表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしもし、聞こえますか?  作者: クインテット
2/59

はじめまして

  晴明(はるあき)は、怖がりである。ただし、雷限定の、である。

子供の頃から腹痛を恐れず腹を出して寝ていた晴明だが、雷が鳴ればさっとへそを隠した。


  玄関前に置かれていた「木枯らし」は、彼の二畳(にじょう)の部屋にある。晴明は、ページをパラパラとめくった。状態としては新品に近く、何かメッセージが書かれているでもなかった。

「木枯らし」は、今の彼にとっては少し恥ずかしい、恋愛小説である。


  晴明は、臆病である。ただし、色恋限定の、である。

  晴明は高校時代より、色恋沙汰(いろこいざた)なしに生きてきた。彼は、その高校時代の自らをモデルに、「木枯らし」を書いたのである。思い出すのも苦痛でしかなかったが、書かねばならない気がしていた。彼は、食らいつくように出版社を回って、ようやくこの職を手に入れて以来、借金と小説で生きてきた。


  晴明は、寡黙である。ただし、この国限定の、である。

  今は、テレビ電話で世界中の人と繋がることができる。晴明も、利用者の一人なのだ。

  彼の友達は、アメリカに住んでいるリサという女性だ。彼女のおかげで英語はそこそこ話せるようになったし、噛み合わなくても楽しく話せる唯一の相手である。

 欠点を―晴明の気に入らないところを―あげるとすれば、彼女は、幽霊の類いを信じていた。そして、やたらとその話をするのである。話を合わせてやるのが、面倒なのだ。


  晴明が「木枯らし」を投げ出し、うとうとしかけた頃、しんとした部屋に鳴り響いた。

「ピンポーン」

  晴明は飛び起きた―つもりだったが、実際は水槽(すいそう)を泳ぐ金魚の速さだ―。晴明は廊下を駆け、鉄板製の防寒にはおおよそ適さないドアを押し開けた。


「はじめまして。」

  初対面の人と出会うのは何年ぶりだろう。

 いやいや、それにしてもヘンだ。普通、人の家を訪ねたら、用件を言うものだろう。


 晴明は、当惑した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ