表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしもし、聞こえますか?  作者: クインテット
59/59

もしもし、聞こえますか?

 あれから数ヶ月が経った。

 全国区かと思いきやドラマは東京だけの放送だったし、どこかで期待していたが晴明(はるあき)は人気作家の仲間入りを果たすことはできなかった。

 リサは近所の英語教室で講師をしながら、妖怪の研究をしている。ドラマの放送が終わったあと、いつアメリカに帰るのか晴明が聞くと、なんで帰らないといけないの?と聞いたのだった。

 今では晴明がうたた寝をすると、いつも鬼やら女郎蜘蛛(じょろうぐも)やらのお面を被って叩き起こす。そんなことが日常になっている。


 ある日の昼下がり。

 晴明は(ひいらぎ)に「子供には分かりにくいですねぇ」と言われた言葉遣いを(やさ)しいものに直すという作業をうんうん言いながらやっていた。アンリをモデルにしたはずの主人公は、確かにあまりに老成したセリフばかり言っている。情景描写も写実的すぎて伝わらない、と指摘された。こんなことを言われたのは初めてである。

 どうしたもんか。晴明が右腕を上にして腕を組み直した時。


 ピンポーン。玄関チャイムの音だ。

「晴明!(あかね)ちゃんかもよ!」

 今度の授業の教材だろう、単語カードをはらはらと興奮気味に()き散らしながらリサが言う。

「は、まさか。

 大方(おおかた)こきちゃんかどっかの放送局の集金だろ。」

 晴明はそう言いながらも、走り出したリサを止めて、一度咳払いをした。ドアキーのツマミを握り、溜息(ためいき)()く。

 リサは廊下の角から頭だけ出している。

 ガチャ、と言う音が2つ。もう1つ。

 ドアが開いた。

「はい、鳴海(なるみ)ですが。」

「晴明さん、ただいま帰りましたー!」

 元気そうにピースする茜が、そこに立っていた。

「病院から帰る途中に、キレイなイチョウがあったんですよ!一緒に見に行きませんか?

 あれ、晴明さん。」

 晴明の目からは気づけなかったほどさりげなく、また静かに涙が流れていく。頭の奥がぼうっと熱くなり、耳も詰まった感じがする。

 茜はなにがしか言っているが、聞いてやれるような余裕は今はない。

 涙を拭こうともせず、口を半開きにしたままの晴明に(しび)れを切らし、茜が声をかけた。

「もしもし、聞こえますか?」

「ああ、聞こえてるよ。」

晴明は震えた声で応えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ