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第二次関ヶ原の戦い その3

 関ケ原で伊達政宗の本陣を捉えた、と思った西軍の宇喜多(明石)、毛利隊を突然右(南)側からの銃撃が襲った。


「小早川金吾秀秋、義によって伊達政宗様に助太刀いたす!」


 松尾山から小早川秀秋率いる無傷の1万5千が突如として襲いかかってきたのである。


西軍の前進につられて本陣を前進させていた毛利輝元は思わず軍配を叩きつけた。


「馬鹿な!石田三成を遣わせて我らへの味方を約定したはず!急ぎ確認を…」


 輝元の指示を仰ぐまでもなく、前線を指揮していた小早川秀包は秀秋のところに誰何の使者を送っていた。それに対する返答は


「輝元は俺を関白に、というがそれは口約束に過ぎぬ。それ以前に伊達政宗殿は主上、摂関家、太閤秀吉様と折衝を行っていただき、俺を関白に推認する、というこの様に花押も入った正式な書を用意してくださったのだ。俺は先に言ったとおり『関白の座を約定してくれたもの』にお味方する。そしてそれは後でどうにでもなる口先だけの輝元ではないわ!」


戦場の混乱の中返事を聞いた毛利輝元は


「馬鹿な…なぜ伊達が…」


 と呆然とした。それを聞いた囚われの石田三成は


「伊達殿は先の主上の孫に当たるがゆえ、朝廷とは深き繋がりがありますからなぁ。毛利殿、それを考慮していなかったので?」

「この小賢しい奴め!」


 と思わず輝元は三成を殴り飛ばす。更に切り捨てようと太刀を抜いたが近習が


「殿!今はそれどころではありません!」


 と注進する。

「うむ。側面の小早川は侮れぬとはいえこうなれば正面の伊達を食い破れば良い!しゃにむに打ち破れ!」


 とむしろ正面突破の気概で前進を命ずる。


 そしてそれは毛利隊にとっては悪夢のような命令となった。

 

「馬鹿な。伊達の弾幕は先程とは違うぞ!」

「先程までのはたぶらかしであったのか!」


 と毛利の兵が悲鳴を上げるほど、伊達の射撃は間断なく降り注いだ。


「ここで我らの得意技、釣瓶撃ちが真価を発揮するというものよ!こう思う存分放てる機会はもうそうそうあるまい!諸君、好きなだけ銃撃するが良い!」


 と伊達の直卒を指揮する鮭延秀綱が指令し、雨あられと放たれる銃弾が毛利勢に死をもたらす。伊達の銃兵隊は戦列が放つと入れ替わり次列が攻撃するというまさに三段撃(以上に並列は並んでいたが)の状態でまさに弾幕の嵐となった。


そうこうするうちに松尾山から下ってきた小早川秀秋の隊は毛利勢より先に接触した明石全登の部隊を食い破り、すでに全滅寸前となっていた。明石全登はそれでも名将である。数少なくなった兵をなんとか取りまとめると、どうにか後方に離脱を図り、そのまま関ケ原から姿をくらませたのであった。


 側面を並走していた明石隊の全滅で、毛利はいよいよ前面と側面から猛攻を受けることになった。散々に打ち破られた軍勢は残る左(北)側への脱出を図る。


 しかしそこで待ち受けていたのは先に容易に破って逃げ惑ったはずの伊達の先鋒隊が兵を整然と並べて待ち受けている姿であった。


「まさか先の敗走はここに引きずり込むための…」

「御名答、しかし遅い。」


 と後藤信康の号令とともに逃げ惑う毛利兵に容赦ない銃撃が降り注ぐ


「どこへ行っても銃撃、銃撃!毛利秀元と吉川広家はどうした!敵の主力がこちらにある以上今動けば狸の背後を襲うことができるだろうに!」


 と毛利輝元は狼煙をあげさせた。


 そのころ、南宮山では狼煙を認めた山頂の毛利秀元から山麓の吉川広家のところに使いが送られていた。


「本陣から出撃命令が来ているが貴殿の部隊が障害になって出陣できない。戦況から見ても今動かないと手遅れになると思うが。」


 それに対する吉川広家の返事はぶっきらぼうなものであった。


「こちらは弁当を食べているところである。しばし待たれよ。」


 毛利秀元は何度も詰問の使者を送るが吉川からの返事は変わらず、時がたっても


「今茶を飲んでいる。」

「茶を飲み終わったので歯を磨いている。」

「エゲレス伝来のアフタヌーンティーの時間となったのでマフィンを食べなければならない。貴殿もどうぞ。」


 とマフィンという焼き菓子が届けられる事態となった。


「もう良い!俺が自ら広家を詰問…」


 と関が原を見た毛利秀元が見たのは関ケ原で破れて散々に追い散らされて逃げ延びる西軍の本隊の姿であった。


「これは…」


 と唖然とする毛利秀元のところに身なりを整えた吉川広家がやってきた。


「広家!これは…」

「我らはこれから出立いたします。秀元様も同道されよ。」


 なにはともあれこうなってはひとまず吉川広家に付き従う他なし、と兵を吉川隊に続いて出立させた。すると敵であるはずの徳川家康や豊臣秀吉の部隊の眼前の街道を進んでも攻撃されることはなかった。何が起こったのかはわからないがとにかく無事に撤退できることを安心しつつ、毛利秀元は吉川広家とともにそのまま西方へ退却することに成功したのであった。


 その帰り、どうにか小早川秀包に守られて脱出に成功した毛利輝元も自陣に帰ることに成功し、ひとまず軍議を開くことにした。


「ここはどこかに籠城して伊達らと交渉する他ありませぬ。」

「しかしこれだけの軍を収容するとなると。」

「大坂城しかないかと。」

「大坂城…外側だけ残って丸裸ではないか。」

「いや、ここはむしろその方が良いやもしれませんな。」


 と言い出したのは小早川秀包であった。


「大坂城なら徹底して抗戦するのはもはや不可能。単に陣を置いて和議の交渉をするのみ、という態度を示せるやもしれませぬ。」

「それに伊達らは毛利を滅ぼすつもりはない、との約定をいただきました。」


 と言い出したのは吉川広家である。


「貴様!そのために関ケ原で動かなかったのか!」


 と毛利秀元は逆上するが、輝元は


「おお、広家よ、それは誠か。」


 とむしろ喜んだ。その書状には『毛利の本領を安堵する』とあったのだ。


 ほとんど廃墟の大坂城に形ばかりの籠城をした毛利は伊達・徳川・豊臣連合軍と形ばかりの開城交渉を行い、領国に帰還していったのであった。


 なお、関ケ原で毛利に囚われていた石田三成は、敗戦の混乱とともに脱出を図ったが、その際、以前から折り合いの悪かった福島正則に発見され、危うくどさくさ紛れに殺されそうになったのを島左近に救われたのは別の物語である。


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