、ヤミン。

「そ、そうだった!」


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