表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート8月2回目

俺は、腹が減っている

作者: たかさば
掲載日:2021/08/20

俺は、腹が減っている。


もう、丸一日、何も食べていない。


何か、食べたい。


森の中には果実は見当たらない。


何か、食べたい。


森の中には食べられそうな草は見当たらない。


何か、食べるものはないか。


森の中には食べられそうなキノコはひとつも生えていない。


何か、食べるものはないか。


森の中には喰らう事ができそうな命は一匹もいない。


森の中をさまよいながら、食えるものを探した。


森の奥に、大きな卵があった。


まだ産み落とされたばかりなのだろうか、生暖かい。


俺は足元に転がっている石を手に取り、殻を割って、どろどろとした中身をすすった。


俺は満たされて満腹になった腹を抱えて森を出た。


しばらく歩いてゆくと、寂れた村にたどり着いた。


少し腹が減ってきたことに気が付いた。


ガリガリのじじいをとっ捕まえて、食うもんを出せと脅した。


「この村には、今、食うもんはほとんどない。」


なにも食うものを差し出さなかったので突き飛ばしたら、動かなくなった。


まあまあ腹が減ってきた。


ガリガリのガキをとっ捕まえて、食うもんを出せと脅した。


「教会に行けば、薄いスープがもらえるよ。」


教会に行くと、ガリガリのばばあが出てきて薄いスープを差し出した。


一杯では足りないので、鍋ごと奪い、すべて喰らいつくした。


俺は満たされた。


「もうここには、食べるものはありません。」


膨れた腹をなでる俺に向かってババアが口を開いた。


「村の守り神様のお恵みがあるまで、食べるものはありません。」


食べるもののある場所を教えろと詰め寄った。


「村の守り神様がお恵みくださるのを、待ち続けるしかありません。」


教会の中を探したが、食べるものは見つからなかった。


「老いた村の守り神様が、お力をなくしてしまった為にこの村は飢えているのです。」


教会の中をほじくり返したが、食べるものは見つからなかった。


「間もなく、村の守り神様は復活されます。共にひもじい時を、乗り越えましょう。」


俺は食べるものを求めて、教会を後にした。


「食べるものはない。」


俺は食べるものを求めて、つぶれかけの家を後にした。


「食べるものなど、どこにもない。」


俺は食べるものを求めて、つぶれている家を後にした。


「食べるものを求めても、今、この村には、何もない。」


どこにも食べるものがない。


無気力で、目ばかりがぎらぎらとしている、ガリガリの村人たちしかいない。


無駄な体力を使うと腹が減る。

俺は動き回ることをやめることにした。


大きな井戸の前に陣取り、水を飲みに来るやつらに食べるものを持ってくるよう声をかけた。


だが、誰一人として食べるものを持ってこようとしない。

苛立ちが増してゆく。


「この村は守り神様のお恵みがあって成り立つ村なのだ。」


一人突き飛ばし。


「この村に生える草はすべて守り神様の食料であり、人が口にすると毒になる。」


二人突き飛ばし。


「この村の食べ物は、すべて守り神様によって持ち込まれたものだ。」


三人突き飛ばし。


「守り神様に糧をいただき、そのお礼として守り神様の食料を受け取っていただいているのだ。」


四人突き飛ばし。


「この連鎖を、止めるすべは…ない。」


五人突き飛ばし。


「もうじき、守り神様が復活するんだよ!」


ガキは、突き飛ばさなくてもいいか。


「若返ったら、たくさん食べものを持ってきてくれるんだよ!」


ガキのくせに、ガリガリだな。


「だから、我慢できるんだ!」


ガキのうれしそうな声が、耳にツンと…響く。


「守り神様は最後の力を振り絞って、生まれ変わるために旅立たれたのじゃ。」


今にもくたばりそうなババアが、にじり寄る。


「今頃、森の奥深くで、新しい守り神様がお生まれになっておるはずじゃ。」


今にもくたばりそうなジジイが、どこからともなく現れた。


「わしらは…守り神様が来るのを、待つしかないのじゃ。」


井戸の周りに、次から次へと村人たちが集まってくる。


「おぬしも、腹が減っておるのなら、共に待つがええ。」


迫りくる、村人たちが、気持ち悪い。


「貴重な働き手だ、おぬしもここで暮らすがいい。」


迫りくる、村人たちに囲まれる。


「ここにおれば、食うもんは守り神様が恵んでくださる。」

「ここにおれば、草を刈るだけでうまいもんが食える。」

「ここにおれば、苦しまずに死ぬことができる。」

「ここにおれば、病気もせずに長生きできる。」

「ここにおれば、人と争う事もない。」

「ここにおれば、金など必要ない。」

「ここにおれば、みな平等だ。」


俺は、よろよろと群がってくる村人どもをかき分けて、井戸の前から抜け出した。


「お兄ちゃん、どこ行くの。」

「お兄ちゃん、一緒に守り神様を待とうよ。」

「お兄ちゃん、守り神様のくれるご飯はおいしいよ?」

「お兄ちゃん、いかないで……私と一緒に遊ぼうよ!」


俺は、わらわらと纏わりついてくる子供を突き飛ばして、村から抜け出した。


あの、村は、おそらく。


村の守り神のふりをした、貪欲な何かの、畑。

村の守り神のふりをした、人を囲い込んだ何かの、餌場。


村の守り神は、おそらく。


神のふりをした、知恵のある何か。

神のふりをした、力を持つ何か。


神ならば、おそらく。


人に貢物をよこせとは言わないはずだ。

人に生きて行くための知恵を授けるはずだ。

人に食べ物を恵んで済ませることはしないはずだ。


俺は、おそらく。


老いた身を復活させるべく、若返りを計っていた魔物の卵を、食った。


おそらく。


あの村に、守り神は、もうやってこない。


俺は、一つの村を、壊滅させてしまうという事なのか。


俺は、大勢の人々の命を奪うきっかけを作ってしまったという事なのか。


俺の喰らった、あの巨大な卵が孵っていたら、村人たちは飢えずに生き延びることができたというのに。


俺が一時の空腹を満たした結果、村人たちは永遠に空腹を満たすすべを失ってしまったのだ。


罪悪感が、俺に襲いかかる。


ああ、俺は、なんという事をしてしまったのか。


頭を抱えながら、トボトボと森の中をさまよう。


やがて、日が落ち、辺りは真っ暗になった。


俺は、やるせない気持ちを抱えたまま、森の奥で、目を閉じた。


俺は、その夜、夢を見た。


空を駆け巡り、力のままに獲物を狩り、か弱い人間どもに施しをする夢だ。


なぜ自分はこんなことをしているのだろう、そんなことを思いつつ、老いてゆく夢だ。


俺は、腹が減って目が覚めた。


俺の腹が、けたたましく鳴り響いている。


森の中に、俺の腹の音がこだましている。


俺は、腹が減っている。


もう、丸一日、何も食べていない。


何か、食べたい。


森の中には果実はひとつも見当たらない。


何か、食べたい。


ふと空を見上げると、鳥が羽ばたいているのが見えた。


あれは、食べられるのではないか。


俺は、背中に力を込めて、ふわりと飛び立った。


俺は、あの鳥を、食べたい。


のど元にかみつき、一撃で鳥を仕留めた。


だが、俺のくちばしでは…肉を噛み下すことは、出来ない。


途方に暮れた。


巨大な獲物を口に咥えたまま、どうしたものかと策を練った。


ふと、地上を見下ろすと。


うまそうな草が密集しているのを見つけた。


近づくにつれ、うまそうなにおいが漂ってきた。


俺は、グルグルと腹を鳴らしながら、うまそうな草の生えている場所に降り立った。


「―――!!!―――?!---!!!」


何やら、小さな獣のさわぐ声が聞こえる。


俺は、腹が減っている。


俺は、腹が減っているのだ。


よだれだらけの食えない獲物を投げ出して、足もとに生えている草を無心に食い散らかした。


ここには、うまい草がたっぷりある。


ここに来れば、俺は飢えることはない。


時折小さな獣がまとわりつくが、特に気にはならない。


時折俺に襲いかかる巨大な獣がいるが、自慢のくちばしで仕留める事ができた。


邪魔な獣は、小さな獣がすべて処分してくれるので助かる。


ここは、とても暮らしやすい、いい所だ。


かつて飢えていたのが、思い出せないくらい…満たされている。


……俺は、飢えていたんだったかな?


……俺は、なんで飢えていたんだったかな?


長く生きていると、いろんなことを忘れてしまうな。


……そろそろ、若返らないといけないかな?


空の上から、森の中に迷い込む青年を見かけた。


……ああ、あいつがいい。


俺は、卵に姿を変えて。


森の奥で…捕食者を、待った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 飼育されている動物みたいな感じですね。 なんと言うか、餌として飼うには、心を奪うのが早い。そんな感じですね。
[良い点] なんかすごい感じました。うわあな感じ [気になる点] タマゴになっちゃった! ぶりっ [一言] 生存競争で良心もってちゃ敗北まったなし
2021/08/20 23:34 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ