織田信忠、白石城を囲む
織田信忠率いる伊達討伐軍は陸奥白石城にたどり着いた。信忠の所に物見のものから伝令が入る。
「白石城はこれまでの城と違い多くの兵が立てこもっております。その数8千から1万。城将は片倉景綱!」
「政宗の片腕と言われる片倉景綱か。勝ったな。」
織田信忠は云った。
「勝ったと申されますと?」
滝川一益が疑問を呈した。
「うむ。伊達政宗が今動員できると考えられる人数はいかほどだ?」
「ざっと2万が良いところでしょう。確かに2万と8万ならこちらが圧倒的に優位でありましょうが、仙台城に籠もられると城攻めに欲しい5倍にはちと足りませんな。」
「それがだ、目の前の白石城に1万近くいるというではないか。」
「おお、ならば仙台に残るはやはり1万程度。」
「であれば彼我の戦力差で我らの勝利は間違いあるまい。」
「さすが信忠様にございます。」
「とはいえ、これだけの兵と片倉景綱を投入してきた、ということは。」
「奴らここが決戦の場と思っているのでしょうな。」
と割り込んできたのは森長可である。
「見れば白石城は外郭まできっちりと防備を構え総構えで迎え撃つ様子。なれば我らが包囲に手間取り疲弊した所で。」
「仙台城から出陣した後詰めが包囲した我らと決戦、という運びか。」
「御意。」
「後詰め決戦とはこれまた定番の戦法ですな。伊達政宗、奇策を弄するのが好みかと思っておりましたが、存外手堅い手ばかりを打ってくる。」
と顎を撫でたのは斎藤利治である。
「よし、ここはまず白石城を力攻めにしてみようではないか。」
と決した織田信忠の下知に従い、諸将は配置につく。白石城は裏手は沼と山になっており、そちら側は大軍を割いても上手く動かすことが難しかった。そのため表側の三の丸、外郭を取り囲むように諸将を配置する。大手門を破り乗り込もうとするは常に先陣を切る森長可であった。
「塀を飛び越え門の裏手に回って開門せよ!」
と命令を下すも濃厚な射撃に堀を渡り、土塁を登ることすら難しい。
「ぬう。これほどの銃を用意するとは。やはりここにいるのが伊達の主力か。」
森長可は愛馬百段にまたがり、大手門に突撃する。銃弾をかわしながら門の眼前に辿り着き、配下を鼓舞するも虚しく森家の兵の屍を増やすばかりであった。
織田信忠は伊達が予想以上に大量の鉄砲を投入している、という報告に苛立っていた。
「彼我の射程はほぼ同等。うかつに近づくと手持ち大筒の散弾に死傷者が増えるばかりです。」
「こうなっては一旦包囲に戻り、草のものに夜襲をさせよ。」
信忠は配下に命じ、本陣とした寺で一晩眠りについた。
翌朝、包囲している将兵からざわめきが漏れている。信忠は
「何の騒ぎだ。」
と問い詰めた。
「そ、それが……」
と言って近習が指差したのは大手門の前であった。そこには昨晩潜入させた忍びの首がずらりと並んでいる。
「黒脛巾組の仕業かぁ!」
力攻めも忍者の策も不発に終わった信忠は、一旦白石城を正攻法で取り囲み、開城を交渉する方針とした。城将は主将が片倉景綱、それに白石宗実がついていた。片倉らは政宗に対する忠義が高く、政宗の助命を条件とすれば開城に応じる可能性もあると考え、織田信忠は片倉景綱に降伏した後政宗相手に交渉を行って欲しい、という名目で開城を促していたのである。もちろんそれは単なる名目で信忠は開城したらしたで彼らを全て処刑するつもりだ。
開城交渉が遅々として進まない中、2週間ほど時が過ぎたある日、奥州の諸将が織田信忠の本陣を訪ねてきた。
「どうした。伊達を許せと言っても俺にはその権限はないぞ。」
と信忠は諸将にいった。それに対して最上義光が
「いえ。そのようなことは。信忠様、このまま白石城を取り囲んでいてもいたずらに時を過ごすばかりであります。そこで我が最上勢は米沢に向かい、留守居の家老、鬼庭左月斎を説得し、米沢を開城させようと思います。伊達家の事を第一に考える鬼庭左月斎ならば伊達家の存続を条件にすれば降るかと。さすれば伊達も後詰に割ける兵力も減りましょう。」
「おお、それは良い考えであるな。他の皆は?」
「南部信直ですが、私も登米城に向かい留守政景を下そうと。留守殿とは和賀・稗貫郡の事で普段から行き来があり親しいもので。」
「相馬義胤だが亘理の亘理元宗殿を降そうと思う。留守殿もそうだが政宗亡き後の伊達本家の家督を仄めかせば降るやもしれん。降らずとも援軍がいなければ我が相馬の騎馬隊が攻め落とすのみ。」
「ならば私は阿武隈川の南、船岡城に入って政宗を逃さぬようにいたしましょう。」
と最後に申し出たのは蘆名盛輝である。
「うむ。奥州の諸将が主力で伊達を倒したとなれば父上の覚えもめでたくあるまい。最上殿らはそれぞれ諸城の鎮圧に向かい、蘆名盛輝殿は共に仙台に向かい船岡を抑えていただこう。」
と信忠は決した。斎藤利治は
「それでは仙台城に相対するのが我らの兵のみとなりますが、一筋縄では行かない伊達政宗相手で大丈夫でしょうか。」
「白石から挟み撃ちにできないよう利治、お主に兵2万を預け白石の囲みを任せる。落とさず相手が動けないようにすればよいのだ。仙台が落ちれば白石は降るであろう。仙台には我が織田と北条、合わせて5万で当たる!敵1万ならば兵の装備・質共にまさる我らならば負ける心配はない!」
斎藤利治はなおも疑念を表そうとしたが、信忠の顔つきを見て引っ込めた。このような時に信忠に諫言を行っても受け入れられないのだ。
「では我々は出立いたす!目指すは伊達政宗が本城、仙台城!」
白石城を修築・拡大したのは奥州仕置後の蒲生氏郷の家臣、蒲生郷舎ですが
この話では白石氏と片倉景綱の差配で同等の拡張がなされていた、と思ってください。




