深夜3時のレビューをします
チッチッチッと、秒針が空気を切っている。
空気は抗わない。
ただ、音に道を譲っては、後悔するのだ。
ごめんよ、あんた。もう、そこには戻れない。と。
晴明の部屋は惑星である。夜だけは、月が嘯く。
僕は恒星だ。君たちを照らしてやるよ。
月は黄色いはずなのに、部屋は青白く照らされている。影が青い。
のんびりしすぎて、青になりきれなかったグレーが、茜の鼻の周りに優しく影を落とす。その顔はオフィーリアを彷彿とさせるが、どこか幸せそうなその輪郭は、とても死んだものには再現できまい。
一方晴明は、弔いすら足りないほど苦しげな顔をしている。
時々うわごとを呟いては、汗を滴らせる。
寝ている彼を苦しめているのは……。
「行かないでくれ。あかね……!」
晴明は這うようにして相手に追いすがる。
しかし、その歩調が緩まることはない。
晴明は半ば引きずられるように追いかける。
そこは白黒の世界。いや、白灰の世界。
真っ白な道―床はあるのだが、晴明と追いすがる相手が進むのはその真っ白な部分だけである―、鍾乳石のように聳え立つ灰色の柱たち。
近づいてくるのは光。
相手はそこに行きたいのだろうか?
「あかね?ははっ。」
道の終わりだ。滝のように、不意に終わりが訪れた。
その先は光だけ。そこで相手は立ち止まり、嗤う。
晴明が見上げると、そこには立っていた。
茜が。明音が。晴明が。
「あなたが救いたいのは、誰?」
次々と入れ替わる顔が。朧気な顔が。晴明を見下ろしている。
ぶううううと音がする。その人は、音がする方を見た。
「やめろ……。やめろよ……。」
音が近づいてくる。
晴明は立ち上がることさえ許されない。
「救いたい人の名前を言え。
1人だけ助けてやるよ。」
誰の声とも似つかない低い声で言う。その人は、晴明を睨むように見下す。
「あかね……。あかねだ!
俺は、あかねを助けたいんだ!」
ぶううううう。近づいてくる、モーター音。
ダンッ。冷たい空間に響く、衝突音。
「どっちのだよ。」
晴明に、晴明が呟いた。
「うわああああああああぁぁぁ!」
谷底に。光の谷底に、何もかも落ちていった。置いていかれたのは、晴明だけ。
ドラマか何かなら目が覚めるのだろうが、現実ではそうはいかない。晴明は光の世界にひとり残された。
そこで晴明は頭を抱えて考える。
何て言えば良かったんだ。
何をすれば良かったんだ?
あの時。
「お前は誰を愛してるんだ?」
いなくなったはずの声が反響する。
「牧明音か?空想の茜か?それとも、お前自身か?」
晴明は頭を掻き毟る。
ああ、ああ、うああ。漏れる声。誰が聞いているんだろう。
「俺は……俺は……。」
「晴明さん!晴明さん!」
世界がまた、光で満たされた。
「はぁっ!」
肺が急速に酸素で満たされた。
「はぁ……はぁ……。」
晴明は忙しく呼吸をしている。
「大丈夫ですか?
うなされていましたよ。」
茜はそう言って晴明を見つめた。さっきまでのような、敵意は感じられない。
「ええ……大丈夫です。」
茜はそれを聞いて、溜息を吐いた。晴明はビクついた。
もっと重大な事態の方が、茜は嬉しかったのかな。
「良かった……。」
茜はそう呟いた。
どうして疑ったのだろう。そうだ。俺が今。
「俺が今、救いたいのは茜だ。」
「えっ?」
晴明はそっと茜の目を見つめた。
「茜さん。
私は……。俺は、これから無理をするかもしれない。
でも、大丈夫だから。
自分の心配だけしてほしい。
俺も、牧も、過去の人間だよ。
大切なのは……。」
晴明は息を吸い込んだ。
「今だ。」
茜は数度瞬きをした。




